やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

出口が見えない我が国のコロナ対策の現状


 このメルマガの月末恒例巻頭言を書いている最中にも揉め事や困り事の連絡は多数届くわけなんですが、五輪前から夏休みの感染症対策や夏場の経済息切れへの追加予算などさまざまな検討が全部見送られ、それらの理由も単純に「本当に五輪開催が大変だから」と「ワクチンが計画通り水揚げされず、9月末以降も見通せなくなりかねないから」という微妙な内容だったためにガックリ来ておるわけですよ。

 もちろん、このメルマガが出るころには東京だけで感染者が一日3,000人、何も対策が取られなければオリパラ閉幕時には7,000人オーバーもあり得るという状況で、確かにワクチンを2回きちんと打っていれば重症化しないとはいえ感染すればキャリアとなり他の人に伝染させる可能性はありますから、いままで通り以上の対策が必要であることは言うまでもありません。

 政策立案の現場を見ていて、一番困ったなと思うのは、やはり国民には感染症対策の徹底を政府が強弁しておきながら、一方で東京オリンピックは無観客ながら開催するという決定になったおかげで緊急事態宣言と嘯きながらも誰もそれに注意を払わなくなった、という点でしょう。「感染するぞ」「人が死ぬぞ」と言っても、そういう緊張感を一年以上にわたって持続させることは不可能で、なんとなれば、そういう危機的状況も一年経てば日常になってしまうわけです。そこにオリンピックですから、政治の欺瞞を国民が見抜いて言うことを聴かないのは当たり前で、ただし、感染症は人間の所作ではありませんからガンガンに感染者は広がります。

 ワクチンさえ打てばほとんど重症化しない&40代以下の若者はそこまで重篤化しないという前提ながら、それでも一日3,000人というオーダーで感染者が出てきてしまうと、検査で陽性者を炙り出しする以前に高熱で苦しんでいる人が高熱相談窓口に電話を多数入れる事態となって、検査どころではなくなります。分かっていたことだけど、本当に起きてしまったのでどうしようもない事態なんですよね。

 デルタ株の本当の恐ろしさ、また次に続くラムダ株も、ちょっと想定を超える感染力であり、一部の研究では感染者が無症状のうちに咽頭に出現させるウイルス数が従来株の1,000倍とかいう途方もないデータが出てきております。イスラエルも60歳以上の高齢者には3度めのワクチンを接種する方向となり、アメリカでもワクチン接種済みの人でも場合によってはマスクを推奨する流れとなりました。

 日本では、これから40代から50代の、「高齢者でもなければ若者でもない」人たちの接種の立ち遅れから、一大クラスターが発生する恐れも懸念される事態となりました。もしもラムダ株がいま危険視されている通りの感染力を持つならば、通勤・通学電車もいままでほど安全ではないぞという可能性さえ指摘されることになるでしょう。

 そして、日本の多くの感染者は政府が「やめてくれ」と言っていた飲酒を伴う多人数での会食を機会に感染が広がっているのは間違いありません。政府は国民を統制しなければならないのは、本当の意味で国民の生命と健康を守るためなのですが、その国民が「いや、友達と酒は飲みたいっス」と判断するとき、どこまで介入することが望ましいのか改めて考えないといけないんですよね。

 その点では、森田朗先生など行政学クラスタや医療クラスタが政策面で主張する「感染症対策のために、一部私権を制限することも視野に入れて政策立案する必要があるのではないか」という流れは年末に向けて出てくると思います。

 それも、いま選挙対策で自民党など与党が公約の目玉として掲げたい「年末までには日本経済正常化」とGOTO政策の話が、どうやら「ワクチンを2回接種しても感染拡大させる恐れはありそうだ(ただし重症化はしない)」ことと「より感染力の強い株が出ると、3回目の接種が必須になりそうだ」という話とで立ち往生しておるわけですよ。

 そこへ、40代から50代のワクチンロス世代はワクチンを打ちたくても打てないという状況で、例えば幼子を抱えた父親母親がともにコロナで倒れて隔離されたとき、子どもはどうなるのかという問題や、ブレークスルー感染症と言われるワクチン接種しているのに2度、3度と感染・発症してしまう人の問題、さらには後遺症の問題なども絡んで、まったく見通せなくなってしまったなあというのが現状です。

 いまや東京での感染者数の増大とともに一部マスコミでは「東京型」「百合子型」とも言われる東京独自のコロナウイルス株の出現があったのではないかと騒ぎになっています。もちろん、ウイルスなんていつでも変化するものであって、昨年8月もかなり堂々と歌舞伎町型ができて札幌や福岡、沖縄で蔓延したことも背景にありますので、何も不思議ではありません。それでも、日本は諸外国に比べれば感染者も死亡者も絶対数としては少ないので、株ができたところで「だからなんだ」と言いたいところではあるのですが。

 それもあって、ワクチンさえ打てばコロナ禍を乗り越えられ、感染症問題に打ち勝てて経済も社会も「正常化」するのだという楽観論はいままさに消えてしまいそうな流れになってはいます。「重症化しなければいいや」は、結局「若者の感染者にも不調が長期間解決しない後遺症が出る」&「一度回復して自己免疫ができても変異株が出るごとに二度、三度と感染する」ということで、これはもうどうしようもないぞというのが正直なところです。

 もはや、都市生活はなるだけ控えめにして、リモートワークから通常出社の経済に移っても自分を守るためになるだけ外出をせず感染症対策は怠らずにやり続けることしか自衛できる手段はないのかな、と思ったりもするのですが。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.Vol.339 出口なし状態な我が国のコロナ対策を憂えつつ、台湾LIN漏洩事件が抱える真の問題点や一見好調な映像配信ビジネスのあれこれを語る回
2021年7月31日発行号 目次
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【0. 序文】出口が見えない我が国のコロナ対策の現状
【1. インシデント1】台湾LINE、台湾要人に使われるもセキュリティホールを突かれて大惨事発生の巻
【2. インシデント2】このところの映像配信ビジネスの動向についての雑感など
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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