やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

東京新聞がナビタスクリニックの調査を一面で報じたフェイクニュース気味の事態の是非


 これはやってしまいましたなあ、と思うんですよね。

『<新型コロナ>抗体検査5.9%陽性 市中感染の可能性 都内の希望者200人調査』という東京新聞記事内容に疑問視する声/さらにフジテレビグッデイにもナビタスクリニックの 久住英二氏が出演 - Togetter

久住医師 東京新聞が一面で扱うよ。ナビタスクリニック おむつ論文

 こんなインチキが罷り通ってはいけないと思う部分もあるんですけれども、つまりはナビタスクリニックが行った抗体検査というのは、久住英二さんや上昌広さんが書いておられるように「あくまで、コロナウイルスへの感染が気になって不安になり、検査を受けたいと思い、ナビタスクリニックを知り、そこで一回5,500円の抗体検査を受けた200人の勇者」という限られた眷族が集った結果でしかないのですよ。

 当然、この標本は、例えば東京都1,300万人でも同じ割合でIgG抗体を持つ人がいるはずだ、というような「代表性」をもっていません。ましてや、男女、年代、家族構成、既往歴その他の背景調整はされておらず、第三者からの査読や検証が可能なだけの対照性も備えていません。

 ましてや、ここで使われているクラボウ製と思われる検査キットの感度も特異度もはっきりとは分かっていません。EARL先生が言うには、感染症センターでは使い物にならないと評されている代物であるようなので、だとするならば、むしろ利益相反(COI)が疑われる案件で気になります。


 要は「これはナビタスクリニック内のカンファレンスなどで『うちに来た保険外の外来さんを調べてみたら、5.9%の抗体を持ってたっぽいです」という以上のものはないわけですよ。

 さらには、医学論文以前の問題として、調査をかけて公表するのであれば、当然のように倫理委員会の査定を踏まなければならないのではないかと思うのですが、いまのところどこかの倫理審査を受けたという記述も見当たりません。もしもなんらか速報や予備的なサマリーがあるようであれば、これは見てみたいとも思います。

 これらの問題をすべてクリアするとはちょっと思えませんが、この内容であるならば信頼区間もへったくれもなく、おそらくは傾向値として参考にすることはできても何らかの施策の根拠になることはまったく無いと言えるでしょう。

人を対象とする医学系研究に関する倫理指針ガイダンス

 ただ、いずれにせよ厚生労働省が本来は4月末から始めるとされていた広域の抗体検査がきちんと行われれば、それに見合った感染者数の推定は統計的に出ると思います。厚生労働省には「早くやってね」という以上の要望もないのですが、まさかナビタスクリニックがこんな愚かなことを現場無視でしでかすとは思いもよりませんでした。

 そして何より、こういうことを平気で一面に掲載してしまう東京新聞のリテラシーのなさに加えて、実質的にフェイクニュースと言っても差し支えのない、統計的に意味を持たない内容についてどう思っているのか聞いてみたい気持ちもあります。心配になってナビタスクリニックに電話して、カネを払って抗体検査を受けている人の割合が微妙な精度のキットにておよそ6%だったからといって、それが具体的に何の参考になり、誰かの行動の役に立つのか分かりません。

 もちろん、今後厚労省の広域調査をやってみたら、やっぱりIgG抗体を持っている日本人は6%近くいた、ということはあり得ます。しかしながら、そうであったとしてもナビタスクリニックのデータが当たっていたということにはなりません。その標本が、母集団において代表性を持つのかしっかりと検証し、適切な倫理審査を経て価値のある知見になっていない限り、この報道も、この調査も問題が大きいと是非認識していただきたいものです。
 

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Vol.296 東京新聞一面記事の是非を問いつつ、コロナ禍の最中における情報リテラシーのあり方や危機を迎える大学運営の今後を憂える回
2020年4月30日発行号 目次
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【0. 序文】東京新聞がナビタスクリニックの調査を一面で報じたフェイクニュース気味の事態の是非
【1. インシデント1】コロナ流行と情報リテラシーのせめぎ合い
【2. インシデント2】コロナウイルスでクソ大学の再編はあるのだろうか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【4. 補遺】有料noteに追記した内容と、相場観についての補足

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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