小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

違憲PTAは変えられるか

0db048322406acb3c631aeeed97e7002_s

 
【おすすめ記事】
ビデオカメラの起動音、いる?
総務省家計調査がやってきた!
フリック入力が苦手でもモバイル執筆が可能に! ローマ字入力アプリ「アルテ on Mozc」
iPad Proでいろんなものをどうにかする
4K本放送はCMスキップ、録画禁止に?
 
 
新年度を迎え、またネットではPTA周りの問題が騒がれる時期となった。毎年この時期は、新委員の選出が行われる。特に1年生の保護者は、まだ活動内容も勝手もわからないうちから委員選出に巻き込まれるわけで、なかなかしんどい話である。

娘が入学した中学校では例年、入学式に出席した保護者を、式典終了後に体育館に残して、そこで委員の選出を行なう。委員が決まらないと、体育館から出られないし帰れないという。PTAの委員決めの伝説は数々聞いてきたが、これはかなりの強行派だと言える。

そもそも任意団体であるPTAの委員を決めるのに、全員を体育館に軟禁することは違法である。いやその前に、入会の同意を取らないこと自体、憲法第21条に謳われた「結社の自由」に反する。憲法第21条の1には、以下のように書かれている。
 
 
1 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

結社の自由とは、誰でも団体を結成できる権利を保障すると同時に、自分の望まない団体に強制的に加入させられない権利も保障する。したがって筆者は、入会の同意を取らず加入を強制するPTAは、厳密には違憲団体であると考えている。

しかし実際には、入会申込書などを取らずに運営しているPTAは山ほどある。70年ぐらい続く制度なので、誰もその存在に疑問を持たないという部分もあるだろう。あるいは疑問を持ったとしても、うまく論理武装ができずに反論できないというところもあるだろう。さらに言えばPTAは法人格を持たない任意団体なので、訴えようにも訴訟の対象にできないという問題もある。訴えるとしたら、代表者として定められているPTA会長個人を訴えるしかないが、そんなことをしても、何も解決しない。
 
 

「子供会」を改革した理由

平成27年度、すなわち昨年度筆者は、子供会の会長を務めた。会長になった時点では、子供会でも入会の同意を取っていなかった。組織の長としてそこがずっと引っかかっていたのだが、昨年末に決定的な事態が起きた。

これまで子供会は、その地域の小学生とその保護者が全員加入してきたのだが、「脱会したい」という人が現れたのである。なぜ脱会したいのかは、プライバシーに関わることなので、ここでは書けない。しかし脱会するにしても、手続きの方法がないのだ。そもそも入会していないのだから、脱会手続きもないのである。仕方がないので、帳簿的には転出という格好で処理することになった。

だが通常は地域外に転出する手続きなので、転出書類は学校提出と子供会提出の2枚綴りとなっている。学校では転出していないのに、子供会だけ転出したという妙なことになった。

昨年は子供が6年生だったので、筆者はどのみち1年で子供会とはサヨナラである。入会については例年同様ということで、逃げてしまう手もあった。しかしこの違憲状態を処理できる人は今後現れないんじゃないかと思い直し、会長最後の仕事として、28年度から入会申込書を全員に提出してもらうことにした。

PTAや子供会が入会の同意を取ることに消極的なのは、申込書などを使って入会の同意を取れば、入会しない人が出てくるからである。これは、給食費不払い問題と似たような構造を生む。すなわち、入会しなければ会費も徴収できないのだが、団体から子供たちへの「サービス」は、入会の有無でいちいち差別化できないのである。入会しない人が増えれば増えるほど、団体としては破綻してゆく。

だが、逆に一般の保護者の立場として考えてみれば、入会するメリットがないなら、入会しないのは当然である。団体としてのメリットを運営側がきちんと理解して、それをアピールする必要がある。

では団体の運営側、すなわちくじ引きなりじゃんけんなりで役員や委員になっちゃった人が、団体のメリットを把握しているだろうか。多くの場合、答えはNOだ。1年こっきりの役員や委員では、とにかく前年やってたことを同じようにこなすだけである。ほとんどのPTAは、リレーのバトンを何十年にもわたって渡し続けてきただけなのだ。

筆者も会長になったばかりの時は、子供会のメリット、というか、そもそも子供会という組織が一体なんなのか、PTAと何が違うのか、正確に把握できていなかった。だが1年間活動をやってみて、初めて全体像がわかった。多くの重要なことは、新役員になって間もない時に、よくわからないまま例年同様の手続きを引き継いでしまうので、その時には見えないのである。

うちの子供会のメリットは、考えてみると以下の3つになった。
 
 
1. 登校時の通学班は、子供会が編成・運営している。子供会に加入すれば、通学班で登校できる。加入しない場合は、毎日保護者が付き添って登校することになる。これは学校側で、子供1人での登校を禁じているからだ。

2. 地域のお祭りなど、子供会が主催または協力するイベントに参加できる。地元のお祭りはかなり広範囲で行われるため、地域の子供達で知らない子はいない。もちろんただのお客として見に行くこともできるが、お祭りそのものには子供会経由でなければ参加できない。参加すればお菓子やジュース、スイカなどが大量に振る舞われる。

3. 子供会活動時に子供が怪我した場合には、全国子供会連合会で加入している共済金を支払う。要するに保険をかけているわけである。これはほとんどの子供会がやっているはずだ。

1つ目のメリットは毎日毎朝のことなので、かなり大きい。実際にこれまで子供会に加入しないという人がいなかったため、当たり前のように機能していたのだが、前出のように実際に脱会者が出て初めて、メリットが明らかになったのである。

このメリットのアピールが功を奏したのか、入会しないのは前出の1名だけで、後は無事、3月頭には全員の申込書が揃った。
 
 

中学校PTAの対応

このような経緯を踏まえて、3月半ばの中学校の入学準備説明会に出席した。学校についての説明の後、現職PTA会長からPTA活動と委員選出についての説明がなされた。最後に質疑応答の時間があったので、PTAへの入会申込書がないのはなぜか、と質問した。普通は黙って大人しくやり過ごすものだろうが、こういう時に空気を読まないのが筆者の業なのである。

PTA会長の回答は、そういう意見があることは県PTAでも議題に出ており承知しているが、すぐに対応できる問題ではないというものであった。

そこで、任意団体に強制加入させるのは憲法第21条に規定された結社の自由に違反すると思われるが、中学校ともなれば、義務教育として子供達に憲法の重要性を説くこともあるだろう。教員も加入するPTAが違憲団体であるのは問題である、と意見を述べ、着席した。

当然場内は水を打ったように静かになり、司会進行している教頭先生は実に困った顔をしていた。学校には子供を人質に取られているような状況で、今後3年間が思いやられる事態だが、まあどのみちオレの人生すでにハードモードなので、何かあったなら訴訟も辞さぬと腹をくくる。

気まずい雰囲気の中説明会は散会し、その後PTA会長を訪ねて直接話をした。実は通っていた小学校のPTAでは、すでに数年前から入会同意書をとるように変わっている。そして筆者が会長を務める子供会でも今年度から入会申込書をとったことを説明した。したがって、この地域で入会の同意を得ない任意団体は、中学校のPTAだけという状態になったのである。

筆者としても、PTA活動をすることについては異存はない。だがそんなやり取りがあった後だ。4月の入学式は、その後に行われる委員選出会のことを思うと、あまり晴れやかな気持ちでは望めなかった。

ところが、である。

式典後の委員選出会に先立ち、PTA会長が今年度からPTAの入会申込書をとることにした、と説明した。急に決めたことで、実際の申込書配布は来週になるという。入会申し込みの前に委員選出を行わざるをえない段取りになってしまうことへの謝罪があった。たしかに物の順序としては変ではあるが、2〜3週間しかない間でよく決めたと思う。

入会申し込みの締め切りは4月21日なので、まだ結果はわからない。だが新入生の保護者全員が、入学準備説明会でのやり取りから今回の入会申込書に至るまでの経緯は知っているはずなので、入会しないという人はまずないんじゃないかと思われる。筆者は立候補で広報部をやることにしており、すでに立候補の届けも出していたのだが、モヤっとした思いを抱えずに活動できそうだ。

PTAは旧体質と言われているが、活動しているのは「今の人」である。理屈としておかしいことになっていると説いていけば、あり方は変われるはずだ。変われないのは、大勢の前でも臆せずに変えろと圧力をかける人がいないからなのかもしれない。いや自分を自慢していると取られると困るのだが、どう考えても、旧体制のままではやっていけない時代にさしかかっているのは明らかなのだ。誰かが最初のドミノを倒さなければならない。

 
 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2015年4月15日 Vol.076 <ルールの決め方号>目次

01 論壇【西田】動画からBotまで、すべてのサービスが抱える「導線」問題
02 余談【小寺】違憲PTAは変えられるか
03 対談【西田】石野純也さんに聞く「変わり続ける日本のモバイルとMVNO」
04 過去記事【西田】ハードディスクよさようなら?!
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

12コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。
ご購読・詳細はこちらから!

 

その他の記事

国内IMAX上映に隠された映画会社や配給会社の不都合な真実(高城剛)
新陳代謝が良い街ならではの京都の魅力(高城剛)
ズルトラ難民が辿り着く先、HUAWEI P8max(小寺信良)
“B面”にうごめく未知の可能性が政治も社会も大きく変える(高城剛)
昨今の“AIブーム”について考えたこと(本田雅一)
就活生へあまりアテにならないアドバイスをしてみる(小寺信良)
復路の哲学–されど、語るに足る人生(平川克美)
教育としての看取り–グリーフワークの可能性(名越康文)
Googleの退職エントリーラッシュに見る、多国籍企業のフリーライド感(やまもといちろう)
総務省家計調査がやってきた!(小寺信良)
なぜ「もしドラ」の続編を書いたのか(岩崎夏海)
フィンランド国民がベーシック・インカムに肯定的でない本当の理由(高城剛)
アップル固有端末IDの流出から見えてくるスマホのプライバシー問題(津田大介)
細かいワザあり、iPhone7 Plus用レンズ(小寺信良)
違憲PTAは変えられるか(小寺信良)

ページのトップへ