切通理作
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切通理作メールマガジン「映画の友よ」

「見たことのないもの」をいかに描くか–『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』

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2009年から「別冊少年マガジン」で連載が開始され、人気を博している、諫山創による同名ベストセラー漫画を樋口真嗣が監督。樋口とは『日本沈没』(06)『のぼうの城』(12)『巨神兵東京に現わる』(12)の特撮でも組んでいる尾上克郎が特撮セカンドユニット監督を務め、近年多くの映画を特殊造型で支え、監督作『虎影』も現在公開中の西村喜廣が特殊造型プロデューサーを担っている。

脚本は『GANTZ』(11)等で知られる渡辺雄介と、映画評論家の町山智浩が脚本を担当し、二部作で完結予定。今回はその前編であり、タイトルは『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』。

原作とおおまかな設定は同じなれど、シチュエーションやキャラクターの位置づけは変えて、一時間半のサイズに構築し直している。

エレン(三浦春馬)とミサカ(水原希子)とアーミン(本郷奏多)は幼馴染で、かつて夢を語り合った仲だった。彼らの数奇な運命を軸に、人類と異形の「巨人」が相対する。

舞台はある意味、明快だ。壁のこちらと向こうに隔てられた世界。「壁の向こう」に出ていきたいと願う青年。それは若者らしい、「自分の人生は自分で決めたい」という思いだった。

外には、かつて百年前に突如現われ、人類の大半を喰ってしまったという「巨人」が跋扈していると言われるが、中の人間でそれを見た者はほとんどなく、「巨人など本当は居ないのではないか」という弛緩した意識が蔓延していた。

その壁よりもさらに高い位置に顔がある、120メートルの超特大巨人が「ぬっと」姿を現した時、結界を破る様には『キングコング』(33)、音響とも音楽ともつかぬ音が鳴る様には『ゴジラ』の第一作目(54)を私は想起した。映画に新しい怪物が経ち現れる瞬間だ。

そして、崩れた壁の向こうから、群がるように現れた全裸の者たちは、中型サイズ(3〜15メートル)の巨人たちだ。

だが私は、一見しただけでは比率がわからなかったため、始め彼らを、外の荒廃した世界で育ち、ミュータント化した人間たちなのかと思ってしまった。

しかしその者たちに性器がない事に気付いた私は、上映前にプレス資料で見た「巨人には性器がない」という設定を思い出した。

その瞬間、中に踊り込み、自分たちよりずっと小さい人々をむさぼり食らう彼らの「ヒャッハー!」とばかりな狼藉。「ゾンビ」や「キョンシー」のような、「彼らの動きはこうだ」という、見慣れた定型化にまだまみれていない、その動き。

私は、つい最近高橋ヨシキ氏と話していた時、氏が所謂「特撮映画」についてこう言っているのになるほどと感じたのを思い出した。「ゴジラも第一作の時は、初めて見る『怪獣』をどう見せるのか、動かすのか、1カットごとアイデアを考えていたように思う。けれど、シリーズ化するにつれそれが定式化してしまう。そして観客も同じものを求める」と。

歴史に残るモンスターも、最初は「見たことのないもの」であり、それは1カットごとに新鮮なものとして我々の前に降臨したはずだ。

そしていま新しく作られる怪獣映画は、新しい表現の模索でなければならない筈であり、同時に従来の怪獣映画の「その先」が意識されなければならない筈だ。

怪獣映画は昭和40年代前半、怪獣が人を食うという描写に踏み込んだ。本作にも直接の影響を与えている東宝の和製フランケンシュタインものなど、当時の少年たちを震撼させたが、以後そうした要素は抑制される。

東宝のフランケンシュタインものの一本『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(67)の監督・本多猪四郎はこう語っている。どこまで見せるか、どこから抑制するかという事そのものが、映画の中に残っているというのが、時代のドキュメントなんだ……と。

だから当然、今の技術と感性で「人を喰らう巨大生物の跋扈」は描かれるべきモノだったのだ。それがいま実現した!

造型物を7〜12人で操演する超大型巨人の解剖標本のような外見とは別に、開けられた穴から「進撃」する中サイズの巨人たちは、生身の人間に特殊メイクやボディペイントを施して表現されている。

後処理のデジタルが強めに効いているのでフルCGのように思ってしまう観客もいるかもしれないが、アナログ技術の良さを取り入れつつ斬新なアイデアが駆使されているのだ。

タプタプした腹や、筋肉の付き方がバランス良くない人間のフォルムを生かした上で、人間のプロポーションからは微妙にズラした後処理が加えられている。美男美女が演じる、ルックス的には理想化された人間側の登場人物と対照を成すかのようだ。

ゾンビのように無表情ではなく、飛び散る人間の血しぶきの中で歓喜する巨人たち。
80名以上のオーディションで選ばれた彼ら20名は、メイクが崩れないようにするため一日中着物を羽織れなかったのに「嬉々として、この巨人役を楽しんでいた」とプレスにあるが、それを読んで、私ももし撮影に参加していたら同じように思っただろうと思い、「私も出演したい!」と叫び出したくなった。

一人一人、体格も違えば、大きさも違う。獲物の前で喜ぶその表情も異なる。「キネマ旬報」8月上旬号での西村喜廣インタビューによれば……

<この続きは切通理作のメールマガジン「映画の友よ」Vol.035(2015年07月24日配信)<『進撃の巨人』前編をこう見た>をご覧ください!>

 

切通理作のメールマガジン「映画の友よ

Vol.035(2015年07月24日配信)目次

[00] 巻頭のごあいさつ
[01] 今週の目次
[02] 8月1日公開!『進撃の巨人』前編をこう見た
[03] 問題作長編批評『バケモノの子』細田守は時代の子?
[04] 『映画の友よ』CM動画第二弾!〜『花火思想』大木萠監督作品
[05] 連載 映画で世界を変えられると信じて〜 筆・齋藤隆文 第5回『野火』
[06] 連載 藍川じゅんのせつない映画館『不眠症』
[07] 連載寄稿・カセット館長の映画レビュー 筆・後藤健児 第32回 ロビン・ウィリアムズ最後の主演作からロメロ後継ゾンビ映画まで!「未体験ゾーンの映画たち2015」
[08] 連載寄稿・眼福女子の俳優論 ファニーな素朴さ〜ドーナル・グリーソンの魅力 筆・小佳透子
[09] おわび 前号の記事『映画が先か、殺人が先か〜酒鬼薔薇聖斗が書く「生命の尊さ」の戦慄』について
[10] 特別告知 出版プロジェクトご協力のお願い 『85歳の被爆者 歴史を消さないために』
[11]あとがき

 
31「新しい日本映画を全部見ます」。一週間以上の期間、昼から夜まで公開が予定されている実写の劇映画はすべて見て、批評します。アニメやドキュメンタリー、レイトショーで上映される作品なども「これは」と思ったら見に行きます。キネマ旬報ベストテン、映画秘宝ベストテン、日本映画プロフェッショナル大賞の現役審査員であり、過去には映画芸術ベストテン、毎日コンクールドキュメンタリー部門、大藤信郎賞(アニメ映画)、サンダンス映画祭アジア部門日本選考、東京財団アニメ批評コンテスト等で審査員を務めてきた筆者が、日々追いかける映画について本音で配信。基準のよくわからない星取り表などではなく、その映画が何を求める人に必要とされているかを明快に示します。「この映画に関わった人と会いたい」「この人と映画の話をしたい!」と思ったら、無鉄砲に出かけていきます。普段から特撮やピンク映画の連載を持ち、趣味としても大好きなので、古今東西の特撮映画の醍醐味をひもとく連載『特撮黙示録1954-2014』や、クールな美女子に会いに行っちゃう『セクシー・ダイナマイト』等の記事も強引に展開させていきます。

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切通理作
1964年東京都生まれ。文化批評。編集者を経て1993年『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』で著作デビュー。批評集として『お前がセカイを殺したいなら』『ある朝、セカイは死んでいた』『情緒論~セカイをそのまま見るということ』で映画、コミック、音楽、文学、社会問題とジャンルをクロスオーバーした<セカイ>三部作を成す。『宮崎駿の<世界>』でサントリー学芸賞受賞。続いて『山田洋次の〈世界〉 幻風景を追って』を刊行。「キネマ旬報」「映画秘宝」「映画芸術」等に映画・テレビドラマ評や映画人への取材記事、「文学界」「群像」等に文芸批評を執筆。「朝日新聞」「毎日新聞」「日本経済新聞」「産経新聞」「週刊朝日」「週刊文春」「中央公論」などで時評・書評・コラムを執筆。特撮・アニメについての執筆も多く「東映ヒーローMAX」「ハイパーホビー」「特撮ニュータイプ」等で執筆。『地球はウルトラマンの星』『特撮黙示録』『ぼくの命を救ってくれなかったエヴァへ』等の著書・編著もある。

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