高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

空港を見ればわかるその国の正体

高城未来研究所【Future Report】Vol.260(2016年6月10日発行)より


今週はシドニーにいます。

空港を見れば、その国がわかる、と僕はよくお話ししますが、観光客でもビジネスマンでも、ウエルカムな姿勢を言葉ではなく、現実的な機能として実行している空の玄関口を持つ都市は、必ず繁栄が見込めます。
なにしろ、利便性よく入国できるわけですから、人もお金も集まりやすいことを意味し、シドニーは、そんな空港のひとつだと思います。

まず、オーストラリアに入国するためには、事前にオンラインでビザの取得をしなければなりません。
これは有料サービスですが、飛行機に搭乗する数時間前なら、空港でスマートフォンからの申し込みでも可能で、あとはシドニーについたらスキャナーにパスポートを入れ、ゲートで自動的に写真撮影が行われるだけで、入国審査は完了です。

これは、世界中すべての人が可能なわけではなく、オーストラリアの友好国で、事前にオンライン上でスクリーニングが終わっているから無人かつ簡易な手続きだけで済むのでしょうが、逆に同条件のはずのオーストラリア人が、成田空港に降り立ったあとのことを考えると、その差は歴然です。
下手をすれば、数時間の大行列に並んで、その間スマートフォンにも触れなければ、トイレに行くことさえ困難な現実が待っています。

その上、このような成田空港の事実を書くと、頻繁に成田空港の広報から僕にクレームが来るのですが、それは、顧客満足度をあげるために改善をしようという前に、問題を「なかったこと」にすることが先決な、悪しき組織だという証でもあります。
どんなに空港の表層的なデザイン(ハードウエア)を施しても、組織(ソフトウエア)が旧態依然としていたら、結果的に顧客は満足しないものです。
特にサービスという概念を、職員に徹底教育するのが、成田空港の務めだと思います。
広報も含め。

今週、シドニーに来る直前まで香港にいたのですが、香港の電子無人入国審査は、驚くことにマイレージカードのステータスを持っていれば、誰でも電子入国登録が可能で、事前のオンライン・スクリーニングなども一切ありません。
また、香港から中国本土の深センに陸路で向かうと、自動車から一歩も出ることなく、入国審査も税関検査も終わります。

もちろん、欧州内シェンゲン協定内の国家間移動であれば、入国審査も税関検査もなにもありません。
そして、その協定国は年々増えており、おそらく10年以内にはロシアも含まれると考えられます。

一体、21世紀の入国審査とは、なんなのでしょうか?

移民問題が各国で大きくクローズアップされる中、ゲストに対する「あたらしい入国サービス」は、ここ数年であたらしいステージに入ったと感じています。
言い換えれば、顧客満足度を高めることができない空港を持つ国は、今後成長することは見込めないということなのでしょう。

さて、今週シドニーでは、ViVid Sydneyというイベントが、町中で開催されています。

Vividは、アイデアと映像と音楽、そして照明の100万人規模のイベントで、日本のルミナリエやクリスマス街路樹と違って、街との一体感が素晴らしく、町中がプロジェクションマッピングされ、「街ごとメディア」や「街ごと現代美術館」の様相です。
ただゲストがやってきて、見て帰るイベントではなく、自らLEDを体に纏ったりする参加型のイベントで、言うならば「光のフェス」のような感じです。

面白いのは、街中の小さなカフェの店内でも、自らこのイベントに参加するために勝手にデコレーションしており、このような背景にはLEDが安価に普及したこともあるのでしょうが、市民のセンスが問われる点でもあります。

この市民のセンスとは、一体どこから生まれるのでしょうか?
いうまでもなく、自由な表現や発言は、風通しが良い機能的かつ自由な社会システムから生まれるものですので、空港を見れば、その町で暮らす人たちのことがわかるのです。

シドニーは、まだまだ成長の余地があると感じています。

 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.260 2016年6月10日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. マクロビオティックのはじめかた
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 著書のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

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高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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