やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

「中華大乱」これは歴史的な事項になるのか


 私も極東をウロウロしていると中国人ビジネスマンの人たちとの交流は否応にもさせられることになりますし、私の父親の代からは30年近く中国本土との付き合いを持ってきました。いまでこそ、私自身が中国国内に足を踏み入れることはなくなっているわけですが、投資でご一緒しているファンドはいまなお中国に少なからぬ資産を有し、私も間接的に中国に資産があることになるので興味は尽きません。

 香港で雨傘革命が失敗に終わる前後に、中国の資本主義への玄関口として香港が長らく機能していたことに対する信頼を喪失し、ファンドでご一緒していた欧州人たちが早い段階で中国投資を諦め別の地域でのファンド新設を決断しました。彼ら的には香港を愛していて、この馴染みの香港で仕事をできないのならば中国でのビジネスを温存する必要はないという結構直線的な判断だったのですが、しかし、実際に起きたことは新疆ウイグル自治区やチベット、内モンゴルのような内なる問題である異民族対策での引火であり、また、朝鮮半島、ミャンマー、台湾海峡有事のような外縁の問題へのコミットでした。

 そして、確かにゼロコロナ政策を継続する習近平さんの国家主席としてのこだわりが、中国のリオープン政策への転換の期待と、毎回それを裏切る中国共産党の振る舞いとの間でビクビクと動き、そのたびに中国への純粋な投資意欲を奪っていくことになるのです。

 29日16時に中国衛生当局が記者会見をやるというのでおおいにリオープン政策転換を期待して天然ガスが急騰すると、いや、実は高齢者へのワクチン接種強化でしたという肩透かしと共に相場がお通夜になるわけであります。

 私らは中国本土を経済指標で見るのは当然ながら資産を置いているからですが、そこで暮らしている中国人からすればたまったものではありません。23日ごろから断続的に各都市で発生していたゼロコロナ抗議運動が一部過激化し、中国共産党下台、習近平下台という、天安門事件を彷彿とさせるような国家の正統性を損なう大規模デモにまで発展し、みなA4の紙を持っていることから白紙革命と称されるようになりました。ロシア屋からすれば、極東管区などシベリア方面のロシア軍がウクライナ戦線に引っ張られ、スカスカになったところをロシアで政変でも起きてプーチンさん横死でもあろうものなら中国人が雪崩を打って貧しい極東ロシアに入り込み、貴重な資源を一気に抑えられてしまうのではないか、それが嫌なら日本も日ソ平和条約をロシア側がひっくり返しているのを奇禍にして樺太から千島列島ぐらいまで自衛隊出してガメちゃえよと夢想するわけですけれども、それどころか、大荒れのプーチンロシアよりも先に習近平さんの足元が怪しいぞとなるといろんなものの前提が変わってくるわけであります。

 昨今では、古く老いた民主主義陣営よりも、中国以下専制政治国家のほうが経済成長率が高いぞという不都合な真実も喧伝されるようになりました。ある程度、それは事実だろうと思いますが、ただ、いままでは異民族や外縁に対して強硬な態度を平気で取れる専制主義政治が、実はゼロコロナにおいては容赦なく中国国民に対しても牙を剥きうるのだ、ということが身をもって知られることになったのが大きかったと思います。一定の自由と繁栄を謳歌させてくれる代わりに、中国国民は中国共産党の一党支配を受け入れているのだ、という社会契約論的な論説さえも飛び出すようになり、中国が鋭意進めてきたデジタル技術による監視技術も奔流となって湧き立つ国民の白紙革命のデモの前には「顔を撮影されたからと言ってなんぼのものか」とばかりに収まるところを知りません。

 これは、香港で私の友人や現地のファンド職員らが、地下鉄に乗ってデモに行ってきますと悲壮な感じで連絡を取ってきたのと大変被るのですが、彼らが享受していた繁栄と自由、そしてある種の矜持を都市部のロックダウンで失うとき、やはり生活のために立ち上がるのが中国人なのだとも思います。

 こうなると、習近平さんも文字通り鎮圧をすることになるでしょうし、また、国内の不満をそらす目的で地方選挙でガタついた台湾有事を演出することさえあり得るんじゃないかという観測まで出てくるようになりました。そうでなくても、ゼロコロナで経済成長が3%どころか実はマイナスなのではないかとエネルギー利用統計で明らかになりつつある中、大手不動産グループの相次ぐ経営難報道と海外金融筋での調達難を見ると、日本のバブル経済崩壊をさらに拡大させた何かが中国でどーんと起きてしまう可能性があります。ひょっとすると、ロシアでも中国でも何事か起きる可能性があるのだとするならば、いま私たちは大規模な戦争の前夜なのか、あるいはベルリンの壁崩壊以上の歴史的転換点に立っているのかもしれません。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.389 中国情勢に覚えるこれまでにない危機感を語りつつ、落選議員絡みの話の続きやマイナンバーカードのあれこれに触れる回
2022年11月30日発行号 目次
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【0. 序文】「中華大乱」これは歴史的な事項になるのか
【1. インシデント1】「落選議員」への補償問題と地方自治侵食の問題点(後編)
【2. インシデント2】マイナンバーカードの普及が地道に進んでいるようですが
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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