やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

「蓮舫代表辞任」後の民進党、野党、ひいては反自民について考える



 メルマガの冒頭に、ちょうどいま見物させられている横浜市長選の話を絡めて、観測として出回っていた蓮舫代表辞任の話を論じようと思っていたわけです。ところが現実は厳しく、こちらが伝え聞いていた「民進党関係候補の横浜市長選敗退を見てからの蓮舫女史の代表辞任を決断」というシナリオが前倒しになり、結果も見ずに辞めちゃうという流れになっておるようです。

 それだと、曲がりなりにも戦勝した仙台市長選をいわば「軽視」して、都議会選挙敗勢の結論だけで辞任(二重国籍問題はあれど)という流れになるわけでして、最後の最後までいろいろ堪え性のない民進党執行部だったなあと思うのであります。

 反自民、反政府の面から申し上げるならば、民進党の命綱は連合が支える組織選挙で得られる票と仕組みです。ここがそっぽを向くと議員が大量に落選してしまいます。

 ただ、連合もいつまでも退勢から回復しない民進党に食らいついて、その体制が理由で不倶戴天の敵である共産党と野党連携、ひいては野党共闘路線を打ち出されては意味がありません。なので、電力系の問題もありますので反原発などエネルギー政策の重要なところや、最低賃金の引き上げなど政権と取引できる部分については連合は柔軟に自民党との政策連携を深めるシフトを見せつけているというのが実情です。
(なぜか連合の神津代表が退陣するという謎の報道が毎日新聞からありましたが、原則としてこの辺はガセネタというか何か意図をもって流された誤報だろうとは思っています)

 で、当然マーケティング志向でいくならば民進党の上がり目は単なる反自民や政権批判だけではなく、経済政策や安全保障と言った、本来「政権担当能力」が意味するところも総論としても各論としてもしっかり党内の議論を積み上げて自民党と対抗していかなければなりません。そのためにも、自民党内での非主流派との連携も必要になるでしょうし、公明党とも日に影に話ができるような「腹芸」をやらなければならない立場なのは間違いないのです。

 ところが、いまの民進党で言うならば、この執行部の機能が弱く、各方面への働きかけ、目くばせというものが事実上存在しません。これは比喩でもなんでもなく、ほぼゼロというのが実態です。じゃあさぼってるのかというとそうではなく、単純に党組織をどうにかまとめさせるべく頑張ってはいるのです。例えば「解党的出直し論」が出る中で、解党しなくても国民からの請託に応えられる政党として云々という大見得を野田さんが切るにあたって、そういう大見得を切りますよという下交渉を各方面にしているという点では頑張っています。

 しかしながら、それはあくまで効用としては党内融和の話であり、地方組織の停滞や都議選前に民進党系議員がごっそり離党してしまったりという問題には手当てができていないばかりか、党内の話で終始しているため外から民進党が事態打開のために新機軸を打ち出そうとしているというネタにはなりません。結果として、頑張ってはいるけど頑張っている内容が中の話ばかりであるため、新しい話が民進党から一個も出てこず、出てくるのは人事や離党の話ばかりで大事な有権者とのコミュニケーションは後回しにならざるを得なくて、結果として都民ファーストに反自民票を掻っ攫われることになります。

 この「頑張ってはいるんだけど、うまくいかない」というのは不振企業でも民進党でも一緒で、打てる手が少ない中で打開できるシナリオやアイデア、ビジョンが見当たらないとどうしてもこうなります。東芝みたいに死ぬしかないところに死ぬのを抵抗した結果が大変なことになるのと同様、民進党でなければできない政策が打ち出せなければ期待感を持たれず沈没するというのは当然です。

 安倍政権の支持率が低迷し、これから頑張って政権批判票の受け皿になろうというところで政党支持率が民進党も一緒に下落しているというのは、国民が民進党に期待する筋道が失われてしまって久しいということにほかなりません。いまなお、旧民主党政権時代の失敗を引きずり、また鳩山由紀夫さん、菅直人さんといった歴代首相と小沢一郎さんいずれもが党内で失脚してしまっている現状を見るに、新しい人材が底を埋めていく算段を作らなければ本当に前に進まないのです。

 民進党の中の議論として、ぼちぼち出ているのが「右派的に見える安倍政権が、実は左派的な経済政策を実現しているため、対抗する民進党の政策が打ち出しづらい」というジレンマがあるような話は出ています。まあ、それはそうなんでしょう。ただ、本当に議論しよう、改革しようというところで「アベノミクスに代わる経済政策の不在」は大きく、蓮舫代表が辞任を発表した直後に株式市場が2万100円を回復したというのは皮肉なものです。市場も企業も誰も民進党には期待していない表れだと言われても仕方がない現象です。

 ここから何を見定め、どのような政治をやっていくのかは、いまの蓮舫体制ではむつかしくなった、党運営に行き詰まったことを、素直に受け止めての辞任であるならば、それはそれで仕方のないことなのですが、私は蓮舫女史にはまだできることがあって、やり尽くしていないと思っていただけに、やはりショックでした。

 さて、どうなりますか。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.195 突然の蓮舫代表辞任についてをあれこれと考えつつ、国内ゲームビジネスをめぐる諍いやサイバー攻撃事情などに触れる回
2017年7月27日発行号 目次
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【0. 序文】「蓮舫代表辞任」後の民進党、野党、ひいては反自民について考える
【1. インシデント1】孫正義さんがAppleにキレて公取になだれ込む一部始終
【2. インシデント2】いよいよ一線を越えた感のあるサイバー攻撃
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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