やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

オワコン化が進む、メタバース、NFT、Web3、AIスピーカー… 真打は生成AIか


 生成AI関連は、いままでも雨後のタケノコのようにいた人工知能やDX推進関連ベンチャーの流れの上に綺麗に乗っかるもので、独自で人工知能をサービス向けに開発していた事業者もテクノロジー的には生成AIの方向に合流するところが多いように思います。

 例えば、リーガルテックの世界ではいままで自分たちのテンプレの上にアップロードさせた契約書の類を一定のハコの中に入れて人工知能で解析し、漏れや不公平ポイントなどを割り出す、という牧歌的なものでした。

 人工知能系の対話サービスでよくあるシナリオ型のやり方で、例えば「ここはどこですか」と聞かれるシナリオをインプットしておいて、聞かれた際にフラグが出て「ここは東京です」と回答するようなのが人工知能系サービスの原型でありました。事業的に失敗に終わったPepperは、ガワがああいうロボットなのはどうなのという話よりも、このシナリオ型の応対原型から派生させるやり方である以上、人工知能である必要があるの、というのは常に問われるべき問題であったろうと思います。

 孫正義さんがAI投資に出遅れたのも、単にハズレを大量につかんで虎の子のアリババ株の放出やArmの再上場に向けて負債を圧縮しないと倒れちゃうぞ的な状況悪化とAI投資の立ち上がるタイミングが一緒だった不運ってのはあるんじゃないかと感じます。ちょうど凹んでるときに投資のチャンスが来ていたのは、孫正義さん自身が臍を噛むものなんじゃないかと。

 結局、LLMモデルは人間が分かりやすい形で人工知能の恩恵をアウトプットとして引き出せることと同時に、過去のものが将来も踏襲されるのであれば、そう代り映えのしない、すでにあることの延長線上の未来を見せてくれるサービスとしてはもってこいだという話はすでに各所でしました。21年9月までのデータしか持ち合わせないGPT-4ですら、最新の情報をアウトルックさせるコマンドさえ突っ込んでおけば、そこを参照してきて結論を出してくれるレベルには使えることになるわけです。

 必然的に、リーガルテックの各社に自社の契約書をアップロードしたり、あまりなじみのない契約書のテンプレに無理矢理合わせて契約書診断したりという手法で利用企業側がテクノロジーに合わせるよりも、今回のようにBingやBard、GPTのエンジンはしっかり拝借して本来自社の持つ膨大なデータ資産を別のハコに入れておいてこれを食べさせて必要な分析をする、ということであれば、ジェネレーティブAI登場前の各社サービスを使う必要はなくなります。

 私も「人工知能の進展が凄いのは間違いないが、そもそも人間の知能はその程度のもの」という趣旨の記事を書いて盛大に怒られましたが、裏を返せばその程度のLLMモデルで奪われる程度の仕事は、たいした付加価値を社会に対して生んでは来なかった、とも言えます。また、入門者の仕事をAIが奪うので、その方面の技術の伝承が難しい的な話をされるようになりましたが、確かに「デキる人はもっとデキるようになるのがAI」な割に、入門者に根気よく手ごろなレベルから最後までスキルを伝授できるのもまたAIです。そう考えれば、人工知能による福音はもっといろんなところにあるはずなんですけどね。

 で、日経クロステックでこんな記事が出ていました。渥美友里さんと杉山千織さんの手による記事ですが、この界隈の現状が手堅くまとめられています。

メタバース事業化「失敗」が9割、オワコン懸念を払拭する2つのポイント

 メタバースに関しては、正直Facebook社がMetaに名前を変更してメタバースに取り組むとか言ってる前に、MMORPGでかなり実現されてしまっているものなのであって、デジタルツインや人間そのものや背景など造形物のデジタルプロパティ管理事業といった方面で、実際にはもの凄く需要のある分野はあるはずなのです。

 ところが、あくまでメタバースがなす事業範囲という意味ではオンライン上に仮想社会を作り、そこにリアルの人間が住まうという固定概念から離れられなかったために、あるいは、それって単なるMMORPGの世界で実現できていることだと知らなかったがために、このような失敗9割になってしまっているのだろうとも思います。ゲームやってる人だったらオープンワールド系の定番ゲームですら、Metaがリリースしたメタバースよりも完成度が高いことぐらい知っていますからね。

 また、NFTにせよWeb3にせよ、これらの概念だけでなんとなく凄そうな雰囲気を醸し出して投資をかき集めて起業ごっこをしている界隈は、今回の生成AI方面のように「ある程度ちゃんとした技術を持った人物を集めてちゃんと研究開発を続けておかないと、新規参入することすらできない」世界が主流になると当然のように一掃されてしまいます。

 たぶん、この辺の侘び寂びはベンチャー投資あるあるで、IVS京都がフリーエントリーになったので1万人集まりましたという話とはまた別の、価値のあるコアを作れる人たちはそこにはあまりいない典型例じゃないのかなと思います。華やかにやらず、コツコツとモノを作っている人たちこそが花開く世界になってくれるといいなあと。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.412 生成AIブームと事業投資トレンドをぼんやり考えつつ、ビッグモーター後始末や米中サイバー紛争のあれこれを語る回
2023年7月26日発行号 目次
187A8796sm

【0. 序文】オワコン化が進む、メタバース、NFT、web3、AIスピーカー… 真打は生成AIか
【1. インシデント1】漆黒の闇なんてもんじゃなかったビッグモーター社を含めた中古自動車市場と損保
【2. インシデント2】米国を標的にした中国のサイバー攻撃活動が先鋭化しつつあるように見える件
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」のご購読はこちらから

やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

その他の記事

マジックキングダムが夢から目覚めるとき(高城剛)
『数覚とは何か?』 スタニスラス ドゥアンヌ著(森田真生)
39歳の私が「人生の復路」に備えて考えた3つのこと(編集のトリーさん)
迂闊に「学んで」はいけない–甲野善紀技と術理 2017「内腕の発見」(甲野善紀)
安倍政権の4割近い支持率から見えること(平川克美)
自分の心を4色に分ける——苦手な人とうまくつきあう方法(名越康文)
快適な日々を送るために光とどう付き合うか(高城剛)
新型コロナウイルスの影響で変わりつつあるスポーツのあり方(本田雅一)
ラジオを再発明? ラジオ局が仕掛けるラジオ(小寺信良)
百田尚樹騒動に見る「言論の自由」が迎えた本当の危機(岩崎夏海)
どうすれば「親友」ができるのか–赤の他人に興味を持つということ(名越康文)
交通指揮者という視点(小寺信良)
高2だった僕はその文章に感情を強く揺さぶられた〜石牟礼道子さんの「ゆき女聞き書き」(川端裕人)
5年前とは違う国になったと実感する日々(高城剛)
トヨタが掲げるEV車と「それは本当に環境にやさしいのか」問題(やまもといちろう)
やまもといちろうのメールマガジン
「人間迷路」

[料金(税込)] 770円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回前後+号外

ページのトップへ