小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

変換エンジンを一新したATOK 2017 for Macが来た!

※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2017年6月23日 Vol.131 <見ることと知ることの境界号>より

6月23日より、日本語入力システムATOKの最新版であるATOK 2017のMac版が発売される。すでにWindows版は2月から販売開始されているが、今年もようやくMac版が登場となった。本来ならば23日から購入できるはずだが、マルチデバイス対応のサブスクリプション版であるATOK Passportユーザーには21日頃からアップデートできたようだ。というわけで現在この原稿執筆時は22日だが、さっそく導入して使っているところである。

今回の目玉はなんといっても、10年ぶりに刷新されたという変換エンジンだろう。従来のエンジンは、AI技術を使っているとはいえ、それは人が入力し、変換した正しい結果をどんどん積み上げていって作られた変換アルゴリズムである。最近では前後の文脈からの推測変換も行なう事で、同音異義語の変換ミスはずいぶん少なくなってきた印象だ。ただ、連文節入力をしていると、変換の切り処を間違うケースが多かった。

個人的に頻度が高くて困った変換が、「モニタ」だ。ディスプレイを指す「モニタ」だが、本来ならば「モニター」と書くべきだろう。だがどういうわけか技術系出版社では、音引き「ー」が最後に来る書き方を異様に嫌う。

一方で放送業界では、普通に文字書きする時も「モニター」だ。ソニーなどの業務用ディスプレイのWEBサイトなどを見て貰えればお分かりかと思うが、テレビ業界では「モニター」と書くのが普通である。

僕も当然のように「モニター」と書いていたのだが、AV Watchの初代担当者が執拗に「モニタ」に直してくるので、ついに根負けして「モニタ」と書くようになった。ところがこれが、変換エンジンを混乱させるわけである。「波形モニタ」と変換しようとすると、「波形も似た」に変換してしまう。これがめっちゃむかつくわけである。

話が脱線したが、今回の新エンジンは、日本語の文章を沢山読み込ませてディープラーニングさせ、これまでの方法ではルール化できなかった日本語の特徴を捉える事ができたという。その結果を変換エンジンに加えることで、誤変換確率をおよそ30%削減できたそうだ。早速「波形モニタ」を変換してみたところ、ちゃんと「波形モニタ」に一発変換できる。ナイス。

■再発見ポイント

今回改めてデフォルトの設定にして入力を試してみているわけだが、ATOKでもMacの標準日本語変換で搭載されている「ライブ変換」的な使い方もできたのかと改めて気づいた。ライブ変換とは、細切れ入力しては変換・確定を繰り返すのではなく、変換せずにどんどん入力していくと、前後の文脈を見ながらどんどん変換を確定していくという機能である。

これまでずっと変換モードを「連文節変換」で使って来たので気がつかなかったのだが、「自動変換」にすれば、入力を続けていくと先頭から自動的に漢字変換されていく。そして句読点の入力をきっかけに、全部を変換するという挙動になっている。最も通常の日本語入力では、結局ある程度のところで句読点は打つので、ものすごい長文を句読点なしで入力する機会がない。従ってあまり気がつかない機能だとは思うが、ガシガシ入力派にとっては恩恵といけるだろう。

一方でWindows版と違う挙動なのが、「インプットアシスト」である。これは日本語入力をONにするのを忘れてアルファベット入力してしまった際に、Shift+変換で日本語変換できる機能だ。もしかしたら僕が英語キーボードしか使わないので出てこないのかもしれないが、Mac版にはこの機能はないようだ。その代わり、「かな」キーを2回押すと日本語に変換してくれる機能はある。まあどっちにしても英語キーボードを使う限り、使えない機能なのが残念である。

もう一つちょっとした違いは、MacBook Proから搭載されたTouch Barへの対応だ。ATOKにはCtrlキーの2回押しで起動するATOKイミクルという機能がある。これは意味がわからない単語を選択してCtrlキーを2回押すと、辞書から該当する意味をポップアップして表示する機能だが、この辞書の切り換えがTouch Barからできるようになった。

・「ATOKイミクル」の辞書が切り換えられるが…

ただ「え、そこ?」という気もしてしまう。そこ頑張るなら、もうちょっと通常入力時にうまくTouch Barを使えるようにして欲しかったところだ。例えば変換モードの切り換えや、一般/話し言葉優先などが常時Toutch Barに上がっていれば、能動的に切り換えて使うチャンスがある。現在では、あまりモードの切換を意識せずに、結局のところ変換候補の選択で乗り切っているところがある。せっかくの機能も、使わずじまいの人も多いのではないだろうか。

現在までToutch Barは、アプリ独自の機能は拡張できるが、日本語入力を拡張するためにはほとんど使われていないのが現状だ。これまでFnキーで実現してきたようなことも、Touch Barに表示できれば、改めて使う人も増えるのではないだろうか。

その点では、「変換効率の鬼」たるATOKに頑張って欲しかった。

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2017年6月23日 Vol.131 <見ることと知ることの境界号> 目次

01 論壇【西田】
 WWDCとE3から見えるコンシューマビジネスの変化
02 余談【小寺】
 変換エンジンを一新したATOK 2017 for Macが来た!
03 対談【西田】
 まつもとあつしさんと探る「アニメビジネスの今」(2)
04 過去記事【西田】
 徳島で見た「農業」と「タブレット」の未来
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

 
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