やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

突然蓮舫が出てきたよ都知事選スペシャル


 静岡県知事選が終わって自民党筋が連敗続きの中、ここで切り札を斬れば勝てると前のめりになった立憲民主党というか手塚仁雄陣営が蓮舫さん都知事選出馬の大博打を打ちに行って騒ぎになりました。

 折しも政治資金規正法の改正問題ですったもんだし、また、政治団体への寄付は非課税という仕組みを悪用する形で政治家の脱税告発が相次いでいる状態のなか、岸田文雄さんがいまだ今国会会期中の解散するしないで風評が飛び交っているというのは驚きです。というか、大変なことです。

 もっとも、自民党への支持が退潮している中で立憲民主党が都知事選周辺で仕掛ける可能性についてはかねて議論としてはあって、ただ告示が6月20日投開票が7月7日ですから、一般的に「ここで勝負をかける」というサプライズ告知の日程は知名度のある人物であればあるほど告示に近いほど良いというのがセオリーです。何となれば、立憲民主党が最後の最後まで都知事選に誰を出すか決まらないところで、誰が出るかとみんなでじりじりして注目をしているところに颯爽と蓮舫出馬表明というやり方もあったのではないかとも思います。

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 他方、小池百合子さんからすれば相手が痺れを切らして出てきてくれたので、こちらはこちらで選挙準備はしておいて、告示ギリギリまで出馬表明を引っ張って良いことになります。立憲や共産、蓮舫さんの挑発に乗る必要もないのです。前回の都知事選で堀江貴文さんの都知事選出馬が取り沙汰されたとき、調査方も事務方も浮足立つなか小池百合子さんがぼそっと「にぎやかですこと」と冷静に突き放したあたりに女勝負師としての懐の広さがあるなあとも思います。

 そんな小池さんからすれば、油断しなければ勝てる戦とよく理解して臨めばそれで良いというのもありつつ、やはり最大のチャンスであった希望の党立ち上げの際に横田一さんからの質問に対して「排除いたします」発言たったひとつですべての試みが崩壊に瀕したあたりは心に刻んでおられるものとも思います。先の東京15区でも小池百合子さんの仕切りに乙武洋匡さんが乗っかった結果、最終的に公明党の説得が上手くいかずに惨敗した経緯もありますし、やはり政治は一瞬先は闇ということで慎重に判断するのではないでしょうか。

 当然、蓮舫さんのような大物が都知事選に出馬することになったわけですからみんな総立ちで緊急調査を各社各種やるわけですけれども、見る限り、なかなか小池百合子さんは強いように見受けられます。というより、自民連敗、勢いに乗る立憲民主党が切り札蓮舫さん投入でどうだーっと最高潮になったところで翌日や翌々日で調査入れてみると18ポイントぐらい小池さんに水をあけられているというのは割と残念なところであります。もちろん、これから浸透するでしょうし、小池さんがまたうっかり失言でもするようならばいくらでもひっくり返るものではありますが、ただ野党の期待を一身に背負ってエース登場という割には、なんというか、もう少し互角っぽさがあって良かったのかなあと思います。

 もちろん、蓮舫さんは2022年参院選では67万票どまりであったことも考えれば、女性候補特有の期待感という観点では峠を越えている面はあります。都知事として期待できる政治家としての実績もそこまで大きいかと言われると微妙なところですから、あくまで既存の政治に対する否定、現状批判票の受け皿として頑張っていくことになります。

 対する小池百合子さんも、一時期の声望は失われた面はありつつも、選挙における神通力は公明党や都民ファースト、今回おそらく肩入れするであろう連合東京・国民民主党とのスクラムでいけば過日と遜色なく得票するのではないかとも見られています。これからどうなるかは分かりませんが、2020年都知事選の366万票にまでは届かないでしょうが、300万票弱ぐらいまでは現段階では充分届くと見られ、このまま小池VS蓮舫の一騎討ちの情勢で何事もなく投開票日になればちょうどダブルスコアで決着するぐらいなのではないかなと思います。

 逆に言えばそのぐらい小池百合子さんは強いんですが、そもそも地方首長選や知事選は現職有利の傾向があるだけでなく、実のところ小池さん自身にはそれほど都政において失点は無いのも事実です。特に子育て関連や防災といった方面からは国民からまずまず高い評価を受けており、コロナにおける飲食店休業要請で都財政が痛んだ以外は都民からするとそこまで悪い印象は無さそうだというのが正直なところです。

 また、東京オリンピック開催を挟んでコロナ後に福祉予算の最適化が進んでいて、傷病家庭への手当は近隣他県よりも充実しています。優秀な都職員と割と真面目に議論する都議会、その与党としての都ファ公明筋という安定材料もあるため、たまに新築住宅に太陽光パネル設置義務付けのような酔狂な政策を小池さんのこだわりで投入する以外はまずまず穏やかに話が進んでいるようにも見えます。

 つまり、自民党ベッタリというわけでもない小池百合子さんを都民が降ろす理由は特にないので、消去法的選択になりがちな無党派層も、各年代、男女、居住地域(区部か多摩かそれ以外か)を問わず小池さんが現段階では優勢のように見えます。

 とはいえ、残る問題は小池さんは年齢的にも野望的にも4選はやらんだろうということ、来年都議会選挙を控えて小池百合子亡き後の都ファをどう着地させるのかというあたりに課題があることもあって、その後の都政の展望がイマイチ見えなくなってきたぞってところでしょうか。でもこの辺は、女勝負師・小池百合子一代記の最終章をどう描くかの問題に尽きることですし、どんな大物にも最後は来ることを考えれば、ここであたふたしても仕方がない面はあるのでしょう。

 最後に、小池さん蓮舫さんそれ以外の第三極は出るのかという点で維新の動きは気になります。どうも橋下徹さんは出られない(本人にその出馬の意志があるかどうかは別として)とのことなので、衆議院鞍替えでみると東京1区に出る予定の音喜多駿さんか、26区で無所属出馬、そこで蓮舫さんとの対決を余儀なくされるとみられる松原仁さんがいずれも無所属で顔見世出馬するかどうかといったあたりになるでしょうか。それ以外に有力な名前が挙がっていないのは気になるところですが、自民党もさることながら日本維新の会もなかなか追い風が止んだ後の議席拡張に苦労しているところですので頑張らざるを得ないのではないかとも思います。

 んでまあ、おまえ昔あれだけ小池百合子批判しておったじゃないかって偉い人たちからもクレームを頂戴する私でございますが、あくまで仕事なので客観的に小池さんを見ているのであって、正直申し上げると小池都政初期に豊洲市場移転で無駄な都税を浪費したことと、さして環境にやさしくない太陽光パネルの義務付け、東京オリンピック開催にてホスト都市の知事であるにもかかわらずうまくリーダーシップを発揮できなかったこと、またコロナ下での変な休業要請での売上補填で都財政が悪化したことは非常によろしくなかったと思っています。

 ただ、総じて見たときに小池さんが無難に、あんまり滅茶苦茶になることなく、うまく乗り切っているのは及第点なのは間違いないでしょうし、大阪・近畿が維新化して大変なことになっているのと同じようなことが東京では起きることもなくこんにちまで来ているのはプラスなのかなあと思っています。たぶん、小池さんがこだわる政策のところは「仕方ねーな」で都庁も汗はかくけど、それ以外はぶん投げているので上手く回っている形でしょうから、変な名誉欲とかに駆られて任期途中で国政転出だーみたいなことにならないことを祈るのみです。私の仕事が増えるので。
 

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Vol.442 来たる都知事選の動向をあれこれ考えつつ、混迷する岸田文雄政権の有り様やAIサービスプロバイダの信用問題にツッコミを入れる回
2024年5月31日発行号 目次
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【0. 序文】突然蓮舫が出てきたよ都知事選スペシャル
【1. インシデント1】混迷極まる岸田文雄政権末期の現状を俺目線で書き殴り続ける
【2. インシデント2】AIサービスプロバイダを信用しても大丈夫なのかという問題
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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