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「OP PICTURES+フェス2022」石川欣・髙原秀和 80年代デビューのピンク俊英たちが新しい時代に放つ爆弾!

 今年もテアトル新宿で開催中であり、シネ・リーブル梅田でも開催が決定している「OP PICTURES+フェス2022」。ピンク映画のR15版の祭典である。

 その中で上映され恵右『背中合わせのふたり』は、石川欣監督・脚本・編集。髙原秀和によるプロデュース作品だ。

 石川と髙原の2人は80年代にデビュー、互いに認め合っている仲だ。石川を現役ピンク映画の監督として呼び戻したのが髙原だった。

 『背中合わせのふたり』は危険な匂いのする都市を舞台に、シニカルな中年主人公が、謎めいた女と出会うという、まさにノワール調。

 ギャンブルで儲けた金でデリバリーヘルス「宝石レディース」に電話する武三(重松隆志)のモノローグから始まる。人気ナンバーワンだという「ダイヤ」と名乗る女(きみと歩実)がホテルにやってきたが、インド系の民族衣装めいた格好で現れ、いきなり踊り出す。その踊りにつき合って自らも身体をくねらすしかない武三。やがてベッドの上であっけらかんと股を開き、ウエルカムな体勢を取ったはずのダイヤだが、突如ゲーゲー嘔吐しそうになって苦しみだす。なんと彼女は「つわり」になったらしい。
 
 そんな感じで始まるこの映画は、中年男が「ファム・ファタール」(宿命の女)と出会ったと確信するものの、翻弄され続けるという、一見軽いタッチながらほろ苦さもあり、裏社会のヤバさも見え隠れするスリリングな内容。

 髙原は石川の作る映画に対して「『なにもない』ところがいい」という独特な評価の仕方をしている。

 本作も、男性主人公の思いが、片恋の切なさに留まらず、人生の着地点が見出せないで、かといって何かに目的を絞ることも出来ない様を等身大にさらけ出しているのが特徴だ。

 もろもろあって、ダイヤを送り迎えする運転手になった武三だが、ダイヤがSMプレイのM役でいたぶられると知って、その客の相手をしている間、気が気でない彼は送迎車の運転席で本を読んで時間を潰そうとするも老眼でその気になれない。果ては別の店に電話して呼び出した風俗嬢に相手をしてもらうというサイテーぶり。いっそとことんまで堕ちようと、やってきた風俗嬢のインコちゃん(加藤ツバキ)のおしっこを飲もうとするが激しくむせてしまい、逆に自分のを飲んでもらおうとするがイザという時におしっこが出ない。

 そんな中年の空回りがモノローグとともに延々と描かれるのがこの映画の「文体」と言える。

 ダイヤを働かせている反社会的勢力「シャークス」幹部のアカスズメはロックバンドG.D.FLICKERSの稲田錠が演じている。その部下たちもロック界のベテランぞろい。かつアナーキーの仲野茂もユニークな役柄で登場。

 これらのキャスティングはロック魂を持つ映画監督である髙原の人脈もあるのだろう。

 そんな髙原秀和自身の作品も今回上映されている。若い女性の手になる百合漫画を基に作った『さあやとこはる』だ。

 ロックバンドの草分け頭腦警察のPANTAがデビュー前に結成した幻のGSバンドの復活である「ピーナッツバター」のジャケット画を担当した同人百合漫画家の福井遥香と出会った髙原は、福井に脚本を依頼し、作中にも福井の漫画が登場。漫画と映画の境界を揺るがす作品となった。音楽は復活ピーナッツバターと現役頭脳警察にも参加している、おおくぼけい(アーバンギャルド)が担当。

 栄川乃亜演じる足立沙綾は、一部の人間の性癖に訴える同人漫画で人気を博していたが、その収入だけでは生活費にならない。だが作品を発表するということ自体に喜びがあり、作中には自分が送れなかったもうひとつの青春がある。

 沙綾は現実の生活では男性の彼氏・ユウタ(吉田憲明)がいる。自分の事は「僕」と呼び、母親の事は「ママ」。料理の苦手な沙綾のためにいつも母親直伝のローストビーフやビーフシチューを作り、尽くしてくれる彼に不満はないはずだった。

 だが自らの母親(森川凛子)やユウタのママがかけてくる「結婚適齢期」「将来の人生設計」という、世間の枠組みからのプレッシャーにはやや負担を感じている。ユウタとの夜の営みにはイマイチ気が入らないが、自作の百合漫画の中に意識が入り込むオナニーに耽る。

 そんなある日、沙綾の目の前に昔の恋人・中野小春(燃ゆる芥)が現われる。同人誌即売会で人気を博した沙綾の漫画『マーヤとチハル』は自分と小春をモデルにした内容だったのだ。再会を喜び、歩道橋の上でキスをし、愛を育んでいく2人だが、次第に小春は沙綾に対して挑発的になっていく。

 百合を真正面から描きながらも、社会の枠組みなんかに負けず、自分に正直に生きようというロック魂がさく裂し、爽やかな感動を呼ぶ作品だ。

 髙原秀和と石川欣。還暦になっても衰えない創作意欲とそれぞれのスタイルは、OPフェスの中で若手監督のみずみずしい作品の中にあっても、新鮮さを失わない魅力を持っている。

 ぜひそんな才能とも、心ある映画ファンは出会い直してほしい。


上映情報
「OP PICTURES+ フェス 2022」
 22年12月2~15日 テアトル新宿
 23年1月13日〜19日 シネ・リーブル梅田
詳細は http://www.okura-movie.co.jp/op_pictures_plus/

テアトル新宿では期間中、以下の時間以上映
『背中合わせのふたり』 12月13日 21:00
『さあやとこはる』 12月10日 18:50


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31「新しい日本映画を全部見ます」。一週間以上の期間、昼から夜まで公開が予定されている実写の劇映画はすべて見て、批評します。アニメやドキュメンタリー、レイトショーで上映される作品なども「これは」と思ったら見に行きます。キネマ旬報ベストテン、映画秘宝ベストテン、日本映画プロフェッショナル大賞の現役審査員であり、過去には映画芸術ベストテン、毎日コンクールドキュメンタリー部門、大藤信郎賞(アニメ映画)、サンダンス映画祭アジア部門日本選考、東京財団アニメ批評コンテスト等で審査員を務めてきた筆者が、日々追いかける映画について本音で配信。基準のよくわからない星取り表などではなく、その映画が何を求める人に必要とされているかを明快に示します。「この映画に関わった人と会いたい」「この人と映画の話をしたい!」と思ったら、無鉄砲に出かけていきます。普段から特撮やピンク映画の連載を持ち、趣味としても大好きなので、古今東西の特撮映画の醍醐味をひもとく連載『特撮黙示録1954-2014』や、クールな美女子に会いに行っちゃう『セクシー・ダイナマイト』等の記事も強引に展開させていきます。

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切通理作
1964年東京都生まれ。文化批評。編集者を経て1993年『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』で著作デビュー。批評集として『お前がセカイを殺したいなら』『ある朝、セカイは死んでいた』『情緒論~セカイをそのまま見るということ』で映画、コミック、音楽、文学、社会問題とジャンルをクロスオーバーした<セカイ>三部作を成す。『宮崎駿の<世界>』でサントリー学芸賞受賞。続いて『山田洋次の〈世界〉 幻風景を追って』を刊行。「キネマ旬報」「映画秘宝」「映画芸術」等に映画・テレビドラマ評や映画人への取材記事、「文学界」「群像」等に文芸批評を執筆。「朝日新聞」「毎日新聞」「日本経済新聞」「産経新聞」「週刊朝日」「週刊文春」「中央公論」などで時評・書評・コラムを執筆。特撮・アニメについての執筆も多く「東映ヒーローMAX」「ハイパーホビー」「特撮ニュータイプ」等で執筆。『地球はウルトラマンの星』『特撮黙示録』『ぼくの命を救ってくれなかったエヴァへ』等の著書・編著もある。

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