やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

問題企業「DHC社」が開く、新時代のネットポリコレの憂鬱


 いろいろアレな感じのお騒がせ企業DHC社が、差別用語満載の素敵記事を削除に追い込まれました。

 DHC社会長の吉田嘉明さんにつきましては、いろいろありましたので個人的に申し上げるべきことはそう多くないのですが、ただ周辺の事態はDHC社や吉田さんの「モノの言い方」を起点としてなかなかの火力で騒ぎになってきているので触れないわけにもいきません。

 思い返していただきたいのですが、俺たちの渡辺喜美先生があわよくば連立政権として自民党政治の一角になる寸前まで行ったところで、吉田さんとのカネの貸し借りやその周辺で勃発した女性問題が出火し、大きな騒ぎとなった「みんなの党 8億円の熊手事件」というのがありました。

渡辺喜美氏、8億円の借金で「熊手買った」が話題に

 私に言わせれば、吉田さんというのはある意味で「金払いは良いけど、政治的主張が鋭敏な面倒くさいカネの貸し手」であり、一方で政治的なフィクサーになるほどには邪悪な立ち振る舞いをしようともされず、ここぞと思うところには大金を張り、見込んだ人物には(当面のあいだ)惜しげもなく資金協力する、厄介なスポンサーであったわけです。

 その意味では、グロービス堀義人さん、JR東海の葛西敬之さんやゼンショーの小川賢太郎さんほか、落選議員の面倒を見たり、政治塾をやったり、ある意味で松下政経塾みたいな立て付けの仕組みを作るんが好きな財界人はたくさんおられます。共通するのはお金と政治介入であり、皆さん企業家として成功されたり、人望を集めて目立つ存在であることに変わりはありません。

 ただ、DHC吉田さんは、例えばかなり昔、私に対して「君はもっと右寄りになるべきだ」「左派に共感を示すべき人物ではない」というようなことを仰り、私がやるネット番組に出たらどうかと本人が持ちかけてこられたりします。それは、取りも直さず影響力を持って、手ごろな政党から出馬しなさいという話に他ならないわけです。

 私もカネには困っていないので、また今度お話しましょうと言って逃げるわけですけれども、吉田さんに「お世話」になった人たちは少なからずおられます。中には先日政府参与を辞任した時計職人の方も一定の「ご配慮」があったようにも聞いていますし、交遊関係の中で自分が理想とする社会を作るのだ、影響力を行使しようという思いが強いのもまた事実です。

 いわゆる民族右派系の人たちとの繋がりも多々指摘されるところですが、それらの人たちとの交流の中で感化されたというよりは、もともとそういう人物であって、共鳴する人たちが集まってきた結果がDHC社のあの先鋭化され切った記事だったという風に思います。

 そこまでは、あくまで財界人のある種の政治道楽で済むところですが、やはり渡辺さんの熊手しかり、カネの貸し方使い方だけでなく、人に対する立ち居振る舞いも非常に独特なものがあるので、外から見れば途方もないワンマンに見えますし、泣かされた女性が週刊誌に話を持ち込んでくることは何度もありました。上手く取り入ることができれば打ち出の小づちを得たと小躍りする人たちも少なくない一方、ちょっとした機嫌の良し悪しや物言いのあれこれで引っかかったら最後、結構簡単に放り出されかねない緊張感のある界隈であることは言うまでもありません。

 シャレにならなくなったのは、DHC社に対する不買運動が多少激化したあとで、本来吉田さんがやりたかったネットでの言論において逆風が吹き始めたことです。端的な話、MXテレビジョンでやっていたニュース女子の問題ぐらいまでであれば現場が汗をかけばどうにでもなったことですが、今回はDHCシアターが提供する動画番組で武田邦彦氏や須田慎一郎氏らが流したガセネタに起因するGoogleへのクレームだったとなれば話が違います。

 中道から見ても、さすがにビル・ゲイツ氏の問題で大層なガセネタを堂々と流して無事に収まるとは思えず、それらのきっかけは、まだ危ういバランスながら成立していた吉田さんの政治への想いを暴走させるに至らせた、吉田さん周辺の太鼓持ちの問題じゃないかとも思うわけです。さすがに、あの文言はヤバいわけですよ。あれをヤバいと思わない人が、そそのかしたんじゃないかっていう話ですね。

 そしてその先例は、YouTube番組に対してプラットフォーム事業者であるGoogleが内容を審議して動画掲載の可否を決定せざるを得なくなるという介入をする方向にいくのではないかという流れになります。先般も、フェイクニュース研究で日本の問題点としてネトウヨ系、パヨク系という分類と共に非英語圏である日本独自の出鱈目な言論に対する研究を各国から持ち込まれる事態にすらなったのは興味深いところです。

 さらには、Jアノンとまで揶揄される、トランプ礼賛の動きが明確に問題視されるに至り、もちろんシャドウステイトなど来ないし日本国民に大層な金額が振り込まれるなどということは実現しなかったことを受けて「あれは騙されたのか」と内部崩壊しかねない問題にまで発展するわけであります。これらの責任が吉田さんにあるはずもなく、ただそういう過激な民族右派的な言論の場が関係者同士で共鳴し、危ういチェレンコフ光を放っているように思えるわけですよ。

 左翼の言論にも酷いものはたくさんあるわけですが、かといってこんなものをネットで野放しにしているわけにもいかないので困ったもんだなあというところで、今後いろんな動きが出てきてしまうのではないかと危惧しています。

 自由な言論を守りたいと思いつつも、この手の問題が出るたびにやれやれと言う感じになってしまうのですが。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.Vol.335 コロナのことで皆さんに知っておいていただきたいと切に願うことを長々と書いてみつつ、DHCのアレや世界的半導体不足の話題にも言及する回
2021年6月1日発行号 目次
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【0. 序文】問題企業「DHC社」が開く、新時代のネットポリコレの憂鬱
【1. インシデント1】「蹴れ」と言われたので蹴り込んだボールが10か月の時を経て頭上に振ってきた件で
【2. インシデント2】世界的な半導体不足の状況下で夢が広がる日の丸半導体戦略は大丈夫なんでしょうか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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