小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

音声で原稿を書くとき「頭」で起きていること

※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2016年12月23日 Vol.110 <今年の成果、今年のうちに号>より


12月の頭に、VRエバンジェリストのGOROmanさんへのインタビューをしてきた。その中身は、すでに一部掲載しているし、年末年始頃には、もっとガッツリした記事が掲載されると思うので、詳しくはそちらをお読みいただきたい。

とはいえ、(世の中には誤解している人も多いだが)「インタビューの書き起こし」は「原稿」とは違うものだ。書き起こしでは面白い記事にはならない。みなさんにお読みいただいているインタビュー記事なども、相当に丸めたり削ったりしている。いわば「煮詰める」作業をするのがライターの仕事である。

今回のインタビューでも、「煮詰める」過程で切ったシーンがけっこうある。主に脱線しすぎてメインの話題からずれたものなのだが、ここで、その一部をご紹介したい。独立した話題として、なかなかに面白い命題だと思うからだ。

 


 
——個人的には、「入力している」ことと「今入力しているものが見える」ことが同期しているから、作業効率が担保されているのかな、とは思うんですよね。実は、音声入力で原稿が書けないんですよ。それは、変換効率の話ではなく。

GOROman:ああ、わかります。

——タイプしている時って、書いている部分より「先」が見えている感じがしません? でも音声入力している時って、イメージとしては100文字先くらいしか見えないんです。タイプしている時は、あくまでイメージですけど、500文字先とか1000文字先までぼんやりと見えている感じなんですが。

GOROman:それってたぶん、タイプは小脳や運動を司るところでやっているということですね。音声入力は一度、コンピュータでいうところのDAコンバートをしなきゃいけないわけで。音声化して声を出すのはそれなりに重い負荷だし。それをキューイングしてバッファに貯める必要がある。

たぶん、そのバッファが足りないんですね。会話って、別に16倍速ではしゃべれないですよね。脳の使える一時バッファが限られているから、その量が100文字、ってことじゃないですかね。

——世の中には、ものすごいトレーニングの結果、がーっと長文を音声入力できる人もいるんですよ。大御所の作家先生とかはそうらしくて。電話先で「今日は何文字いるの?」って編集者に伝えたら、「じゃあいくよ」って言って、がーっとしゃべる。しゃべり終わったところで、ピッタリ指定の文字数という。

GOROman:ジョン・カーマックもそうですよ。でもかれ、宇宙人だから(笑)

脳内のキャッシュは限られているけれど、それを出し入れして働かせる訓練ができている、ということじゃないですかね。

——だから、まだしも腕を動かした方が、文章を残すとか絵を描くとか、そういう作業には本質的に合っている気はしています。手でやると、脳から出た結果ブラッシュアップされる、的な。
 


 
どうだろう? なかなか示唆に富んだ意見だと思う。

筆者もひどい肩こり持ちなので、音声入力は色々試してきた。それこそ、15年以上前からだ。だが、どうしてもそれだけで仕事をするに至れないのは、変換効率の問題以上に、「自分が書いている原稿の先が見えない感」があったからだ。

GOROman氏の指摘する「バッファ説」は非常に納得できるものだ。

正確には、小さなバッファしかなくても、やりようはあるのだろう。脳内に原稿をきっちり描く能力があり、訓練ができていれば、件の大作家先生のような神業もこなせるのだと思う。

ここには「目隠し将棋ができるか否か」に近いものがある、と、このインタビューの後に考えた。目隠し将棋は、実際にはそこまで難しくはない。だが、脳内に回路ができないと全然ダメなのだ。私が音声入力で文章を書けないのは、商業的な長さの文章を書くための回路が「ワープロ/エディタに特化」して作られているからだろう。紙ではできる気がしない、というか、数倍の時間がかかる。回路が出来ていないからだ。

この「回路」という話は、別に文章のような長いものだけに限らない、と思う。AIが一般化してUIレイヤーになり、「声やチャットで操作する」のがあたりまえになる、と予想されているが、みなさんは「きちんと命令を素早く与える」ことはできるだろうか? 自分がやりたいことをきちんと言語化するのは難しいことだ。音声コマンドに違和感を覚える理由はそこにある、と思っている。そのうち慣れて、多くの人が「回路を脳内に持つ」ようになるのだろうか。

そこのギャップが埋まるかどうか、もしくは「空気を読んで動いてくれるAI」ができるようになるかどうかが、ひとつのポイントだ。

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2016年12月23日 Vol.110 <今年の成果、今年のうちに号> 目次

01 論壇【小寺】
 定時制高校からいろいろ学ぶ
02 余談【西田】
 音声で原稿を書くとき「頭」で起きていること
03 対談【小寺】
 おやすみ
04 過去記事【小寺】
 景気回復の中にも浮沈が。家電業界サバイバル時代
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

 
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