小川和久の「セキュリティ研究所」第3回講義録

いま、東シナ海で何が起きているのか

小川和久のセキュリティ研究所第3回講義録<いま、東シナ海で何が起きているのか>より、一部をお届けします。

中国は東シナ海で抑制的

2、3日前にある会合であった人物に、こう話しかけられた。「小川さん、櫻井よしこに聞いたのですが、南シナ海で岩礁を埋め立てていたりして、乱暴狼藉の限りを尽くしている中国が、東シナ海でも同じようにするようになってくるのではないか。それに、注意しなさいといわれた」。それに対する私の答え。「いや、海は続いているからそういうこともあるかもしれない。ただ専門家の立場から言うと、つまり、私だけでなく、海自、海保、米海軍の立場で言うと、事態は全く逆だ」。

なぜ逆かという話を、これから延々とする。

中国は東シナ海では抑制的に振舞っている。アメリカはオバマ政権の時に2回、中国の習近平国家主席に対して警告している。日本列島に中国が手を出したり、日本列島周辺で南シナ海でのような乱暴狼藉をすることに対して、くぎを刺している。

2012年9月には、パネッタ国防長官(当時)が、北京で国家主席就任直前の習近平氏に「尖閣諸島といえども、アメリカの国益であることをお忘れなく」と伝えている。丁寧な言い方だが、尖閣諸島を無人島だからといって手を出したら、容赦しない、ということだ。

その翌年、国家主席になった習近平氏がアメリカに行き、首脳会談を行ったが、そこでオバマ大統領は「中国は、アメリカと日本が特別な関係にあることを理解すべきだ」。普通の同盟国ではない、アメリカにとって死活的に重要な同盟国であるから、手出しは許さないという意味だ。

日本人が自覚しているのとは異なり、日本列島は米軍が地球の半分で行動するのを支えることが出来る、唯一の戦略的根拠地である。Power projection platform、という。会社に例えると、アメリカを東京本社とすると、ドイツも、イギリスも、韓国も、「支店」「営業所」という位置づけになる。しかし、日本は「大阪本社」の位置づけとなる。日本の代わりをできる国は存在しない。

日本はアメリカとの関係で、どういう役割をしているかというと、アメリカが他国から攻撃された際、援けに行ける軍事力を持つことはできない。自立できない軍力しか持てない。この点、非対称的な関係である。

しかし、他の国が出来ない役割を日本は果たしている。84か所の米軍基地を、日本国内に置かせて、それを自衛隊が日本列島ごと守っている。それに守られ、支えられ、アメリカは、喜望峰までの範囲で軍事力を展開できる。だから、非対称的だが、最も双務的な、つまり対等に近い同盟国が日本なのである。

このことは客観的に証明できるのであるが、日本人がこの分野が苦手なので、外務省も防衛省も自衛隊も、私が調査するまで知らなかった。

このことを中国にわからせた。北朝鮮は当然わかっていた。この認識の中で、中国は東シナ海では抑制的なのである。

 

衝突回避のための準軍事組織、海上保安庁と中国海警

では、おとなしいというがどうおとなしいのか。

尖閣諸島周辺では、中国の公船が、領海侵犯を繰り返す、レーダー照射を行う。しかし、僕らが見ていると、ともかく、アメリカ、日本と、絶対にぶつからないところで計算して行動している。

中国の立場からしてみると、日米とぶつかると、その紛争の中には、世界的な戦争にエスカレートする要素が入っている。それをみたら、国際資本はどういう行動をとるか。中国に出ている国際資本はみんな逃げ出してしまう。

1989年の天安門事件の際、私は上海の復旦大学で教えていた。あの時は、民主化運動の連中も、共産党の連中も、立場を超えて国際資本の逃避をみて、中国の前途は真っ暗だ、と嘆いていた。あの二の舞は絶対にしたくないというのが、中国の考えだ。

だから、日本の周辺では、軍事行動については最初から抑制的だった。ただ、それでも、先のような行動をとれば、日本のメディアが騒ぎ出す。そうすれば、それは中国国内にリアルタイムで伝わる。これが狙い。

中国共産党が一番手を焼いているのは、国民の不満である。これが共産党政府の対外行動に対する弱腰批判として噴き出すことだ。これが第一の目的。

中国は、第一列島線と第二列島線を基本としながら、A2AD(接近拒否・領域拒否)という動きをとっている。第一列島線の内側では、アメリカの海軍を中心とする軍事力の行動を、阻止できるような、第一列島線と第二列島線の間では、アメリカの軍事行動を自由にさせないような、海軍力、空軍力を備える。

ただ、現在、中国は航空母艦を1隻就航させているが、その能力は実戦レベルではない。先だって、台湾の近海を通って南シナ海に入り、示威行動と報道されたが、現実には大したことはない。通常、敵対関係にある国の近くを通るときは、警戒機を常時、艦隊上空に飛ばし続けるものだが、このときは、一機も上がってこなかった。夜間に発着艦する能力がないことが理由と思われる。

また、最近、最新型の護衛艦を就航させているとも報道されているが、個々の兵器を見ても能力は分からない。特に、対潜水艦作戦能力は、アメリカ、日本が抜きんでており、中国は全くその域に達していない。対潜水艦作戦能力で劣っているということは、潜水艦による攻撃にも脆弱ということを意味する。

ともかく、最近、中国側の軍人は背伸びをした発言を行わないようになった。アメリカに比べると20年遅れだ、ということをはっきり認めている。

そういう視点で中国の軍事力を見ていかなければならない。

現実の尖閣周辺の行動を見てみよう。尖閣諸島周辺の出没する中国公船の大部分は、これ、中国海警の巡視艇である。CHINA COAST GUARD、日本で言えば海上保安庁の艦艇である。中国の関係者が、これらの行動について、われわれに常に言ってきたことは、「これらの艦艇は非武装であることを理解してくれ」だった。

武装している奴は、おととし、2015年12月に初めて、尖閣諸島周辺にきた、中国海軍の退役駆逐艦から大砲を取り除き、機関砲を4つ残したものだった。中国も、海警の公船を新造し続けているが、その武装は、日本の海上保安庁のものにあわせている。ともかく、非武装のものを尖閣周辺にもってきては、ニュースになるようなことを繰り返しているのである。

もちろん日本も中国も海軍を使うというオプションがある。しかし、軍隊を使えば、戦争にエスカレートする可能性を秘めている。陸の国境でもそうだが、武装した国境の侵犯者を排除する強制力だけをもった組織を、軍隊ではない、という体裁で運用し、排除した後は話し合いを行うという思想が、現在の国際社会では一般的である。このような組織を、準軍事組織という。軍隊に似ているけど軍隊ではない組織、これが、国境警備隊であったり、沿岸警備隊であったり、海上保安庁であり、中国海警である。

かならず、国境、領海侵犯は起きると思わなければならない。利害が衝突する場所だから。必ず起きるであろう国境紛争に対し、それを戦争にエスカレートさせないための知恵として、安全装置として、準軍事組織がある。権益や領域の拡大のための行動を中国はとり続けているが、戦争に結び付かないような手段を使っているということは、わかっておいた方がいい。

 

対話のための挑発か? 裏にある中央指導部の慎重――レーダー照射、防空識別圏騒動

2013年1月に中国海軍の艦艇による海上自衛隊の艦艇へのレーダー照射事件が2回起きた。1月19日が一回目、1月30日が2回目。2月5日になってから、当時の小野寺防衛大臣が公表して、大騒ぎになった。大騒ぎになって日本のマスコミが大きく報道すると、中国側は「やった」と喜ぶ。対日弱腰ではない、という宣伝になる……

(続く)

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小川和久(おがわ・かずひさ)

1945年12月、熊本県生まれ。陸上自衛隊生徒教育隊・航空学校修了。同志社大学神学部中退。地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。外交・安全保障・危機管理(防災、テロ対策、重要インフラ防護など)の分野で政府の政策立案に関わり、国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、日本紛争予防センター理事、総務省消防庁消防審議会委員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。小渕内閣では野中官房長官とドクター・ヘリを実現させた。電力、電話、金融など重要インフラ産業のセキュリティ(コンピュータ・ネットワーク)でもコンサルタントとして活動。

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