やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

パニック的なコロナウイルス騒動が今後社会にもたらすもの


 いま東京に戻るガラガラの新幹線の中で、この記事を執筆しております。3月25日ですが、自宅に帰るころには26日になっていることでしょう。

 コロナウイルス禍においては、私自身は専門外なのでそれそのものを語るのは良くないことだと思っています。一方で、対策において先般来賓がありいろいろ詳しくお話を伺う機会があり、また過去に政策シミュレーションに参加した際に経験したことと似たような経緯を辿っていて非常に興味深いわけです。

 おそらくは、3月31日をめどに大きな政策的な決定を政府は発表せざるを得なくなるでしょう。3月31日はまさに多くの日本企業の決算日であり、ここで株価が暴落していては4-6月期にちょっとやそっとの財政出動ではどうにもならないぐらいのダメージを日本経済は負うことが確定しているからです。本当はその前に終息のめどを立てたくて、2月の終わりから総理大臣の安倍晋三さんが何度も「ここ2、3週間が山場」と言い続けていたんだろうと思うわけですよ。

 でも、一向に新型コロナウイルスは収まらず、それどころか、東京都にパンデミック発生の疑いがあることが徐々に分かってきて、全国の学校休校の延長論議とは別に、東京都、神奈川県の都市封鎖を検討せざるを得ないところまで追い込まれてしまったことになります。

 これは、安倍さんが悪いわけではないんですよ。誰も悪くないんです。外出の自粛を求める話はずっと広報し続けてきましたし、我が国はあくまで外出の自粛を求めるにとどまる以上、営業停止や興行の中止を法的に義務付ける方法がずっとありませんでした。緊急事態に対処するための有事法制は主に野党の反対も根強いこともあり、ずっと不人気な政策課題としてたなざらしにしてきた結果、いざ本当に緊急事態がやってくると日本政府は国民に禁止を強制させる方法を持てないことが仇になってしまったわけです。

 ここで野党を腐しても仕方がありません。いままでさんざん有事法制に反対して官邸デモまで打っておいて、実際に緊急事態がやってくると「総理にはリーダーシップが足りない」と言い始めるわけですから、これはもう与党と野党の立場上仕方がない日本政治の伝統芸能だと思って諦めるしかないのだと思います。

 しかしながら、実際にはこれは放置できないので、おそらくは感染法31条から33条、44条3の2項を使って政令を出し、即日施行のうえで安倍さん自身による緊急事態宣言、そして都道府県知事による外出禁止令の強制・ロックダウンを宣言することになるのではないでしょうか。指定感染症に今回の新型コロナウイルスを指定し、期間を決めずに協力を求める方法をとるのではないかと思います。
 

(交通の制限又は遮断) 第33条  都道府県知事は、一類感染症のまん延を防止するため緊急の必要があると認める場合であって、消毒により難いときは、政令で定める基準に従い、72時間以内の期間を定めて、当該感染症の患者がいる場所その他当該感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある場所の交通を制限し、又は遮断することができる。

(感染を防止するための協力)第44条
2 都道府県知事は、新型インフルエンザ等感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、前項の規定により報告を求めた者に対し、同項の規定により定めた期間内において、当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の当該感染症の感染の防止に必要な協力を求めることができる。
3 前二項の規定により報告又は協力を求められた者は、これに応ずるよう努めなければならない。

 
 紛れもなく、3月31日までの攻防として、日本経済へのダメージを最小限に抑えたうえで、感染者急増のカーブがせせり立つ前に4月1日を迎えたいという曲芸のような決定を強いられているのがいまの安倍政権であろうと思いますので、これがこの一週間以内にミッションコンプリートできるのかどうかはひとえに日本国民と安倍晋三さんの豪運に掛かっている、と言えます。

 まあ逆から言えば3月31日までは絶好の売り場で、そこから先の4月1日はこりゃもうどうもならんよねという相場であろうかとは感じるわけです。これが日経平均株価1万円割れだとか、円高進んで102円切るぞとか、日銀砲では止めきれずに国民みんなでオケラになってまだらなインフレになるぞとか、そういう経済危機ライクな現象はこれから続発するのかもしれませんが。

 今後の見通しとしては、あくまで私個人の見立てで申し上げるならば(専門家の一角である家内の意見もありますが)、おそらくは、この新型コロナウイルスは撲滅に人類は失敗をしたので、毎年じりじりと変異を出しながら世界中の人に感染していく、重い風邪のようなポピュラーな病気として定着していくことでしょう。いや、内科医がよく言う「すぐ肺炎になる重い風邪」というのは、実はこの新型コロナウイルスに近いRNAを持っていたのかもしれません。

 ただ、新型コロナウイルスはいま物凄く騒がれ、パニックになっていますが、実際には「どうなるか分からないからとても怖い」のであって、感染者の8割は軽症で快癒するという話が事実であるならば、去年世界で3,000万人以上が罹患し、数十万人が死亡しているインフルエンザのほうが実は怖ろしいということでもあります。そして、インフルエンザも新型コロナも、毎年毎季節と変異がどこどこ出てきて、一定の周期で大流行するという基本的な疾患として人類社会に定着していくことでしょう。そういう日常になるまでの間、人類が新型コロナウイルスを受け入れる心の準備ができておらず、結果として過剰な感染症対策を行い、場合によっては都市封鎖までしてしまって、対策をしてる感を出さないと社会がもたないのかなとも思います。

 そして、インフルエンザも新型コロナウイルスも人類社会に当たり前に存在する一方、この騒ぎの教訓は確実に世界で共有されたので、ここから先はみな良く手を洗うようになり、感染症を防ぐために人と人とが密接に関わろうという機会をなるだけ減らそうというコンセンサスができるようになるでしょう。そういうウイルス感染に対する対処が社会的に定着した国ではインフルエンザや新型コロナウイルスだけでなくそれ以外の感染症で命を落とす人たちが減り、なお大規模に人が集まったり誰とでも抱き合ってキスするスキンシップをする社会はいつまでも感染症が無くならないという結論になっていくのかな、と。

 もちろん、想定以上に新型コロナウイルスが凶暴な変異を繰り返し起こす可能性は否定できませんし、そうなったら社会全体が、あるいは国家が強制して国民の免疫状況を管理する社会へと変貌していくことでしょう。私たちが扱う身分証明に「免疫管理票」のようなものが埋め込まれたり、定期的に免疫の状況をチェックするのが当然という世界観もあり得ます。

 これが、専制主義的な強制によって行われるのか、あるいは民主主義的な国民の合意によって管理されるのかは別として、私たちが生まれた後に感じたこともなかったような不自由を甘受しつつ、自分の身を守り、社会を安全なものとするためにいままでとは異なるパラダイムへとシフトしていくことでしょう。

 今回のメルマガにも、AIによって国民が管理される社会になる一歩手前として、AIによるスコアリングでの与信が適法化される方向で話が進んでいることを書くつもりですが、そのスコアリングの中に、例えば感染状況、免疫の状態、腸内フローラの内容なども入ってくる社会になったとして、それはディストピアなのでしょうか。それとも、人間は危機に対応してより賢くなった、と胸を張って言える世界になるのでしょうか。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.291 コロナウイルス騒動が今後社会にもたらすものが何であるかを冷静に見つめどうやって生き残るかを考える回
2020年3月30日発行号 目次
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【0. 序文】パニック的なコロナウイルス騒動が今後社会にもたらすもの
【1. インシデント1】コロナウイルスとは無関係に夕刊紙やスポーツ紙は死ぬ運命にあるのではないか問題
【2. インシデント2】それでも人工知能(AI)は我々の生活の中にどんどん浸食してくるという話
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【4. オフィシャルnote投稿増補版】藤野英人さんのコロナ暴落時代「インベストメント・トリアージ論」に寄せて

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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