高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

地域住民の生活が奪われるオーバーツーリズム問題

高城未来研究所【Future Report】Vol.635(8月18日)より

今週は、バルセロナにいます。

先月バルセロナに滞在した際、オーバーツーリズムの問題をお伝えしましたが、夏休みピークの今週、その実態を街中で垣間見て驚いています。

いまからおよそ15年前、バルセロナに移って早々足繁く通っていた鄙びたカフェは、いつも客がまばらで、僕にとっては最適な執筆場所のひとつでした。
ところが誰かのソーシャルに、古くから店で出している手作りチーズケーキが、なぜか「バスク風チーズケーキ」として投稿されて以降、次々とお客が来店してオーダー。
日に10個ほど売れていたチーズケーキは、いまや日に100個以上オーダーがあり、ほぼ全員がメニューにはない「バスク風チーズケーキ」を頼むということです。
当初は、イチイチ説明していたそうですが、いまでは事実を話すこともなくなり、それでなにか言われることも皆無だそうで、皆、写真だけ撮ってロクに味わってないと嘆きます。
あわせて地域住民の足は遠のき、店主は寂しそうでした。

バルセロナトップ3に入る観光地ボケリア市場に出向けば、ピーク時には団体ツアー客の立ち入りを禁じる等の入場制限が行われており、消防法の関係からも市場内の大混雑が市議会で大きな問題になっています。
もともと地域住民のための良質な食材を扱っていた市場でしたが、入り口付近の店先には、どう考えても観光客向けの観光客値段の商品が立ち並びます。
事実、写真や動画ばかり撮っている人ばかりでは、落ち着いて買い物もままなりません。

また、キャビア、高級ワイン、燻製肉、少量生産のチーズなどを扱う老舗高級乾物屋は、1898年創業当時の流行だったカタルーニャのアールヌーボーとして知られる芸術様式「モデルニスモ建築」でも有名な一店ですが、来店してもスマートフォンに向かってポーズをとるばかりで何も見ないし買わない客が増えすぎたため、「店内見学のみの場合、1人5ユーロいただきます」と書かれた看板を掲載するようになりました。
実際、集金することはないそうですが、あまりに悪質だと思われる客からは集金することもあるそうで、一方、この5ユーロ支払って撮影だけして帰る客もいるそうです。

このような現状を鑑み、バルセロナ市当局は市観光税の「段階的引き上げ」を発表。
これまで1.75ユーロだった観光税は、今年の4月1日から2.75ユーロに上がり、来年4月1日には3.25ユーロまで引き上げられますが、これでも観光客が減らない場合は、その後も大幅な増税を続けるとのことです。

さらにホテル等短期賃貸物件に宿泊する場合の税額も4月から1泊当たり5ユーロに引き上げられており、来年度には五つ星ホテルなら1泊につき6.75ユーロを支払わなければならなくなります。
こちらも段階的に税金を上げ、それでも観光客が減らない場合は、その後も増税を続け、社会福祉にまわすと発表しています。
なぜなら、緊急を要する医療リソースの多くを、観光客が奪ってしまっている現実があるからです。

今後、コロナ禍の反動が収まり世界的に景気が悪くなれば、観光熱はひきはじめるのでしょうか?
それとも、安価なLCCやAir B&Bを利用するローコスト・ツーリストは、家にいながらなんでもできるこの時代、オンラインでは不可能な観光地を追い求め続けるのでしょうか?

グローバリゼーションと共に成長した大観光時代からコロナ禍を経て、業界大再編が求められる世界有数の観光都市バルセロナ。

今後、溝ができてしまった地域住民との再統合が鍵となるのは間違いありません。
そうしなければ、地域行政が破綻するだろうな、と考える真夏のバルセロナです。

それにしても大混雑です!
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.635 8月18日日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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