小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

「テレビを作る側」はどこを向いているか

※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2015年11月20日 Vol.058 <師走への助走号>より




 
今週水曜日から金曜まで、千葉幕張メッセにて国際放送機器展「InterBEE 2015」が開催されている。皆さんがこれを読んでいる頃が、最終日の一番盛り上がる時間帯である。

年に一度開かれるこのイベントは、映像業界に暮らすものとしてはお伊勢さん参りに近いものがある。特にメーカーのエンジニアさんとはこういう機会がないと直接話を聞く機会がないため、プロ映像の技術解説者としては貴重な機会なのだ。したがってここ数年は、モノを見に行くというより、話を聞きに行くということに重心を置いている。

今この執筆時点では2日目が終わったところだが、今年のInterBEEから見えてきたトレンドをご紹介したいと思う。プロ業界のトレンドではあるが、1〜2年後には市販の映像コンテンツとして、みなさんのお手元に届くことになるため、これから何が来るのかが大体わかるはずだ。

 

4K当たり前?

こういった展示会というのは、まだ市場でトレンド化する前の技術を披露する場である。つまりこの場で新鮮味がなくなったものというのは、逆に市場でトレンド化し始めた技術ということになる。

今年も各ブースとも4Kの展示は多いが、逆にもう4Kは当たり前すぎて、今更なに? というところまできた。特にカメラは、パナソニック「AG-DVX200」とソニー「PXW-FS5」の登場で、シネマ系にしろ報道系にしろ、個人でも手が届くいいカメラが登場し、これから4Kコンテンツ制作は特別なものではなくなってくる。

・AG-DVX200
http://panasonic.biz/sav/dvx4k/
・PXW-FS5
http://www.sony.jp/xdcam/products/PXW-FS5/

今回のInterBEEではさらにその延長線上ということで、8Kの技術展示がかなり多くなってきた。まだ製品としてリリースされるようなものはないが、編集システムやレコーダー、伝送装置などは、試作機と言いつつもちゃんと実用レベルで動くものが数多く展示されている。

それというのも、来年開催されるリオデジャネイロオリンピックで、NHKが8Kの試験放送を行なうことになっている。したがって、そこで実証実験ができる体勢まで持っていくというのが、各メーカーのミッションになっているからだ。特にパナソニックは、以前からオリンピックの公式記録映像を担当するメーカーとなっており、NHKとの共同開発で数多くの8K関連ソリューションを展示している。

一方で4Kは、これまでHDを4系等束ねれば4Kになるよね、ということでやってきた。映像の伝送は、カメラからケーブルを4本出して引き廻す。だがこれはまだ実験レベルだから許されたことである。じゃあスタジアム内の20台のカメラから中継車まで400メートルケーブルをひきますといった場合、400メートルのケーブルが80本いりますんでよろしく、という話は通用しない。

さらに4Kの中継車を作りましょう、といった時に、今までの4倍のケーブルがいりますというのでは、まず重量の面で、車両として破綻する。

どうにか4Kを1本のケーブルで引き回せないか。これがプロ映像業界での長い間の願いであった。いやHDMIなら1本で4K通るだろと思われるかもしれないが、長さが足りない。4K映像だと、現実問題せいぜい頑張って10mぐらいしか引き回せないんじゃないかと思う。プロの環境では、それでは全然足りないわけである。

じゃあどうするか、という話を業界ではずっと揉んでいたわけだが、答えは2つあった。ひとつは今まで通りのメタル線のクオリティを上げていって、4Kを1本で通しましょうというやり方。もうひとつは映像をIP化して、イーサケーブルや光ファイバーに通しましょうというやり方である。

前者もかなりいい線までいったのだが、結局かなりケーブルのクオリティに左右されるほか、長さが案外伸ばせないということがわかってきた。一方IP化の方は、ケーブル1本でかなりの長さまでひきまわせるほか、ネットワーク製品、すなわちIPスイッチやルーターのようなものも利用できるため、トータルとしてはかなりコストダウンもできることがわかってきた。

映像のIP伝送は、国際規格が作成されたこともあり、去年から今年にかけて具体的な製品が出てきている。ビデオケーブルの代わりに、イーサケーブルをポチッと差し込む時代まで、あともう少しのところまで来た。4Kのスタンダード化とIP化は、不可分で進むだろう。

 

どこもかしこもHDR

もうひとつ、このInterBEEで顕著なトレンドは、HDR化だ。映像のハイダイナミックレンジ化は、コンシューマでは次世代のUltra HD Blu-rayで採用されたことにより、テレビがいち早く対応が始まっている。

皆さんもどこかで動画のHDRのデモをご覧になったことがあるかもしれないが、HDRという技術は、これまでの映像と比較すると、誰でも一目瞭然で優れているのがわかる。HDと4Kを並べても区別が付かない人は、一般の方では珍しくないのだが、ことHDRに関してはほとんどの人が違いがわかる。

解像度、すなわち映像の細かさというのは視力と不可分なので、はっきりわからない人も出てくるのは仕方がない。一方コントラストというのは、強い光を感じられるかどうかという感度の問題なので、多くの人には正常に判断できるようだ。

今回のInterBEEでは、ディスプレイ系の技術展示はもちろんの事、放送局やポストプロダクション、コンテンツ制作会社といったブースが、こぞってHDRの技術展示を行っていた。実際映像の撮影は、映画制作で使われているログガンマ収録を行えばHDRソースは作れるので、その技術を競うという状況になったものと思われる。さらにこの期間中、スカパー!がHybrid Log-gammaを使ったHDR放送を行っており、その制作に携わっただとか、会場内で受診してHDRディスプレイに映すといった展示も見られる。

実際に今年末から来年頭に販売されるテレビは、HDR対応が進むものと思われる。もはや4Kだけでなく、HDRもセットで行くというのは、業界では織り込み済みとなっている。

収録現場も、HDR対応で変わってきた。これまでスポーツ中継などは、カメラの映像が最適なコントラストになるよう、ゲインやアイリスをエンジニアが逐次細かく調整していた。だがカメラ自体がログ収録が可能になった今、現場で細かくコントラストを調整する必要がなくなっている。実はHDR化は、制作の手間が増えるわけではなく、逆に楽になる手法なのである。

その一方でHDRというが、一体どれぐらいまでの明るさが一般ユーザーにとって許容できるのかという問題がある。規格的には従来の10倍ぐらいは行けるのだが、そんなに明るかったら眩しすぎるだろうという話も出てきている。

つまり、視聴者の健康を損なわず、十分な効果が感じられるのはどの辺なのか、あるいはそこそこのHDR対応テレビの許容範囲はどの辺なのか、というのが悩みどころとなっている。現実的なところとしては、従来の4倍から5倍ぐらいのところに落ち着くのではないかと見ている。

今後コンシューマのテレビは、4Kは当たり前の時代に突入する。さらにここ数年で、HDR対応が徐々に進んでいくことだろう。HDRではないコンテンツに対しても、擬似的にHDRらしく見せる技術を、各テレビメーカーがしのぎを削って開発していくだろう。

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2015年11月20日 Vol.058 <師走への助走号> 目次

01 論壇【西田】
 「ITリテラシー」軸で考える、PCとタブレットの違い
02 余談【小寺】
 「テレビを作る側」はどこを向いているか
03 対談【西田】
 「電子書籍ビジネスの真相」の真相(3)
04 過去記事【西田】
 ブログで人は「ジャーナリスト」になる
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

 
12コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。   ご購読・詳細はこちらから!

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