やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

「罪に問えない」インサイダー取引が横行する仮想通貨界隈で問われる投資家保護の在り方



 前回のメルマガでも詳述しましたが、コインチェック社の問題もさることながら、仮想通貨取引の本丸でもあるビットコイン(BTC)の取引に疑義が起き始めていることで、2月1日も仮想通貨全体の相場は冴えない状態にあります。

 一番の懸念は、大手取引所Bitfinex(ビットフィネックス)社と、ビットコイン価格の相場形成に大きな影響力を持つとされるTether(テザー)社の疑惑が本格化し、CFTC(米商品先物取引委員会)に召喚されることが決まったということで、やはり市場は動揺します。

 そこへ、今回のコインチェック社の胴元問題が勃発し、原野商法的なノミ行為が行われていたことがはっきりした以上、事業の継続はともかく投資家・消費者にどれだけ預かり資産を返還できるのかに焦点が集まっていると言えましょう。

 さて、現在当局への通報ラッシュになっているのは日本の大手取引所bitFlyer(ビットフライヤー)社で取り扱いわれるLISKという暗号通貨の「上場」を巡るインサイダー問題です。早ければ11月ごろからLISKをビットフライヤー社が取り扱うのではないかという噂が流れており、暗号通貨向けの投資で財を築いたと言われる人の某情報商材にも確かにLISKをビットフライヤーが取り扱う前に仕込むと良いという話が年末に書いてあります。

 もっとも、その後ビットフライヤー社でのLISK上場とは関係なく仮想通貨市場が年末から年始にかけて急落し、年末にLISKを仕込んだ「飛びつきの速い」投資家は大損を被っている人が多いのではないでしょうか。ここで週足を見ると年末をピークとした見事なイナゴタワーができていることが確認できるのではないかと思います。

リスク/円(LSK/JPY) リアルタイムレート - みんなの仮想通貨

 その後、ビットフライヤー社自身の、おそらく東証上場を目指す投資家向けのレポートがファンド筋にばら撒かれ、年末から年始にかけてパドック入りしました。もちろん、コインチェック問題の起きるはるかに前の、まだ幸せだったころの話です。その中では当期利益が100億円超えるものの、翌年には競争激化を見込んで減益見込みという地味に上場ゴール的な内容で出回っていたのですが、おそらくコインチェック社がこのような問題になって、ビットフライヤー社の上場計画も恐らくは何らかの形で修正を余儀なくされるのではないか、と思います。聞き及ぶ限り、ビットフライヤー社はいろいろ課題はありつつも他の仮想通貨関連事業者に比べても割とまともなほうで、一部架空口座が疑われる報告文書が出たぐらいで、まあしっかりやっているのではないかと思います。ちゃんと調べていないので大丈夫かは保証できませんが。

 また、何より仮想通貨交換業者の登録を済ませ、仮想通貨の実際の決済で利用可能な技術の蓄積も相応に進めている状態ではあるので、本来はコインチェック社が問題を起こして一斉検査をしましょうという話になっても上場自体が取りやめになるような話にはならなさそうな雰囲気もしていました。

 そこへ降って湧いたのが今回のLISK騒ぎです。ビットフライヤー社が公式にLISKの取り扱いを公表する数分前から板でLISK買いが高騰し始め、大変なことになりました。2階建てでもありますが、スプレッドが千円超えていても買う消費者が続出し、ちょっとしたバブルがまた発生してしまうわけですね。

仮想通貨取引所のbitFlyer(ビットフライヤー)、取扱い開始コインを巡りインサイダー取引が横行か - 市況かぶ全力2階建

 確かに、金商法の範疇ではない仮想通貨の相場でこのようなことが起きても、直接違法性は問えないという点でインサイダー取引の問題は発生し得ないのは自明です。上記の通り、原野商法もノミ行為も、消費者が損をしたという訴えでがあって初めて刑法詐欺罪その他の問題へと発展していくわけであります。

 しかしながら、これから東証に株式を上場し、文字通り公器の企業へとなっていこう、さらには、仮想通貨を支えるブロックチェーン技術など、フィンテックで日本がこれから社会をより豊かにしていこうという流れの中で、このような適切とは言えない取引を平然と行うことにどれだけの悪い影響があるのか、当事者でも心のある人は分かっているのではないかと思います。

 もちろん、活気があり、勢いのついた市場で頑張っている企業や経営者が、多少の向こう傷も構わずアクセルを踏むべき時期がある、というのも分かります。イノベーションを率いる人は、多少の強引さも必要だ、というのも良く分かったうえで、落とし穴に墜ちなければいいなあと切に思う次第です。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.215 仮想通貨界隈やe-Sports界隈に物申しつつ、海外のFacebook事情などにも触れてみる回
2018年2月1日発行号 目次
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【0. 序文】「罪に問えない」インサイダー取引が横行する仮想通貨界隈で問われる投資家保護の在り方
【1. インシデント1】e-Sports界隈が再び踏み抜くソフトダーツの轍
【2. インシデント2】海外におけるFacebookの影響力とメディアの力関係に異常あり?
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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