高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

見た目はあたらしいがアイデアは古いままの巨大開発の行く末

高城未来研究所【Future Report】Vol.489(2020年10月30日発行)より

今週は、名古屋にいます。

この数年、リニア中央新幹線開通を見込んで、名古屋駅周辺の大開発が行われてきました。
いままで名古屋の中心地は駅から離れた栄で、古くから老舗百貨店やメガブランドショップが建ち並び、東西に走る広小路通・錦通・桜通沿いには、高層オフィスビルや金融機関などが集積していましたが、近年、JR東海とトヨタの肝煎りもあって、名古屋駅一帯の大規模再開発が行われてきました。
JPタワー名古屋やミッドランドスクエアに牽引されるように、周辺に続々と高層ビルが林立。名古屋駅南側の旧国鉄笹島貨物駅跡地を丸ごと大再開発したエリアには、「ささしまライブ24」と名付けられた新しい街が忽然と現れました。

しかし現在、駅周辺のビルが続々と外資の手に渡っています。
表向きは、欧州や米国のREITを中心としたファンドですが、水面下では中国系ファンドへの売却が名古屋でも着々と進行しています。

この背景には、コロナ渦によるオフィスの転出もあるのは間違いありませんが、実際は半年前から1年前の退去予告契約が多いことから、本格的に空室率が跳ね上がるのは、来年の春から夏にかけてになると思われます。
つまり、コロナ渦とはさほど関係なく、実際は名古屋駅周辺開発のバブルが終わったことを暗に指し示しています。

名古屋駅周辺の開発が暗礁に乗り上げた第一の問題は、リニア中央新幹線開通見通しがいつまでたっても明確にならない点にあります。
当初のスケジュールでは、2027年開業を目指していましたが、この夏、静岡県から工事の同意が得らないことを理由に、JR東海の定例社長会見ではじめて、「2027年の開業は難しい」と明言するに至りました。
これまで、安倍政権最大のバッカーと言われたJR東海葛西敬之名誉会長との関係で、事実上国庫からリニア・プロジェクト全体に3兆円を超える財政投融資を引き出してきましたが、安倍首相退任後、リニア中央新幹線開通は、さらに不透明な状態に陥っているのが現状です。

また、事実上トヨタ一企業によって牽引されてきた名古屋経済圏は、今後、トヨタの先行きが不安定になると予測されることから、決して明るくありません。
今週、中国が2035年に新車販売の50%以上を、電気自動車や燃料電池車などの新エネルギー車にし、それ以外のガソリン車は、すべてハイブリッド車にすると発表しましたが、おそらく今後、ハイブリッド車を認めない方針を再発表するものと思われます。

一昨年、中国政府が威信をかけて作り上げた世界最高のハイテクと環境対応の未来都市「雄安新区」を訪れた際に政府高官から直接お話しをお聞きしましたが、どこかの時点で中国政府は、すべてのガソリン車を廃止する方針であることとハッキリと話していました。
すでに英国は、ハイブリッドを含むガソリン車の新車販売を、2035年までに禁止する方針を発表していますが、これらの世界的な潮流は、市場に混乱が起きないよう徐々に前倒しになるものと思われます。

では、トヨタに変わる中国企業が台頭してくるかと聞かれれば、確かにそれなりの企業も出てくるのでしょうが、電気自動車は部品点数も少なく、内燃機関を必要とせずモーターとバッテリーが動力になるため、誰でも作れる時代に突入すると考えます。
僕が中国を見て進んでいると感じたのは、「雄安新区」のような未来都市だけではなく、深センあたりでも勝手に電気自動車や小型の乗り物を作って、路上や公園などで走る姿です。
恐らく日本では、大企業保護を目的に、さらなる厳しい車検と道路交通法が定められると予測され、結果的にモビリティの民主化は遅れをとると思われます。

この電気自動車の先にあるのは自動化で、2040年代には都市交通網が世界の先進都市で一変するでしょう。

もし本当にそうなら、重厚長大なリニア新幹線にばかり重きを置くのではなく、都市整備やあたらしい街の設計は、今後のモビリティを見込んだものにしなければなりませんが、名古屋駅周辺の大再開発は、JR東海やトヨタが中心的存在なため、その方向には向かっていません。
それゆえ、コロナ渦とは関係ない、名古屋駅周辺の空洞化の本質が浮上してきたのが、現在の姿です。
端的に言えば、見た目はあたらしいけど、アイデアは古いままであることが徐々にバレてしまったので、求心力を持ちません。

昔ながらのやり方で巨大開発を行ってしまった名古屋駅周辺。
少なくとも今後30年、時代の変化に着いていける唯一無二のまちづくりをしていなければ、オフィスや人は、この地に止まる理由はありません。
過度な包装紙が破れ、いまやカンフル剤をどんなに打っても、もう効き目がないよう僕には見えます。

この地に限りませんが、あらゆる場所の本質が明確に見えていた70年代まで、いま時代は急速に戻っているように感じる今週です。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.489 2020年10月30日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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