やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

「来るべき日が来ている」中華不動産バブルの大崩壊と余波を被るワイちゃんら


 年末割と慌ただしかったのが、京都や新潟など地方都市で持っていた物件を処分しようと思ったら先方の不動産ファンドが突然日本撤退を決めたので違約金払ってでもキャンセルしたいという話になったからで、さらに北海道でもニセコ町中心にいくつかの大規模案件の撤収が相次いだからなんですよね。

 他方で、それらを受け入れる中国人旅行者は春節から5月に向けて千客万来状態であって、まだら模様の景色になっていたのですが、その旅行者も高額旅行を中心に一部キャンセルが入り始めているのはとても気になる話です。

 さらには、1月末になって(起きたてのほやほや)、東京港区の割と一等地で新たなテナントが入る直前だった商業ビルが突然取り壊しが始まり、他の物件も含めて、どうやら更地にしないと引き取り手が無い中華事業者の売り物件になったようだということで、片方はいまTimesの駐車場になっています。同様に、京都で居ぬき物件や古民家風改装を終えたばかりの中国人さま向けまあまあ高級旅館が客足を残したまま怒りの営業中止、オーナーとされていた中国人ファミリーが行方不明になっているという話もあります。お前らdidiの日本国内白タク配車で大手だったような… どこに消えてしまったのでしょう。

 共通しているのは、今回恒大集団(China Evergrande)の破産決定で連れ安になっている不動産関連から猛烈にカネが中華本土から逃げ始めており、それが日本株の買い上げに向かう上にBTC経由(テザー含む)を嵩上げしたり、これはまあ見事な中国らしいキャピタルフライトになっているなあと思われるわけです。

中国恒大の清算命令、世界の投資家が回収の行方注視-重要な試金石に

中国は不動産バブル崩壊で「失われた10年」に突入するか
「高層マンションが50棟も集まる巨大団地が…」
中国とどう対峙するか

 正直、シャドウバンキングにしても不良債権の山にしても来し方我が国の89年バブル経済崩壊後に20年近く不良債権処理に苦しんだ状況をおよそ20倍の規模で起こしそうなのがいまの中国経済の課題なのであって、なんの政治的な受け身も取らないまま崩壊してしまうようなことがあれば我が国における最大貿易相手国の大コケが影響を蒙らないはずがない、というのが実に悩ましいところです。

 特に中国の場合はバブル崩壊のタイミングで同じように人口減少が一足先に発生して、深刻な需要不足が起きる可能性がある一方、中国は13億人人口がいると言っても経済人口は都市部に集中しており実質的に4億人ちょっとしかいないことを鑑みても国内の経済問題が今後の中国のありようにも大きな路線変更を強いることは疑いようもない事実です。

 それでもバブル経済は崩壊するまでバブルではないわけですし、貨幣経済は常にバブルなのだという教科書的な話をせざるを得ないほど、周辺も「津波が来る前に対応を考えておこう」となるのもまた当然のことで、それは単純に中国経済の変調で問題を起こすのは中国本土ではなくインドネシアや韓国、フィリピン、シンガポールのような中国経済に投資面でも貿易面でも大きく依存した衛星経済のほうであることは明白です。また、アフリカ諸国や中東など、中華マネーに経済の仕組みが依存しているところは焼け野原になるおそれもあって、やっぱりちゃんと出口を考えておかないとなって話になるのもASEANや周辺国共通の悩みになるのも致し方ないのでしょう。

 そんな中で日本株がドーンと上がって経済的にはまずまず順調な状況に見える日本でも、新NISA開幕と共に日本人が日本株を見放してアメリカ株に向かって売り越ししているのも、玉突き的に中国系が資本逃避のためになぜか一足先に中華上場した日本株ETFで一時的に買い上げに向かっている構造がある傍ら、エネルギー・資源貿易では明らかに中国経済の暗い先行きを示していることを踏まえて物事を考えていく必要があるのではないかと思います。この手の上海市場において無駄に発生した需給ギャップとそれによるプレミアム拡大が日本株の暴騰を引き起こしたマネーであることは確実である一方、それらのマネー供給は一連の中国資本政策や不良債権を抱えた不動産会社・金融機関のハードランディング的な清算強行で先行きが不透明になっている(意図しない乱高下が続いて破壊的な相場状況になるリスクを抱えている)ことも指し示します。

 突き詰めれば、中国の投資家は国内市場、特に不動産や自動車などの耐久消費財市場の先行きに深刻な不安感を感じていたとしても、QDII(Qualified Domestic Institutional Investor)の国内投資適格者の枠組みで相場を通じて買うことのできる日本株ETFをぐるぐる買い越しており、22日には保有総額の実に8倍以上の金額が売買されていて、これが野村日経225ETFのコアバリューを動かしていることから、釣られて敏感な銘柄が煽られて乱高下しているという状況は非常に歪んでいると言えます。

 そんなことは分かっとるわという投資家も多いでしょうが、なにぶんそういう人たちが少しずつ大陸から離脱させようとするマネーを日本に投下してきて何とか成立していたのが湾岸や京都、福岡などの不動産市況であり、これがいつなんどき逆流するか分からない、一部はすでに債務整理に追い込まれて早急な現金化を求められて日本では最近お目にかかることのなかった「稼働している上物を処分して更地にして売却して借入返済」とかいうバブル崩壊あるあるに直結しているのは投資家としても恐怖です。

 とはいえじゃあ来週さ来週に何か大きな異変が起きて日本も巻き込まれて株価暴落の果てにオケラ街道で背中を丸めて歩く人が中央線に飛び込む日々が始まるのかと言われても先のことは誰にも分りませんから、何があってもいいようにちょっと加熱する相場はやり過ぎない程度に手を出して、なるだけそこそこのキャッシュポジションを持つ勇気(このインフレ下に)も大事なのではというのをぼんやりと思っています。

 もちろん、中国上海市場の日本株ETFは定められた枚数以上に買い増しすることのできない仕組みだからこそ欲しい中国人投資家が殺到したり突然いなくなったりして乱高下しているのであって、これが直接中国からの日本市場への流入を意味するものではないのも事実で、結局その辺は陰の主役は北米に離脱を果たした中国人投資家が建てたプライベートファンドなどが割安な日本株を一時的に持つことで日本株がにわかにバブルを起こしているという風にも言えなくもありません。

 この辺のテクニカルな話や実際の取引で起きているミクロの騒動を細かに追っていく必要はまったくなく、ただ確実に言えることは中国が日本やASEAN諸国でお前らの資産を抱えて右往左往してモメンタムを作り上げて暴騰させたり暴落させたりしているときは、その本丸である中国国内においてきっとろくなことが起きていないのだろうという認識を強く持つほかないと思うのです。言うなれば、中国本土の経済的異変のほうが本丸の病因なのであって、アメリカやカナダに逃避した資金がいろんなところで不始末を起こしているのは症状に過ぎないと弁えて、その中で今の日本株高を見ておけばいいんじゃないか、と。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.431 中華不動産バブル崩壊がもたらす日本への影響を論じつつ、VC界隈のあられもない話やスマホアプリストアのこれからなどに触れる回
2024年1月31日発行号 目次
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【0. 序文】「来るべき日が来ている」中華不動産バブルの大崩壊と余波を被るワイちゃんら
【1. インシデント1】ユニコーン予備軍のメガベンチャーの一部が経営不振に陥っているとされる件で
【2. インシデント2】ビッグテック規制の波が押し寄せるスマホアプリストアの行方
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【4. インシデント3】芦原妃名子さんの自殺とクリエイターの問題について

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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