※名越康文メールマガジン「生きるための対話(dialogue)」 Vol.098(2015年4月20日)より
「深刻になる」という病
メルマガや講座でいただく質問をお聞きしていると、自分自身の問題について「深刻に」考えてしまって、身動きがとれなくなっている方がしばしばおられます。
でも、残念ながら、物事を深刻に考えてしまうことほど、無駄なことはありません。
こんなことを言うと、怒り出す人もいるでしょうね。「自分の人生に真面目に向き合っている人に、なんてひどいことを言うんですか」と。「精神科医の風上にも置けない奴だ!」と思う人もおられるかもしれません。
しかし、物事を「深刻に」考えることは、「真剣に」考えることとはまったく違います。むしろ「深刻になる」ということは、その人本来の思考能力を奪う枷といっても過言ではないのです。
そして、さらに臨床的な視点から言わせていただくならば、物事を深刻に考え込めば考え込むほど、周囲の人間は、その人をまともに扱ってくれなくなります。「深刻な人」は、他人の食い物にされることはあっても、一人の人間としてきちんと向き合ってもらえなくなる。これは間違いなく、冷徹な社会的現実です。
なぜそんなことが起きるのか。それは「深刻になる」ということが、世界よりも、他人よりも、何よりも「自分」への関心が強くなることによって引き起こされる、ひとつの心的状態に過ぎないからです。別に深刻になったから真理に近づくわけでもなければ、良い考えが降りてくるわけでもありません。深刻さというのは、ただただ「自分」への関心を高める心の働きに過ぎないのです。
必要なことは「深刻になる」という病から脱することを決意して、物事を真剣に考えることができる自分を取り戻すことです。そうすれば、周囲の人もまた、あなたが本来の自分を取り戻す上での、心強い支援者となってくれるでしょう。
人間の知性がもっともその力を発揮するのは、何かを考えているときではなく、何かについて考えることを停止する、その瞬間です。何が考えるべきことであり、何が考えるべきことでないのかを直覚し、実行するということ。
人間は考える力が足りないのではなく、妄想によって正しく考えることをいつも阻まれているだけなのです。その「枷」を外す方法はただひとつ。毎日、きっちりと汗をかく程度に身体を動かすこと。身体を動かさずに深刻に悩む時間ほど、最低のものはありません。
日々、身体を動かしていれば、自ずと答えは見えてくるはずです。
名越康文メールマガジン「生きるための対話(dialogue)」
目次
00【イントロダクション】「深刻になる」という病
01【コラム】「本気で伝える」ことの大切さ 追悼桂米朝師匠
02精神科医の備忘録 Key of Life
・人は複数の時間を生きていい
03カウンセリングルーム
[Q1] 親友と呼べる友達がいない
[Q2] 自分に自信が持てない
04読むこころカフェ(32)
・捨てるべきは他罰性
05講座情報・メディア出演予定
【引用・転載規定】
※購読開始から1か月無料! まずはお試しから。
※kindle、epub版同時配信対応!
好評発売中!
驚く力―さえない毎日から抜け出す64のヒント
現代人が失ってきた「驚く力」を取り戻すことによって、私たちは、自分の中に秘められた力、さらには世界の可能性に気づくことができる。それは一瞬で人生を変えてしまうかもしれない。
自分と世界との関係を根底からとらえ直し、さえない毎日から抜け出すヒントを与えてくれる、精神科医・名越康文の実践心理学!
amazonで購入する
その他の記事
週刊金融日記 第274号 <小池百合子氏の人気は恋愛工学の理論通り、安倍政権の支持率最低でアベノミクスは終焉か他>(藤沢数希) | |
大きく歴史が動くのは「ちょっとした冗談のようなこと」から(高城剛) | |
役の中に「人生」がある 俳優・石橋保さん(映画『カスリコ』主演)に訊く(切通理作) | |
アジアではじまっているメガハブ空港の王座争い(高城剛) | |
ピコ太郎で考えた「シェアの理解が世代のわかれ目」説(西田宗千佳) | |
ファッション誌のネットを使った政党広告炎上は本当に“炎上”だったのか(本田雅一) | |
俺たちが超えるべき103万円の壁と財源の話(やまもといちろう) | |
教育経済学が死んだ日(やまもといちろう) | |
5年後の未来? Canon Expoで見たもの(小寺信良) | |
良い旅は、旅立つ前に決まるのです(高城剛) | |
歴史が教えてくれる気候変動とパンデミックの関係(高城剛) | |
「消防団員がうどん食べてたらクレームが来て謝罪」から見る事なかれ倫理観問題(やまもといちろう) | |
「わからない」という断念から新しい生き方を生み出していく(甲野善紀) | |
タロット、ルノルマン……人はなぜ「カード占い」にはまるのか(鏡リュウジ) | |
米国大統領とテカムセの呪い(高城剛) |