やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

言葉と、ある相続


 このところ、近親者や関係先で亡くなる方が立て続けにあり、対応に追われておりました。

 良い死に方とは何なのかなと東京から離れた地方都市まで行き葬儀の手伝いをしながらずっと思っていたのですが、身の回りの人たちが鬼籍に入るたび、送る私たち自身が何を故人から受け取り、どう発展させていくべきか悩むことも増えました。

 若くして母親を失っていて、今回収入の柱となっていた父親を事故で亡くすことになってしまった幼い姉妹が、遠い親戚にすぎない私に死後整理を任せなければならない現実は厳しいものがあります。かといって、私は私で家庭があり、残された家族はこれからどうなってしまうのだろうと思う気持ちでいっぱいです。

 遺品を整理していて、故人が書き残した日記がありました。事故とは別に、自身が慢性疾患で悩んでいることが克明に記された記録です。娘たちを置いて死ねないという苦悩と、目の前の仕事がコロナの影響でほぼ全部だめになり絶望の中、闘病と育児をしている悲しい父親の姿がありました。

 幸いにしていくばくかの生命保険が降りそうで、また、生前に生業として管理していた山林があるのでうまくどうにかして… と思っていたら、葬儀にて、会ったことのない喪服姿の女性がやってきて、生前関係があったので遺族として相続を認めてほしいという弁護士(?)からの書類を渡されました。どんな人生にもいろんな獣道はあるものと思いつつも、酷い試練が続くこともあるものだと思わずにはいられません。

 ふと思って、日記を読み返してみると、確かに闘病生活が始まったころに心の支えになる言葉を言ってくれる女性と巡り合ったという記述がありました。この人のことなのかもしれない。でも、この女性は赤の他人であって、残された姉妹はいずれもこの女性を知らないと言っています。会ったこともない、と。

 私も気になって、東京に戻ってから渡された手紙に書かれた女性の代理人に電話をし、どういう関りで遺族となるのか説明して欲しいという話をしました。しかし、代理人を名乗る男性はどうにも要領を得ません。電話番号から契約者を割り出してみると、弁護士資格を持っていない個人が、勝手に代理人を名乗って連絡先として記しているだけであることが程なく分かり、遺産整理をお願いした公認会計士に連絡を入れ、おそらく後妻さん商売だろうから、なるだけ別の弁護士を立てて門前払いをするように申し伝えました。

 その夜、残る姉妹の実家から、深夜に着電がありました。嫌な予感がします。すぐさま電話に応じると、焦った声で「出た、出た」と取り乱した発言を繰り返しています。落ち着くように言い、地元の知り合いに電話をして観に行くようお願いをして場合によっては警察へ、というトラブルにまで発展したものの、実際には事実は小説より奇なりとはならず、単に泥酔した隣家の住人が雨でずぶ濡れのまま姉妹が肩を寄せて暮らす家に間違えてピンポンしただけだったという話を知り、胸をなでおろしました。

 それでも一度そういうことがあると不安は拭い去れないということで、思い切って東京まで呼び寄せるか、預かっても良いと言ってくれる親戚に身柄をお願いするかを思案しなければなりません。

 昨年も、ほとんど面識のなかった親戚の入院で対応をしたり、まあいろいろ世の中はあるものだと思います。上期終わりでクソ忙しいところ、やらんでもいい仕事を背負った私も物好きではありますが、やはり人の離別の際にこそ、生きた証を刻むことの大切さに思いいたるのであります。

 神の御許に召された、彼女たちのお父様の魂に平安があらんことを。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.Vol.314 人の死に際してしみじみと考えつつ、これからの日本が直面する医療政策やAIや国際政治のあれこれに危惧を覚える回
2020年10月31日発行号 目次
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【0. 序文】言葉と、ある相続
【1. インシデント1】オンライン診療と医療提供体制を巡る医療政策議論の悩ましさ
【2. インシデント2】AIが生み出す問題の可否は人間に判断できるのか問題
【3. インシデント3】日本は中国製通信機器やTikTokなど中華製アプリを制限するべきか?
【4 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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