やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

スープストックトーキョーの騒ぎと嫌われ美人女子の一生


 あれを「炎上」と書くとスープストックトーキョーには悪い気がするので、あくまで騒動とか難癖とかいう言葉を使いたいなあと思うわけなんですが、私の家内がスープストックが好きでたまーーに夫婦と子連れで行くものの今回のような経営姿勢・理念で取り組んでるお店とは知らなかったです。

【大炎上!】山本家も愛用していたスープストックトーキョーが大変なことになっていた件について

 で、本件についてはおひとりさま女子VS子連れ世帯の分断構造に「次のライフステージ」という割と正面から顔にパンチを入れるような文言を出してきたので、難癖をつける側の体温が上がるよなというのはあります。

 というのも、子連れ世帯は次のライフステージであり、私たちが扱うべきセグメント化された可処分所得の割とあるお客様であって、リピートが高く囲い込める存在なのだという宣言であると同時に、次のライフステージにいけないおひとりさま女子は客じゃねえんだよバーカとまでは言ってませんので、その辺のモノの考え方を幅広に観ていくにはどうしたらいいのかっていう難題を突き付けられているのはむしろこっちだと思うんですよね。

 というのも、今回の問題と非常に近しいところで次のライフステージに行けた美人とそうでない多数の女性というコントラストは何件か立て続けにあって、文芸やネット評論で評判の美人が同人界隈で燻っている女性のリーダー的存在だったのにこいつらをみんな置いて、業界でも有名だけどあまり働かない鬱気味のバツイチおっさんと結婚・出産して、うっすらと界隈のヘイト値が上がってる事例とかあるわけです。

 その美人も文芸や評論で凄い際立って鋭い意見を出すわけではなく、どちらかというと美人であることをほんのり匂わせた柔らかい女性性を打ち出し、それでいてちょっとひねっていて「わたし、独特でしょう」とやるので、次のライフステージに行けなかった同年代女性からはイラつきポイントになったりもするのです。

 本来であれば、この辺の問題というのは可視化されておらず自分もその相対的な枠組みに入っていないと信じていられるから人間関係が構築できるのであって、そこに明確な容姿の差や、裕福そうな生活や、良さそうでイマイチ良くないアウトプットなどを目の前に陳列されるとブチ切れるのも良く分かります。

 いまの日本では、これから徐々にこれらの産め圧が高まっていき、一時期はDINKSだ独身貴族だとやってきたおひとりさま礼賛の風潮から、一気に社会のお荷物、半人前、イケてない人、カーストの下のほうの扱いをされていくことは必定です。社会保険料を割り増しで払わされる独身は、短い寿命を宿命づけられて他人の子どもにカネを出してオムツを替えてもらう人生が待っています。いま40代だ、50代だ、就職氷河期でしたという本人のラベリングとは別に、世間的にも「こういう人たちが何か言っても、子どものできなかった可哀想な人だから」で括られていくことになりかねません。

 スープストックが見せていたものは、こういう持てる側と持たざる側との相克が鮮明に描き出されたことで分断が可視化されるという断片的なものではなく、その後数十年に続く人生における優劣や幸福感の違いなども映し出す、割とヤバい社会の実情を見せつつあるからだとも言えます。

 特に、男性はなんだかんだ働いて収入があって初めてカーストに入れる、女性は結婚し子どもを産めてようやく価値を認められるという根源的な生物としての人間の価値に立ち返れ、みたいな流れはどうしても出てきてしまうのでしょう。私だって、一歩間違えたら破産しているかもしれない、結婚などできなかったかもしれない、持病が爆発して短い人生を終えていたかもしれないという立場ですし、本来であれば、世間的にも価値観を統合して結婚できた人も子どものできなかった人も同じ社会の一員なのだからと綺麗事の一つも言って不平不満や後悔を人の心の中に持ってもらうほうがエレガントだったように思います。

 しかし、それを眼前に突き付けて「次のライフステージ」とはっきり言われてしまうと感情的にそれはどうよと言いたくなる立場の人たちがいても当然だし、人間は生まれ持って不平等なのだから社会がその価値観と知性でどう埋めるのか考えるべきというのも一理あります。働ける働きアリだけが残るアリ社会が崩壊するように、一定の受容とストレスとを各個体がちょっとずつ感じながらも、総体としての社会が一定の秩序の中で幸福に暮らしていける仕組みのほうが、子どもを産み育む側も幸福になるはずですし、おひとりさまであったとしても健康・病気や人間としての巡り合わせ、親の介護での交際ブロックなどなどいろんな事情はあるわけで、変な意味で分断を促進したり棄民のようなことにならないよう願うのみです。

 その点では、男性はもちろん女性の側にもおひとりさま属性だけでなく単なる社会的弱者という表現では済まされない生きづらさは絶対的にあるのは間違いなく、誰にとっても嫌なことが可視化されてしまった騒動だたなあと強く思うんですよね。誰の責任でもない、仕方のないことだけど。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.403 某スープチェーン店騒動に感じるすっきりしないあれこれを語りつつ、北朝鮮の暗号資産ロンダリング問題やAIチャットブームに触れる回
2023年4月28日発行号 目次
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【0. 序文】スープストックトーキョーの騒ぎと嫌われ美人女子の一生
【1. インシデント1】北朝鮮による暗号資産のロンダリング組織、一部がようやく捕捉される
【2. インシデント2】うそはうそであると見抜ける人でないとAIを使うのはむつかしい
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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