やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

「韓国の複合危機」日本として、どう隣国を再定義するか



 メルマガ新年一発目でございます。あけましておめでとうございます。

 と言いつつ一月ももう半分が過ぎようかとしているわけですが、例によって新年早々韓国との外交問題が勃発していてややこしいことになっているようです。私自身はもちろん日韓関係のスペシャリストでも何でもありませんが、極東のビジネスパートナーや取引先はどうしても韓国系財閥資本の影響を受けてしまう人たちがいまして、顔を合わせるたびに韓国とロシアの関係はどうだとか、北朝鮮が云々といった日韓関係バイの問題ではない複合的な外交危機のなかにある韓国、みたいな図式を意識せざるを得ません。

「慰安婦合意 崩壊の危機」(時論公論)
【寄稿】慰安婦合意の再交渉主張、韓国の国際的信用落とす
慰安婦少女像、「合意」守らない韓国の裏事情

 ビジネスの現場から見る韓国は、比較的外向けに洗練された立ち居振る舞いのできる韓国人、韓国系中国人であり、ある程度、外から見た韓国を意識しながら、韓国の国内事情を解説する役割を自ら担うかのように説明してくれることがあります。もちろん、日本政府の強硬な態度について懸念を示すことはあるのですが、それ以上に国内事情で政府が揺れる現状についてはビジネスをする人ほど忸怩たるところがあるように見受けられます。

 彼らは「これだから韓国は駄目なのだ」とは絶対に言わないのですが「このままでは韓国の立場はより悪くなる」という思考プロセスを踏むことが多くあります。いわば、いまはまだ駄目な韓国ではないけど駄目になってしまうかもしれない、という特有の考え方かもしれませんが、話として出るのは日本外交での韓国のあれこれを単独で語るよりも、対中国のTHAAD問題、対アメリカの在韓米軍問題とセットで日本の問題「も」重ねて論じられるという、文字通り複合危機のただなかにいる当事者能力のない韓国政府、という意味合いです。

 その意味では、先にURLを貼ったNHKの時論公論とほとんど同じ論調が複数の韓国人エグゼクティブやビジネスマン、投資家から聞かれるというのは異様なことです。韓国人を含め、韓国を取り巻く外交的な状況に敏感にならざるを得ない人たちほど、ほぼ同じような現状認識になるのですから実際そういうことなのでしょう。

 中でも、日本でそれなりに成功した韓国人ビジネスマンは、絶対に日本では家を持たない主義だったのが、ついに新宿区の物件を購入して来春から家族が行ったり来たりする生活にするとのことで、彼を良く知る人たちはみんな驚いたものです。日本が良いから来るのではなく、中国やその影響下にある東南アジアはもちろん、アメリカやロシアにも移住することはむつかしいと考えた苦渋の判断は、聞いているこちらがスリルと彼の直面するリスクを想像させられてゾクゾクします。そう極端なことではないのかもしれませんが、対日本でビジネスを成功させると韓国内での立場が危うくなるかもしれない、という危機感を持たれるのは異常なことです。

 そう考えると、慰安婦像の撤回も含めて基金10億円出して政府間合意し、たとえ明文化されておらずとも緩やかにプレッシャーをかけるだけで韓国政府は沸騰する国内問題に絶えず脅威に晒される、という「大国間に挟まれた中堅国」の悲哀をもろに感じます。日本人として、いつまでも韓国につまらんいちゃもんをつけられても困る、いい加減慰安婦カードはやめて欲しいと思うわけなんですが、韓国からすれば国内の不満分子を抑え込む重要なファクターのひとつである「反日カード」の一角だったのをはした金で捨てさせられたわけです。

 その一方で、そういう不安定な国情ではビジネスが続けられないと、それこそ100億単位のビジネスを擁する人がアメリカやカナダ、日本に逃げていく状況になります。日韓対立が良いとか悪いとかいう以前に、そもそも何をお互い護りたかったんだっけ、よりアジア外交を広く見たときにお互いの勝利条件はなんだっけ、というのはよく認識しておく必要はあるのでしょう。

 その意味では、日本が「韓国の国内事情がアレで可哀想だから」という理由で譲歩する必要もどこにもないわけでして、日韓合意された内容を元に突っ張らざるを得ないし、その上にあった(はずの)日韓スワップ協定は棚上げになるのも仕方がない、と思います。

 実際には、日韓スワップ協定についていえば韓国がまた深刻な経済混乱に陥る可能性を考えると、決して低くはない韓国経済混乱を見越して日韓貿易に資する日本資本を守るためにも結んで悪くはないのかもしれませんが、まあやらない口実になってしまうんでしょうね、今回は。

 「袋小路」という言葉がこれほど似あう状況も珍しいと思いつつ、日韓外交の行方を見守っていきたいと思います。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.177 新年早々に韓国や米国の行方を気にしつつAIの今後などを考えてみる回
2017年1月17日発行発行号 目次
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【0. 序文】「韓国の複合危機」日本として、どう隣国を再定義するか
【1. インシデント1】トランプ大統領就任「演説」と対ロシア関連の情報乱舞
【2. インシデント2】AIのローカライズ問題をぼんやりと考える
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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