高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

ニューノーマル化する夏の猛暑

高城未来研究所【Future Report】Vol.686(8月9日)より

今週は栃木県佐野市にいます。

先週41度と史上最高気温を叩き出したこの地域一帯は、内陸性気候、フェーン現象、都市化などの影響から、この5〜6年は年々気温が高まり、毎年8月になると近隣の熊谷や桐生などと共に最高値を更新しています。
これからどこまで暑くなるか分かりませんが、ここまで暑いと個人的には米国のデスバレーを思い出さずにはいられません。

カリフォルニア州内陸部にあるデスバレーは、世界最高気温の場所として知られ、過去に56.7度という驚異的な気温が記録されています。
夏は日々50度超が常態化し、行くまで冗談だと思っていたのですが、本当に車のボンネットで目玉焼きを作ることができるので驚きました。

昨年訪れ、暑すぎて真夏のロケを諦めたイランも日々36度を超え、暑さ厳しいと言われる南インドも、この時期38度近くまで上がります。
また、海抜マイナス433メートルのイスラエルにある死海もあまりの暑さで倒れそうになったことがありますが、改めて調べると最高気温は40度ということで、こうなると佐野や熊谷と大差ありません。
つまり、いまの関東内陸部は「死海」と同じ気温であり、イランや南インドよりも気温が高いと認識を改める必要があります。
このままではデスバレー同様、人が住むのに適さない地域になりかねません。

一般的に人間にとって最も快適で健康に良い気温は18〜24度とされており、この範囲では体温調節が容易で心臓や循環器系への負担が少なく、睡眠が快適になって生産性や生活の質が向上すると医学的見地から判明しています。
また、呼吸器系への負担が軽減され、肌や粘膜が乾燥しにくくなるのも、18〜24度前後です。

この人にとって健康的であり快適な気温を保つのが、長年僕を魅了する「地中海性気候」です。

ドイツの気候学者ウラジミール・ペーター・ケッペンが、植生分布に注目して考案した「ケッペンの気候区分」による地中海性気候(Mediterranean climate)は、温帯気候の一種で、主に地中海沿岸地域で見られる気候パターンです。
乾燥した暑い夏と湿潤で温暖な冬が特徴で、この気候が数千年かけて人類と文明を育んできた揺るがない事実があります。

近年、健康効果が広く認知されてきた「地中海食」も、イタリア、ギリシャ、スペイン、南フランスなど地中海沿岸地域の伝統的な食事スタイルで、地域で獲れる新鮮な魚や野菜、果物がたっぷりと含まれ、パンやパスタには全粒穀物を使い、バターやラードの代わりにオリーブオイルが使用されるのが特徴です。
さらには、単なる食事法を超えて、ライフスタイルそのものも評価されていますが、ここには気候も含まれます。
つまり、地中海性気候とは、農業作物に限らずあらゆる生命にとって「健康的で発育が良い」気温を持つ地域なのです。

今から15年以上前に出版した自著「南国日本」でも指摘したように、気候が著しく変化すると、ライフスタイルも必然的に変革を迫られます。
例えば、夏の猛暑が日常となった地域では、スペインやイタリア南部で伝統的に行われているシエスタの導入が不可欠になるかもしれません。
日中の最も暑い時間帯に活動を控え、涼しい室内で休息を取ることで熱中症のリスクを軽減し、身体への負担を和らげることができるのは先人の知恵であり、今後、日本でもこうした対策なしでは、極端な暑さの中で健康的に生活を送ることは極めて困難になっていくと思われます。

また、自著で何度か言及しましたが、シンガポールの経済発展の裏には、エアコンの普及という重要な要因がありました。
年中高温多湿の気候下で、エアコンは単なる贅沢品ではなく、生命や生産性を維持するための必需品です。

しかし、その結果としてシンガポールの1人当たりのエネルギー消費量は世界第3位(カタール、ドバイに次ぐ)という驚異的な水準に達しています。
これは明らかにエアコンの過剰使用を示唆しており、環境への負荷という新たな問題を提起しています。

こうした状況を踏まえと、気候が明らかに「不自然」になってしまった地域に対して、人類はどのように向き合うべきでしょうか。
単にこれを「ニューノーマル」として受け入れ、エアコンに依存していくしかないのか。
それとも、南インドやイランのように、極端な暑さや豪雨による洪水といった厳しい環境条件に立ち向かっていくべきなのか。
あるいは、ライフスタイルを大幅に見直したり、各人が居住地そのものを再考する必要があるのでしょうか。
いま、お住まいの地域によっては、なにかを決断しなければならない大きな分岐点に差し掛かっているのではないか、と考える今週です。

日々デスバレー化する関東内陸部。
最近は、世界に類を見ない日傘をさす男性も増えてきました。
これももしかしたら「ニューノーマル」なのかもしれません。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.686 8月9日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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