高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

イビサで夕日のインフレを考える

高城未来研究所【Future Report】Vol.328(2017年9月29日発行)より


今週はイビサにいます。

イギリスやドイツが秋深まっても、イビサはまだまだ夏真っ盛り。
ユーロバブルと温暖化の影響で、「イビサの夏」といえば、いまでは5月中旬から10月中旬までを意味します。
欧州全般、特に南欧の景気が冴えなくとも、イビサは堅調のようで、毎年あがる物価高に驚きます。

僕がイビサを好きな理由のひとつに、世界最高の夕日が見られることを公言していますが、そのメッカともいうべき、西海岸にある「カフェデルマル」は、改装に改築を重ね、敷地を年々拡大してきました。
そして、驚くべきことに、ただのカフェに二人で座って最前列で夕日を見る最低コストは、1万7000円を超えるまでになりました。

もはや、夕日のインフレです!

それでも、世界中から押し寄せる観光客で、もう10月になろうとしているこの時期でも毎日満員御礼状態が続いており、世界中の観光地を見渡しても、これほど上手くいった場所はないのではないかと実感します。
なにしろ、いまも昔も夕日は無料なワケですから。

だからといって、夕日が見れれば、どこでも高額な観光地に昇華できるワケでもありません。
「カフェデルマル」が他に類を見ないのは、その日の天候や夕日が沈むタイミングにあわせて、素晴らしい選曲をDJが行うことにあります。
イビサのDJといえば、ミニマルやEDMをはじめとしたダンスミュージックの選曲をする人たちをイメージする人も多いと思いますが、金融緩和の影響によるDJのギャラの高額化に伴い、イビサのクラブも世界中のフェスも経営的に厳しい状況が、ここ何年も続いています。
大型フェスを世界で運営していた「SFX Entertainment」が昨年破産し、イビサの老舗クラブで事実上イビサで一番のクラブ「パチャ」も、すでに買収されてしまいました。
そんな中、イビサでどこよりもビジネス的にうまくいっているのが、「カフェデルマル」です。

この理由は、前述したような年々高額になるDJのギャラを支払う必要がなく、夕日に支払うコストもまったく無い点が第一に挙げられます。
続いては、90年代初頭にダンスミュージックを牽引していた世代が高齢化に伴い、ダンスミュージックが成熟し、クラブやフェスから、もはやイノベーションが起きる様子がありません。
また、イビサを代表するアンダーグラウンドな店だった「DC10」は、いまはすっかり観光地化されて、健康的なビジネスに励んでいます。
そう考えると、かつては「イビサにいかなければ得ることができなかった特別な体験」は、いまでは他の場所でも可能で、相対的に残ったもの、夕日だけとなったのです。

どんなにVRが高度になろうとも、地中海の風を感じながら見る夕日が、当面デジタル化できるとは思えません。

もしかしたらイビサは、セカンド・サマー・オブ・ラブが起きる以前の80年代初頭に戻ったのかもしれませんし、もしイビサが時代のアンテナだとしたら、今後世界中のあらゆる事情が、80年代初頭やそれ以前に向かっているとも考えられます。

ただし、昔と違って夕日を見るコストは暴騰してますが。

 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.328 2017年9月29日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 未来放談
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 著書のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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