小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

本気でスゴイ!手書きアプリ2つをご紹介

※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2016年9月9日 Vol.096 <秋の始めのお楽しみ号>より


現在、PCやタブレットなどのある程度「生産性」「プロダクティビティ」を求められる機器には、ペン入力デバイスが搭載されるのが当たり前になった。もはやキーとマウス、タッチだけでは差別化できない……という世知辛い事情もあるのだが、人がまだ「ペンで書く」シーンを捨てられないこと、キーやマウスではできないことができることなどから、「コストが許すならあったほうがいいもの」になってきている、とは思う。

一方で、「ペンなんて」と思う人の多くは、「便利なアプリがないから」「キーの方が楽だから」と思っているのだろう。それもわかる。別に、誰もがイラストを描きたいわけでも、描けるわけでもない。なのに、紹介される実力派アプリは「イラスト向け」が中心だ。

そんなあなたに、今回は2本、「強烈にすごい手書きアプリ」をご紹介したい。どちらもiPad Pro+Apple Pencilに最適化されているが、一本目に紹介する「MyScript Nebo」については、ペン対応のWindows PC(たとえばマイクロソフトのSurfaceシリーズなど)でも使える。

まず1本目の「MyScript Nebo」。これは、手書き文字入力エンジンの開発では老舗であるMyScript社が開発したアプリだ。この記事を書いている9月5日の段階では、まだ無料で配布されていた。おそらく近日中に有料化されると思うので、ダウンロードだけは素早くやっておくことをお勧めする。

・MyScript Nebo 入手先
iPad Pro用 AppStoreへのリンク
https://itunes.apple.com/us/app/myscript-nebo-best-way-to/id1119601770

Windows用 Microsoft Storeへのリンク
https://www.microsoft.com/en-us/store/apps/nebo/9nblggh4nlb0

このアプリの特徴は、殴り書きでもきちんと手書きをテキストにしてくれることだ。百聞は一見に如かずなので、アプリをダウンロードして試していただくのがいいのだが、以下の画面は、筆者が速記並み(数秒)で書きとったメモをテキスト化した結果だ。こんなに汚い字でもきちんとテキスト化されていることに注目していただきたい。文字だけでなく、図形も認識して「整形」してくれる。

・MyScript Neboをつかってみた。とにかく、文字認識の精度とスピードは圧巻。

このアプリでは、ノートのように「ラインの中に文字を書いていく」という制約があること、行をまたいだ文は正確に読み取れない(文章が途切れて認識されるため)という欠点があるものの、そのことさえしっかりわかっていれば、どんどんメモをとっていける。しかも、テキスト化は一括で行えるので、「ペンで殴り書きした議事録をあとからテキストに起こして配布用にする」こともできる。

個人的には、テキスト化せずとも背後で「認識」は行われているため、手書きのままでも検索ができることが便利だ、と思う。たとえば、メモ全体から「ポケモン」という文字を検索したいときは、検索欄に「ポケモン」とテキスト入力すると、そこから「手書き文字」が検索結果としてピックアップされるのだ。文字メモを中心に使う人には、まずおすすめのアプリである。

ただ、このアプリは「紙のノート」ほどレイアウトに自由度はない。図や文字を、自由に好きな場所に書けるのがノートの良さだが、制約が意外と多い。認識機能よりもそうした使い方を求めているなら、「Note Always」がおすすめだ。こちらはiPad専用で、600円の有料アプリだが、体験してみるだけの価値はあると断言できる。ちなみに国産だ。

・Note Always入手先
https://itunes.apple.com/jp/app/id1108733742?mt=8&ign-mpt=uo%3D4

本当はこちらこそ動画を見ていただくのがいいのだが、とりあえず画面をみていただきたい。フリーレイアウトのノート画面が表示されるのだが、そこではなにを書いてもいい。これまでの手書きメモの問題点は、書いた後の修正が面倒だったことにあるが、Note Alwaysはそこがスゴイ。

・Note Alwaysの画面。赤い部分が「選択されたところ」。右手のペンで書き、左手で触って「選んで」編集、という操作ができる。

書いたメモのうち、移動したり色を変えたりしたい部分、要は選択したい部分を、左手の指でなぞってみてもらいたい。すると、そこが「選択状態」になる。選択状態になった線は赤く明るいハイライト表示になるため、あとは好きな場所へ移動させたり、色を変えたり、コピー&ペーストしたりと、自由自在だ。

また、書いている最中に間違った時は、指を三本出して、画面上をこする。これは右手でも左手でもいい。すると、「ペン1ストローク分」がアンドゥされ、間違いが消える。

右手で書きながら左手で「アンドゥ」し、選択や移動もできるとなると、紙のメモとは完全に感覚が違ってきて面白い。しかも、ちょっと説明されれば誰にでも使えるのがスゴイ。

Note AlwaysはiPad ProとApple Pencilに特化した操作性になっていて、右手と左手の使い分けも、「書きながら消しゴムをかける」感覚だと思えばわかりやすい。描線の美しさも、この種のアプリではトップクラスだ。

ペン搭載機器は増えたが、残念ながら「ペンを使う便利なアプリ」はまだ増えていない。特に、ニーズが明確なグラフィック以外は、選択肢が多くない。ここでは、iPad Proが圧倒的に有利だ。これはハードの性能によるものではない。PCに比べ、iPad上の方が「有料の道具的なアプリを売る」市場として優位にあるからだ。

これからPCもそうなって、アプリ間での競争が起きることを期待したい。少なくとも、iPadからNote AlwaysとMyScript Neboが出てきているのは、そうした「市場としての競争」の結果だと感じる。ハードウエアについては、コストや多様性も含め、Windows PCは決して悪い状態ではない。むしろ、ペンがあたりまえになる方向にある。

だからこそ、その活用のためにも、アプリがどんどん出て、「ああ、こんなに便利なのか」と皆が理解するようになって欲しいのだ。マイクロソフトがWindows 10のAnniversary Update(8月の大幅アップデート)でペン機能を強化したのは、そうした背景がある。

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2016年9月9日 Vol.096 <秋の始めのお楽しみ号> 目次

01 論壇【小寺】
 コデラ的ビデオカメラ年鑑 (後編)
02 余談【西田】
 本気でスゴイ!手書きアプリ2つをご紹介
03 対談【小寺】
 地方から世界に打って出るよしみカメラの秘密 (2)
04 過去記事【小寺】
 深く静かに拡がる"ハイレゾ"の世界
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

 
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