やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

フジテレビ系『新報道2001』での微妙報道など



 現在、豊洲市場ネタも一巡して、専門家会議や新市場タスクフォースも立ち上がって、少しは落ち着くかというタイミングでとんでもないネタをフジテレビがやらかしてしまいました。

 ちょっと変わった感じの都議から送られた一枚の写真を、現場検証もすることなく報道番組で「柱が傾いている」と流してしまう大誤報で、目下大騒ぎになっています。

フジテレビが1枚の写真で豊洲市場の柱の傾きを疑う→東京都は全面否定。フジテレビと専門家は…。

 問題は広角レンズで撮影したであろう画像の歪みを検証することなく報じてしまったことであって、フジテレビに何らかの悪意があっての報道ではないと思います(信じます)。ただし、本件に限らず一連の報道において豊洲市場の建築・構造物に関する安全性や汚染面での不安を極度に煽り、適法かつ、本来は問題にならないような些末な問題を大げさに取り上げて視聴率を稼ぐ技法については、強く戒められなければならない事案にまで成長してしまっています。

 思い返すのは、かつてオウム真理教のサリン事件で無実の近隣住民が加熱する報道の中で犯人と断定され、執拗な報道が行われた結果、無実であることが判明した事案です。報道も注目されている事案であるからこそ慎重に検証され事実確認されるべきものが、どういう経緯か嫌疑どころか噂レベルの話でさえも事実であるかのように独り歩きしてしまう、という状況が絶えません。

 やはり、問題視されるべき事案については前後関係や入手されている資料のダブルチェックは必要で、ワンソースで飛び乗ることなく複数の情報元から検証可能なところまで落とし込まなければならない、というのは当然のことです。しかしながら、今回のように建築の妥当性を考えた場合に、構造計算書偽造問題で姉歯建築事務所やヒューザーなる業者の問題を執拗に追いかけ続けた結果、似たような問題は普遍的にあり、それでもきちんとした施工が行われていれば問題とならず、実際に震度5弱の地震が来てもクラック一つ入らなかったのが姉歯物件だったことも記憶に新しいわけです。これは、単純に物事を報じるにあたっての専門性や、事案ごと個別の特殊性を見分ける能力にあります。

 さらには、小池百合子都知事が「都庁の問題」と開幕した都議会でぶち上げている一方、建築方面の座会では東京都は適切な措置として地下ピットを設置し、汚染が上がってこないための最善の手法を構築していると主張されました。もちろん、当事者は施主である東京都に無断で情報開示できる仕組みではなく、守秘義務もありますから、疑いをかけられたからと言って勝手に「こういう事情でした」と説明することはできません。だからこそ、外部の有識者は彼らの業務の内容を正しく推測し、きちんとした設計や施工を行ったのかという確実性、誠実さを推測しなければならないことになります。

 ただ、テレビであれば当然のことながら、問題に対する報道の正確さよりも面白さを重視することになれば、広角レンズで歪んだ写真一枚で建物全体が問題であるかのような報道をすることだってできてしまいます。それを捏造と踏み込んで断罪するつもりもありませんが、やはり慎重さを欠いていたとしか言いようがありません。

 おそらくは、テレビ局各社はNHKも含め相当な返り血を受けることになるでしょう。それは、不適切な報道を止められなかったというオウム真理教のような事例や、あるある大事典の類も含めて、太平洋戦争を煽ったのなんのという話まで持ち出されて批判され、さらなるテレビ局の情報ソースとしての地位低下に拍車をかけることになりかねません。

 テレビ局は襟を正してください! というより、報道や情報制作で官公庁を叩いて数字を取りに行くのは、結果として誤報だったとき全部テレビ局に刃物が戻ってくるのです。テレビ局のディレクターや制作会社が、建築会社で一線でやっている人たちの情報や判断、コメントが取れないうちから、ほいほい取材に応じる一級建築士がどういう人物であるのか判断しないことがいかに危険であるか、考えなければなりません。暇な一級建築士は、仕事がないから守秘義務もなくテレビに出られるのです。

 また、そういう誤報を流し続けた自称有識者が東京都の委員になってしまうことにも懸念はあります。情報公開だというのであれば、その人がどういう経緯で東京都の委員になったのかを調べることもまた、マスメディアの役割であるように思います。

 もう遅いかもしれませんが、やはり物事には正邪あると感じます。焚き付けたところまでは良くとも、焚き付け方の筋が悪ければ、焚き付けた側に注目が集まるのは仕方がないことです。なるだけ、良い形で問題が着地するといいなと思いつつ、本メルマガの本編でもう少しだけ、踏み込んだ内容を書きたいと思います。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.167 豊洲新市場ネタで暴走するテレビ報道を憂えつつ、Amazon Japanの動向について業界関係者の声を拾ってみる回
2016年10月4日発行号 目次
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【0. 序文】フジテレビ系『新報道2001』での微妙報道など
【1. インシデント1】Amazon Japanで何が起きているのか
【2. インシデント2】豊洲新市場ネタでテレビ局大変
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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