やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

「安倍ちゃん辞任会見」で支持率20%増と、アンチ安倍界隈の「アベロス」現象


 共同通信が安倍晋三さんの総理辞任直後の緊急世論調査、さらに各種ネットパネルでは政治現象としてのアンケートが花盛りになっていますが、とりわけ30%台前半に低迷していた安倍政権の支持率が、健康問題による辞任会見で20%近くハネ上がっているところに日本の国民性を見ます。

 前回第一次安倍内閣もまた、健康問題で突然の辞任となった安倍晋三さんですが、前回は一年程度という短い期間で、しかも政権運営の行き詰まりによる放り投げと国民から観られて非常に評判の悪い辞任劇でした。今回の安倍さんの決断にいたった経緯も、やはり前回は放り投げて無責任だと強く批判され、自民党下野を強いられる非常に辛い時期に原因の一つと詰められ続けたことが背景にあるのではないかと思います。

 今回は、安倍政権は良くも悪くも7年8カ月にわたる長期政権であり、みんなもうそろそろ安倍ちゃんもうええわと思い加減の倦怠感もあるなかで、コロナ対応があり、消費税増税があり、モリカケだの河井夫妻だのしょうもないスキャンダルで揺さぶられ続けて、安倍さんも国民も疲れ切っているところでの辞任決断でしたので、これはもう日本人のメンタリティからすれば「お疲れさまでした」「よくやった」「いままでありがとう」という声の一つもかけてやろうという人が10人に2人増えたということではないかと思います。

 なので、別段長い目で見て安倍政権が良かった、安倍さんを支持しているのだという国民感情というよりは、いままで懲罰的に安倍さん辞めろや、いい加減にしろと思ってる人たちが、いざ安倍さん辞めるとなったところで「なんや、辞めるんか。いままで馬鹿にして済まんかったな」ぐらいの心境を抱いたに過ぎないでしょう。その点では、一過性のものだろうと。

 だからこそ、9月14日に決定した自民党総裁選が両院議員総会で行われるにあたり、この熱量を一定量キープしながら「自公連立政権の後継総理として、いかに安倍路線を継続するか」という正当性を争うものになります。決して、安倍政治を否定してはいけない雰囲気になったのが今回の辞任だったと思います。本来ならば、石破茂さんが立ったら「安倍さんはこうだったが、私はこうする」と言えば拍手喝采であったものが、実際には安倍さんの潔い引き際にケチをつけるのはよろしくないという流れになるのも致し方ないといったところでしょうか。

 そして、主要立候補者が官房長官の菅義偉さんに対し、出馬しない限りもう後がない石破茂さんと、出馬しない限りもう後がない岸田文雄さんとになります。それ以外の候補者が20名の推薦人を集めることはなかなか大変なんじゃないかと思いますが、小泉進次郎さんが早々に「河野太郎さんが出るなら支持」と撤退、その河野太郎さんも麻生派が菅さん支持を表明したので撤退と、なかなか痺れる流れになりました。今回は若手の出番はないというのは少し残念な気もしますが、実際にはそんな感じでしょう。

 もちろん本線としては菅義偉さんが総理になり、河野太郎さんや加藤勝信さんが官房長官になるような人事になるのではと思いますし、小幅な内閣改造にまずは留めて正当な安倍政権の後継者であるというアピールをもって解散総選挙に早期に臨むのではないかと思います。

 何より、公明党の側もビビッドに流れを読んで、代表の山口那津男さんも「大阪都構想に日程が被らないように」と念押しをしているわけですが、逆に言えば人質となっている大阪6区の伊佐進一さんを守るには11月1日の大阪都構想の住民投票よりも前に衆議院選挙の投開票日があれば良いということで、ギリギリで10月25日、できればその前で伊佐さんが当選しちまえばいいということでもありましょうか。

 さて、迎え撃つ野党ですが、例の玉木雄一郎さんのすったもんだで揉めた後で、今度は支持母体である連合が割れてしまい、電力労連ほか困ったことになりました。私が見るところ、そもそも立憲民主党と国民民主党が例の小池百合子さんに騙されて前原誠司さんがうっかりやらかすまでは民進党でひとつの党だったわけですよ、それが再合流するのに何をそんなに揉めているのか、大同小異でいいじゃないかと思っていて、途中までそのように普通に合流となるところ(山尾志桜里さん以外)、なんでこんなグダグダになってしまったのだろう、まとめられる政治家は一人もいなかったのかと非常に残念に思います。いや、揉める要素そこまで大きくなかったはずだぞ。

 で、野党連合もいままでは「巨悪・安倍晋三を倒せ」で一部マスコミも一丸となって安倍批判をやってきたわけですけれども、今回菅義偉さんが仮に総理になると、一時的に支持率も60%以上になっているところで「ガースーを倒せ」と騒いで無党派層の支持が集められるのかどうか。

 単に支持率の動向が云々というよりは、これらの政治的な状況如何で大きく投開票を巡る与野党の構図が動いてしまうことが非常に興味深く、その意味では結果論とは言え安倍晋三さんは自民党のためにも極めて良いタイミングで辞意を表明したなと思うわけです。下手すると、本当に自民・公明が大勝してしまい、改憲勢力として維新がくっついて、とりあえずの改憲勢力が国民投票に手がかかるところまで拡大する目まで見えてきました。

 最後の最後で安倍ちゃんの豪運というか、凄いヒキだなと思ったりもします。明らかに、狙ってやったことではないにもかかわらず、自らの手で悲願達成のお膳立てができるかもしれない、リーチとまではいわずともイーシャンテンぐらいまでにはなっている、というあたりに歴史が呼んだ男なんじゃないかとすら思います。

 一方、これから新たな門出を迎える野党は、非常に残念ながら回ってきた配牌で字牌整理をしているうちにいきなり親リーをかけられた的な展開で涙目です。可哀想ですが、これもうほんとどうしようもないんですよね。

 本来、小選挙区制とはアメリカのような二大政党制を模して検討が進み、わずかな民意の差でも議席数に大きく反映させる目的だったはずが、現状批判の受け皿として孤高の万年野党を謳う共産党がいたおかげで結構グズグズになっとるなあと思う次第です。個人的には中選挙区とまではいかずとももう少し幅広い民意を議席に反映させられる仕組みのほうがいいんじゃないのと最近思うようになりましたけれども…。

 ちょっと9月上旬は自民党について多くのメディアが取り上げることで、一気に解散風が吹いていきそうですね。注目してみていきたいと思います。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.Vol.308 ポスト安倍政権の動向を予想しつつ、GIGAスクール構想にまつわる課題や複雑化するスマホとプライバシーの関係を考える回
2020年8月31日発行号 目次
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【0. 序文】「安倍ちゃん辞任会見」で支持率20%増と、アンチ安倍界隈の「アベロス」現象
【1. インシデント1】ベンダーさんが群がるGIGAスクール構想の良い未来と落とし穴について
【2. インシデント2】複雑化するスマホ利用とプライバシー保護のバランス
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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