※高城未来研究所【Future Report】Vol.537(2021年10月1日発行)より
今週は、浜松にいます。
仕事の合間を縫いまして、静岡に来た限りにはうなぎを食べずにはいられません!
一般的にうなぎのシーズンと言えば真夏だと思われていますが、あくまでもそれはマーケットにあわせた養殖うなぎの話しで、実は10月から12月が天然うなぎの旬の季節です。
天然うなぎは胸が黄色いため、かつては「胸黄(むなき)」と呼ばれ、「万葉集」にも「むなぎ」と記されています。
確かに脂がのった天然うなぎは、胸が金色です。
天然うなぎは、エサを食べ出して脂がのってくる秋からが食べごろの時期でして、特に水が冷たくなり、身がピシっとしまった10月初旬から美味しくなると昔から言われてきました。
江戸時代には「夏のうなぎは痩せてて美味しくない」と皆が知っていたことから、夏真っ盛りの土用の時期になると、鰻屋の売り上げは激減。
そこで、困ったうなぎ屋が江戸時代を代表するクリエイティブ・ディレクター平賀源内に相談したところ、「丑の日に“う”の付く食べ物を食べると夏バテしない」という風習が昔からあったことから、「土用の丑の日は鰻」と書いた張り紙を店先に貼っておくように勧めました。
そのうなぎ屋は大繁盛!
他のうなぎ屋も真似するようになったとされ、当時の風習(キャンペーン)が今日まで続いています。
エジソンやダヴィンチは言うに及ばす、昔の才人はマーケティングにも長けていたのです。
養殖うなぎは、1年の中でもっとも需要が高まる「土用の丑の日は鰻」(by平賀源内)に合わせて育てられますので、7月から8月が一般的には美味しいと言われていました。
しかし、現在では1年中温度管理されたビニールハウスで育てられることから、季節による味の違いはほとんどありません。
むしろ問題は、密猟を前提とした養殖方法です。
近年、鰻の稚魚1kgあたりの価格が金(ゴールド)を超えたことから、密輸や密猟が横行。
現在、多くの養殖うなぎは、ブロイラー鶏と同じくハウス内の養鰻池で管理され、冬眠させずに急速に太らせます。
この養殖方法により、通常2〜3年かかるところを半年強で出荷サイズにすることが可能となり、うなぎの稚魚であるシラスウナギを出来るだけ早く養鰻池に入れて太らすことができれば、うなぎ消費のピークである「土用の丑の日」に向けて高値で売ることができます。
宮崎や鹿児島などの南日本の各県では12月5日から10日を解禁として漁を認めていますが、フライングして太らせるため、密漁=解禁日の前に獲る必要があります。
美味しいシラスウナギが多く取れるのは新月から10日間と決まっており、11月の新月に各地でシラスウナギの密漁がこっそり行われ、これが美味しいと言われるブランドうなぎの秘密なのです。
現在、日本は表層的な美食ブームに湧き上がり、レストラン側のPR担当として重宝されるだけのフード・ジャーナリストは、うなぎに限らず食材のトレーサビリティを「あえて」無視しているように見受けられますが、実態は魑魅魍魎です。
僕自身の和牛の興味もここにあり、飲食店が掲げる表層的なSDGsやウェルネスという言葉ほど嘘くさいものはありません。
美味しいと正しいの間に揺れる飲食業界。
もし、糖中毒ゆえ味覚がおかしくなってしまっているのなら、あらゆる判断もおかしくなるだろうと、良い具合に太った天然うなぎを食しながら考える今週です。
高城未来研究所「Future Report」
Vol.537 2021年10月1日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
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