POLITICOが対中国での重要論文を掲載していたので読みに行ってきました。
Op-Ed: Biden must draw red lines against China and focus on Xi Jinping's authoritarian leadership
CNBCでも論じていて、Twitterでは奥山真司先生が抄訳と共に概要を掲載していたので、ご関心の向きはぜひお読みください。
ケナンの「長文電報」のソ連についての分析はその構造的な弱さを指摘して、そこから我慢強く封じ込めよと提案していたが、現在の中国で同じことやるとむしろ習近平の体制を強めてしまうと認識。
なのでここでは共産党を狙うよりも、習近平個人を狙えと提案。
— OKUYAMA Masashi ┃奥山真司 (@masatheman) January 31, 2021
その下のほうの反応で、俺たちの長島昭久さんが「たいしたこと書いてないんじゃね?」的な反応をしておられたところまでがワンセットで、逆に言えば、英語圏がいままで野放しにしてきた中国の台頭・膨張に関して「もう手遅れ」というようなところまで追い込まれていることの証左でもあります。国家主席・習近平さんを中国政府指導体制である中国共産党の問題と切り離せといわれても「どうやって?」という話ですし、中国の戦略に対して外交による連携で対抗していくにはかなり長く厳しい戦いを強いられることは間違いありませんので、それができれば苦労しないよねという受け止め方が増えるのも道理です。
一方で、論文内で指摘されている中国共産党のエンパワーの中身の整理は、まんまそれアメリカがやってきたことですよねという話になります。長いですが、引用します。
• Keeping the party in power at all costs.
• Maintaining national territorial integrity.
• Growing the national economy fast enough to break out of the middle-income trap.
• Achieving military preponderance sufficient to deter the United States and its allies from intervention in any conflict over Taiwan, the South China Sea or the East China Sea.
• Diminishing the credibility of U.S. power and influence sufficiently to cause those states currently inclined to "balance" against China to instead join the bandwagon with China.
• Deepening and sustaining China's relationship with Russia, its neighbor and most valuable strategic partner, in order to head off Western pressure.
• Leapfrogging the U.S. as a technological power and thereby displacing it as the world's dominant economic power.
• Undermining U.S. dominance of the global financial system and the status of the U.S. dollar as the global reserve currency.
• Consolidating the Belt and Road Initiative (BRI), turning China's massive pan-continental physical and digital infrastructure initiative into a geopolitical bloc aligned with China's policy ambitions, forming the foundation for a future Sino-centric global order.
• Using China's growing influence within international institutions to delegitimize and overturn initiatives, standards and norms perceived as hostile to China's interests—particularly on human rights and international maritime law—while advancing a new, more authoritarian international order under Xi's deliberately amorphous concept of a "community of common destiny for all mankind."
ということで、米中は結構がっぷり四つの対立構造に入っていく一方、中国からすれば一連の対抗策は覇権争いというよりは自衛戦争(昔、ソ連がいってた大祖国戦争的な)であって、これは新たなる植民地主義と重商主義に資する国家の台頭の歴史とあんまり変わらんのではないかとも言えます。
そうなると、我が国はどうするのかという難題が立ちはだかります。
少なくとも、民主主義国としての立場を堅持する前提で行くならば(私が民主主義者だからですが)、専制主義政治の手先になるような真似をしないようにするために防御を固める必要があるわけですが、一方で、アメリカと一緒になって中国の「完全な敵」となるべきか、という課題は付きまといます。この論文を、日本人が読むべき部分は「英語圏の人たちが中国との覇権競争についてどう思っているのかは良く分かった。だが、私たちにとって中国は隣人だ」という点です。
感情的に中国パージを叫ぶこと自体が、私としては民主主義におけるリスクになるし、疑心暗鬼を広げて、例えば中国「千人計画」に関わった日本人研究者リストを作り国立大学に教授職などで認容するなという話は簡単です。ただし、実際には本当に国威が高揚している中国との関係を構築するうえで、安全保障の問題と経済・技術・学術研究や文化が切り離せないのだとするならば、民主主義陣営として「アメリカ側に立ちながら、中国との互恵関係を築き、グラデーションのある立場を取る」ことがどこまでできるのかという方向に向かわざるを得ません。
また、この論文のみならず英語圏の対中国系の制作文書は概ね経済戦争とそれの根幹にある中国(共産党)脅威論一色になっていますが、ある程度、中国や中華圏での付き合いのある人たちからすれば自明の通り、中国ほど一枚岩ではない社会、政治もないのです。もちろん、超先進的な地域は驚くべき創造性を発揮した中国人が魔法のように中国社会を科学技術の本拠地として、優れたイノベーションを実現して超絶先進的で便利な都市を構築していますが、そこから車で30分も離れれば、何というか、そうですかというような人たちが沢山お住まいの地域になります。
アメリカも、いまでこそQanonも含めた陰謀論に踊らされた人たちがアメリカの中枢である議会に乗り込んで大変なことになっていましたが、そういう頭の悪いアメリカも、中部によく見られる錆びてくたびれたアメリカがあることも知っています。国内の分断があり、一枚岩とは到底言えない社会を抱えた国同士の戦いがある中で、むしろ競争の中でシステム的により優れたほうが勝つという流れになっているのは歴史の必然であろうかと思います。
であればこそ、我が国はアメリカと中国の対立について自国に立場を明確にすることだけでなく、この対立構造の中でどのような受益を目指し、いかなる社会システムの改革・改善を行って、東アジア地域のミドルパワー国としての地位を確保するのか考えていかなければなりません。
少なくとも、民主主義陣営で旧秩序の一員として、武力による現状変更を否定する立場である日本が、アメリカの軍事同盟国として取れる選択肢は、対外的にはそう多くありません。しかしながら、我が国が何の役割を果たしてどう繁栄を維持するのか再定義して、この世界的な新たな競争の枠組みに参画していくのか考えて実行に移していくのは有用な方法です。残念なことに、いまの我が国では「経済安全保障」というちょっと微妙なテーマでこの問題が語られるようになり、全体的にズレた議論が出てきているのが気になりますが、それでもきちんとした目標の策定と併せて政治的なリーダーシップが不可欠であるのは間違いないのです。
勃興している大国の横にある国は、だいたいこんな感じで横波を受けるのだろうなと思いながらも、この時期に日本に生まれ育って暮らしていることの意味も噛み締めながら、前を向いて何ができるのか考えていく必要があるかなと思っています。
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Vol.Vol.322 深まる米中対立の狭間にある我が国の現状を憂えつつ、怪しいスタートアップが増えている件やポスト・トランプ時代のSNSを語る回
2021年1月31日発行号 目次
【0. 序文】深まる米中対立の大波を迎える我が国の正念場
【1. インシデント1】「どう見ても詐欺の、変なスタートアップ」が増えている件で
【2. インシデント2】ポスト・トランプ時代のSNSの行方をぼんやり考える
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
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