やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

「立憲共産党」はなぜ伸び悩んだか


 Twitterでうっかり口を滑らせてしまい、怒られが発生したのですが、個人的には総括として「立憲民主党と共産党らの選挙協力は実は効果が限定的なものだったことを露呈してしまった選挙だった」と思っています。

 もともと立憲民主党と共産党の「共闘」についてはかねて異論があって、共産党(全労連)とは不俱戴天の仇とも言える連合が立憲民主党の選挙実務を手伝うだけでなく組織内議員も輩出しているため、立憲民主党支持者が共産党と候補者を一本化しても共産党への投票には至らないという問題点は指摘されてきました。

 それでも枝野幸男さんら立憲民主党執行部が野党共闘に踏み切り、社民党やれいわ新選組を巻き込んだ仕掛けに発展したのは「立憲民主党が候補者を立てても、同じ選挙区に共産党が立ってしまうと現状批判票を共産党と分け合うことになってしまい常に不利である」という点が大きいと目されていました。もちろん、ある一面で、共産党がいることで左派票も現状批判票も分断することで立憲は常に重しを共産党に付けられたまま選挙戦を戦わざるを得ないという思いがあるんじゃないかと感じます。

 そこにきて、思った以上に今回共闘した選挙区でのスコアが悪く、惨敗と言っても差し支えないぐらい負けた理由はいくつかあり、一番の原因は「批判票受け皿としての維新の躍進」にあります。野党票を共産に取られたくないので共闘路線を取ってみたら、もっと制御のきかない維新が出てきて大事な無党派層からの票が割れてしまうという現象が発生して、これはもうどうしようもないことになります。

 一番大きいのは注目選挙区となっていた東京12区で、引退する公明党大物の太田昭宏さんの後任・新人にまったく毛並みの違う元ゴールドマンサックスの岡本三成さんが立ち、一年間の事前運動にもかかわらずさっぱり浸透しないので大変なことになっていました。

 その仇敵は共産党の池内沙織さんで、14年衆議院選で惜敗50%の4万4千票あまりを取り共産党として比例復活をしたホープでもあります。惜敗50で復活当選かよと言いたい人も少なくないかもしれませんが、そもそも共産党は野党共闘前は多くの候補者を各選挙区に立て、みな供託金没収ライン前後だけど比例票で「共産党」と書いてもらい議席を確保する占術でしたので、選挙区で50%の善戦をする候補者は重要で、また、あわよくば風に乗って小選挙区で勝ち議席を確保できる顔役のような政治家を欲しているのまた事実なのでしょう。

 かくして、17年衆議院選挙では順調に得票を倍増させ8万票余りを取り、太田明宏さん勇退後は一気に議席も視野にということで共産党も力がこもっているところで、維新の阿部司さんが出馬することになります。

 この東京12区は元都議でかがやけ東京から小池百合子親衛隊を経て地域政党を立て、流れて日本維新の会から参議院選に立候補、なぜか東京選挙区で堂々の当選を果たした音喜多駿さんがおりまして、この謎の地盤に阿部司さんが立つことになって、共産党からすれば番狂わせが発生します。

 結果として、長らく「公明党VS共産党」という罰ゲーム選挙区であった東京12区に「維新」という新たな選択肢が出たことで現状批判票を集めて得票を伸ばしてきた共産池内沙織さんが無党派層の票を維新阿部司さんに喰われて失速するという事態に発展します。

 その結果として、共産躍進を阻止したい連合東京が太田さん支援の流れを継続して岡本三成さん支援に回り岡本さん当選、頼みの現状批判票である無党派層の票は維新・阿部司さんに取られて阿部さんは維新躍進と共に復活当選、期待された池内沙織さんは惜敗率の関係から共産党比例での復活当選も果たせず無事無職となるわけであります。

 東京12区は典型的な例ですが、一本化して立憲・共産票を上積みしたはずの選挙区で苦戦してそのまま落選という構造は多く、概ねの選挙区において一本化した立憲民主党候補者に共産党支持者が8割ほど投票することはあっても、逆に一本化した共産党支持者に立憲民主党支持者が投票するのは5割足らずで、立憲の候補も共産の候補も得票を伸ばせず落選という構造に変わりはありません。

 結論から言えば、無党派層を確保するために野党を一本化しても、そこに維新が入ってしまうと頼みの無党派は維新にも投票してしまう、共産党に一本化した候補に立憲支持者はあまり投票しないので伸び悩み、そもそも共産支持層はせいぜい5%足らずしかいないので立憲からすれば共産票が乗っても当落にはなかなか届かないというだけの話です。

 一時期は「各選挙区の共産党固定票は2万票あまりある」と立憲党本部が楽観的な見通しを立てていて、私も「まあそう言われればそうなのかな」と思っておったのですが、蓋を開けてみたらそもそも現状批判票を立憲と共産が仲良く食べ合っていたのでそう見えていただけで実際の共産党基礎票は各小選挙区で5,000から8,000の間でしかなかった、というオチになるのかなと思います。

 よく考えたら本当に共産党固定票が2万票もあるのであれば過去にたくさん立候補させていた共産党系テンプレ候補が軒並み供託金ラインだったことを説明できませんので、単に立憲が現状批判票などを無党派からかき集めるのに共産党が邪魔だった以上のことは何もない野合だったと結論付けられることになりましょうか。

 逆に言えば、そうだとするならば維新の躍進もこれらの無党派層の刈り取りはきちんとした政策主張と候補者の質を揃えればもっといける反面、風が無くなると本当に議席ゼロになるぐらいの勢いで失速することを意味し、また、立憲民主党も野合して左翼票をかき集めても党勢回復には繋がらないのだという話になります。支持母体である連合の機嫌を損ねて迄野合するだけの価値があったのか、いま一度真剣に考える必要があるのではないかと思います。

 最後に、立憲民主党の政策主張についてですが、共産党も同じくかなり前面にジェンダーの問題や、多様性といったJリベラル色の強い政策を押し立てて選挙戦を戦っていたのが印象的でした。

 ところが、実際には国民が求める争点としては経済対策(雇用・成長)、社会保障(年金・医療・介護)、コロナ対策(感染症対策と大学・就業などのリモート対応)といった生活に直接関わりがある政策について重視しているうえ、次点で子育て・教育問題、安全保障・外交などの政治イシュー、格差貧困対策などが並び、ほとんどの有権者はジェンダー問題について関心を払っていません。

 いわば、国民の関心とは程遠い問題を掲げて選挙戦を戦い、その結果としてあまり有権者に訴求出来ず、立憲民主党支持者の足元を固めることだけはできたということで、非常に反省の多い選挙戦だったのではないかと思います。

 他方、自民党も総裁選であれだけ岸田文雄さんが主張した所得倍増ほか各種政策は全部政調会長の高市早苗さんに降ろされて自民党支持者から不評を買っていたのもまた事実でありますので、本当であればきちんとした有権者の求める政策を立憲民主党が掲げていればもう少し無党派層や経済重視派の自民党左派支持層をかき集められたのではないかと思われ、そこは非常に残念です。

 この問題は、おそらく立憲民主党で枝野幸男さんが続投するかどうか、来年夏の参院選までに幾つかの重要な地方選挙をまたいでいかなる修正をかけるかが焦点ではないかと思います。場合によっては、立憲民主党も党を割って、新たに国民民主党側について連合の支援を仰ぐ議員も出てくるのではないかとも思ったりもしますが、どうでしょうか。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.349 野党共闘の迷走や選挙予測調査の失敗を紐解きつつ、人はなぜ偽科学的な商法に魅了されるのかをぼんやり考える回
2021年11月1日発行号 目次
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【0. 序文】「立憲共産党」はなぜ伸び悩んだか
【1. インシデント1】なんでこんなに公示前調査や出口調査の結果が外れたのか
【2. インシデント2】ゾンビのように何度でも生き返るイオン(ion)商法の不思議
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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