平川克美×小田嶋隆「復路の哲学」対談 第1回

「高倉健の死」で日本が失ったもの

昭和の大人の象徴であった「高倉健」の死は、私たちに何を伝えようとしているのだろう。

「いま日本人が考えるべきことは、経済成長ではなく、日本人全体の<幼児化>がもたらしている問題についてではないか」。新刊『復路の哲学 されど、語るに足る人生』が話題の経営者・文筆家の平川克美さんが、コラムニスト、小田嶋隆さんと語り合う。

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※写真:安部俊太郎

幼児化する日本の危機

小田嶋:新刊『復路の哲学 されど、語るに足る人生』を興味深く読ませていただきました。この本で平川さんが繰り返し語っておられるのは、「大人の不在」という問題ですよね。

平川:かつて、この国に確かにいた「大人」たちが消え去りつつある、という危機感を持っています。実は僕自身、64歳になって言うのもなんですが、まだまだ「子供だな」と感じているんです。自分が子供の頃を思い出してみると、周囲にはもう少し「大人」と言える人々がいたような気がする。でも今は自分も含めて、社会全体が幼児化しているように感じるんです。

小田嶋:「大人が消え去りつつある」というのは、言われるまで気づかなかったんですけど、私も確かにそうだな、と思いました。

平川:一番顕著な変化を感じるのは政治家です。最近、現役の政治家に会う機会がけっこうあるんですが、実際に会って話してみると「え! こんなにガキなのか」と驚くことが多い。誰とは言いませんが、これはおそらく僕だけが感じていることじゃないでしょう。テレビやメディアを通して見聞きする政治家の言動に対して、あまりにも子供っぽいなという印象を抱いている人は少なくないと思います。

ちょっと前までは、政治家って基本的に尊敬されていたように思うんです。別に「昔の政治家は偉かった」と言いたいわけではありません。ただ、昔は政治家自身が「偉い人」として振る舞おうとしていたし、周囲もそういう振る舞いをする政治家を尊重していた。何かの会合に衆議院議員が呼ばれると、「何々先生がいらっしゃいました」と紹介され、数分ほど喋って帰るのをみんなで拍手して見送る、ということが当たり前だったんです。

でも今は一国の総理大臣からして、大人の顔をしてないし、大人として振る舞おうとしていない。当たり前のように子供っぽい言動を繰り返し、それを見る僕たちも、どこか「そんなものだ」と思っている。そのことに危機感を覚えるんです。

小田嶋:今のお話は、「鶏が先か卵が先か」という側面がありますよね。政治家が子供っぽくなったということもあるだろうけど、私たち視聴者や新聞読者に当たる国民の側が、政治家を見上げなくなった、ということもある。おそらく両者はループしているのでしょう。尊敬できない人間だから尊敬しない、ということもあるし、尊敬されていないから、彼らも尊敬されるような振る舞いをしなくなったということもある。

平川:一つ確かなことは、「大人とはこういうものだ」という規範が失われた、ということだと思うんです。先日、高倉健さんが亡くなりましたが、彼がスクリーンの中で体現していた「黙って耐える」「嘘はつかない」というような大人像というのは、間違いなくある時期までは「あらまほしき大人像」として機能していました。それがどこかで失われてしまった。

 

 

平川克美さん新刊『復路の哲学 されど、語るに足る人生

復路の哲学帯2平川克美 著、夜間飛行、2014年11月刊

日本人よ、品性についての話をしようじゃないか。

成熟するとは、若者とはまったく異なる価値観を獲得するということである。政治家、論客、タレント……「大人になれない大人」があふれる日本において、成熟した「人生の復路」を歩むために。日本人必読の一冊! !

<内田樹氏、絶賛! >

ある年齢を過ぎると、男は「自慢話」を語るものと、「遺言」を語るものに分かれる。今の平川君の言葉はどれも後続世代への「遺言」である。噓も衒いもない。

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