本田雅一
@rokuzouhonda

メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」より

楽天モバイルが先行する“MNO”に追いつくために

※この記事は本田雅一さんのメールマガジン「本田雅一の IT・ネット直球リポート」 Vol.048「楽天モバイルのMVNO買収に思うこと&ケトジェニックダイエットについて」(2019年7月16日)からの抜粋です。



7月9日、楽天モバイルがDMM.comが運営するMVNO「DMM Mobile」(約24万回線)の買収を発表しました。現時点ではDMM.comと同じMVNO(仮想ネットワーク事業者)ですが、今年10月には電波帯域を割り当てられ、自前の回線を整備していくことになっており、そのためにベースとなる顧客層を広げていきたいという意図があるのでしょう。

2017年11月にはプラスワンモバイルからFREETELの事業を買収して約40万回線を上乗せ。その後も積極的な価格構成や店舗出店で全国500店舗以上を達成し、いまだに増え続けています。直近では190万回線以上の契約を持っていたため、今回の買収で楽天モバイルは240万回線前後の契約を持つことになりました。

楽天モバイルは今後、“MVNO”から“MNO”(ネットワーク事業者。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクといった事業免許を持つ会社)へと“トランスフォーム”する際に、基礎となる契約回線数を底上げするため積極的な投資を行っています。もちろん、DMMのユーザーが強制的に楽天モバイルの回線に強制移住されるわけではありません。

当面はDMMのサービスは維持されるでしょうが、どこかのタイミングで、楽天の回線への切り替えを行うべきSIMカードの再発行などが行われるはずです。おそらく、10月に楽天モバイルが自社回線へと切り替えるタイミングまでには、DMMから楽天モバイルへの切り替えが促されるのだと予想されます。
 

顧客獲得コストを“かけられない”ジレンマ

回線契約数が飽和している日本市場において、国内4社目MNOとして5Gの免許が発行されるわけですが、成長させるためには他社から顧客を奪う必要があります。そのためには、“乗り換え”の手続きを行ってもらう必要がありますが、ご存知の通り回線契約獲得時にマーケティング予算を大きく割り当てる手法に関して大きな制約が課せられるようになりました。

顧客獲得コストをかけようにも、乗り換え時に人気端末の大幅値引きなどは行えませんから、買収によって契約者の数を底上げする方が、MNOとしてのサービスを立ち上げやすいのは明らかでしょう。しかも買収というと、とてもコストが高く感じられるかもしれませんが、MVNO事業は大規模な投資を行うことなく参入できる利点がある一方で、競争が激しく利益が上げにくい事業だからです。

なにしろ、“差異化”を行いにくい事業です。もともと“格安SIM”などと言われるように、価格的な魅力で契約している顧客が多い中、800を超える事業者が鎬(しのぎ)を削っています。もちろん、品質や顧客サービスなどの違いはありますが、簡単に違いを見せることは難しく価格でしか違いを出せません。

それでもMVNO事業者が数多くいるのは、例えばイオンやビックカメラなどに代表されるように、もともと顧客を集める店舗を持ち、端末も販売しているからといった、別の理由があるからです。これまでは圧倒的なお得感や強力なショッピングサイトを中心にした販売力で回線数を伸ばしてこれましたが、その背景としてはMVNO事業そのものの収益性の低さ、すなわち競合相手の抵抗力の低さがあるわけですね。

ところがMNOになれば、相手はNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク。これらの事業者から契約を奪っていくことは並大抵の努力ではできません。“競合の抵抗力が低い”ということは、事業として買収する際にも回線あたりのコストが安く済むと言えますから、今後も同様の買収が行われる可能性は高いでしょう。収益化に苦しんでいるMVNO事業者の中には、この期に楽天モバイルへと身売りして身軽になろうとするところも出てくるかもしれません。

楽天モバイルは親会社の潤沢な資金を背景に、発行された5G免許でインフラ投資を行っていくことになりますが、投資に見合う顧客を獲得せねばなりません。すなわちインフラ整備と顧客獲得は並行してバランス良く行う必要があるため、買収戦略はとても重要なものです。しかしながら、買収による顧客獲得には、実のところ小さくはない問題も隠れています。


 
(この続きは、本田雅一メールマガジン 「本田雅一の IT・ネット直球リポート」で)
 

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2014年よりお届けしていたメルマガ「続・モバイル通信リターンズ」 を、2017年7月にリニューアル。IT、AV、カメラなどの深い知識とユーザー体験、評論家としての画、音へのこだわりをベースに、開発の現場、経営の最前線から、ハリウッド関係者など幅広いネットワークを生かして取材。市場の今と次を読み解く本田雅一による活動レポート。

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本田雅一
PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

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