岩崎夏海
@huckleberry2008

岩崎夏海のメールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」より

なぜこれほど本は売れなくなったのか

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最近、本が売れない。

その理由はいろいろあるだろうが、まず、ぼく自身が本を読まなくなった。ぼくは、炭坑のカナリアみたいなところがあって、ぼくの好きなものは流行るし、嫌いなものは流行らない。いうなればアーリーアダプターだ。

ぼくは狙って、あるいは好きこのんでアーリーアダプターになったわけではない。気づいたらなっていた。それも、子供の頃にほとんどその骨格ができていた。その頃から、ぼくが好きなものは流行るし、嫌いなものは流行らないという傾向があった。

そのぼくが、昔は本を読んでいたが、今は読まなくなったわけだから、本というものは本当に売れなくなったのだろうと思わされる。だから、本が売れない理由を分析するには、ぼく自身を分析するのが、一番手っ取り早い。

ところが、ぼく自身を分析しても、よく分からないところがある。というのも、ぼく自身、なぜぼくが本を読まなくなったのかは、よく分からないのだ。
だから、本が売れなくなった理由もよく分からない。
そこで今日は、そのことについて考えてみたい。

ぼくは、近頃本を全く読まないのだが、その中でも例外的に読む本がある。それは「歴史マンガ」だ。歴史マンガだけは、なぜか今でも発売を心待ちにし、出たらすぐ読む。

ぼくが継続して読んでいる歴史マンガは、「風雲児たち」「へうげもの」「ヒストリエ」「アド・アストラ」「レッド」などである。これらはほとんど無条件で読んでいる。だから、歴史マンガは今出せば、間違いなくヒットするだろう。あるいは、マンガに近い本でもいいかもしれない。

それはさておき、肝心の「なぜ本を読まないか?」ということについては、やっぱりこれといった理由が見当たらない。まず第一に、時間がないわけではない。
ぼくは、お風呂が好きで、いつも長い時間入っている。しかしお風呂に入っている間はひまなので、その時間に読む本がほしいと思っている。しかしながら、上記の歴史マンガ以外は、ほとんど読む気がしない。だからぼくは、お風呂でも本を読まず、何もしないでいる。本を読む時間があるのに、それを読まないのだ。

だから、時間がなくて本を読まないわけではない。

では、なぜ本を読まないのか?

それを考えるために、今度はぼくは普段何をして過ごしているのか? あるいは、何にお金を使っているのか?――というのを考えてみたい。

ぼくが今、普段よくしていることといえば、仕事以外だったら人と会うことだろう。そのとき、ほとんど食事をしながら会うので、そこでお金も使っている。

そう考えると、「外食産業」というのは、今の世の中では流行っているようだ。ただ、そこはすでに多くの人が注目している。だから、今さらそこに注目しても、アーリーアダプターとはいえない。

では、食事以外に何に時間とお金を使っているか?

それは「居住空間」である。さらに、「服」にも時間とお金を使っている。

そう考えると、ぼくがお金と時間を使っているのは、ほとんどが「衣食住」である。順番でいえば「食、住、衣」となる。

これは実際、もう何年も前から感じていたことだ。ぼくは、「もしドラ」を出して以降、何度も「今、自分が何にお金を使っているか?」ということを自問してきた。すると、そこで出てきた答えが「食、住、衣」だった。

それでぼくは、何か「食、住、衣」をテーマにした本を出すべきではないか――と考えるようになった。その際、「食」についてはあまり好きではないし、「衣」についてはそれほど知識がないので、結局好きであり、また知識もある「住」についての本を出した。

それが「部屋を活かせば人生が変わる」――つまり「ヘヤカツ」である。そうして「ヘヤカツ」は、「もしドラ」以外ではぼくにとって最大のヒットとなった。

そう考えると、今、本を出すとするならば、「歴史」あるいは「衣食住」しかない――と、そんなことを考えていたときだった。ふと、もう一つ時間をかけているものを見つけた。

それは、「今、何が受けるか?」ということを「考えること」だった。

つまり、今の時代を分析することに、大きな時間をかけていた。ぼくはそのことに、大きな興味があったのだ。

実際、先日知人から「『ラブライブ』がすさまじく受けている」という話を聞いたとき、ぼくは非常な興味を覚えた。それは、「ラブライブ」そのものに興味を覚えたのではなく、「『ラブライブ』が受けている」という現象そのものに興味を覚えたからだ。

だとすると、今、受けるのは、「『今、何が受けているのか?』という話」ではないか――そんなことを考えた。

ただ、これについてはぼく自身、すでに「『もしドラ』はなぜ売れたのか?」という本を出していた。これは、まさに「今、何が受けているか?」ということがテーマだ。

だから、内容は多くの人々に受け入れられているものと思う。その通り、読んだ方々の評判もすこぶるいい。

しかし、この本は残念ながらそれほど売れていない。そこで結局、また分からなくなってしまった。それが、今の出版ビジネスの難しさだと思う。

 

413ISPOvcgL._SL500_AA300_部屋を活かせば人生が変わる

夜間飛行、2014年11月

部屋を考える会 著

あなたのやる気の99%は、部屋の「流れ」が決めている!!

あなたではなく、部屋が変われば、あなたの意思は自然に強くなり、眠っていた能力が引き出されます。

 

岩崎夏海メールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」

35『毎朝6時、スマホに2000字の「未来予測」が届きます。』 このメルマガは、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(通称『もしドラ』)作者の岩崎夏海が、長年コンテンツ業界で仕事をする中で培った「価値の読み解き方」を駆使し、混沌とした現代をどうとらえればいいのか?――また未来はどうなるのか?――を書き綴っていく社会評論コラムです。

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岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

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