切通理作
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切通理作メールマガジン「映画の友よ」

戸田真琴の青春を黒い雨で染める~『コクウ』(『ほくろの女は夜濡れる』)監督榊英雄&主演戸田真琴ロング座談会

切通理作メールマガジン『映画の友よ』Vol.080に掲載された「戸田真琴の青春を黒い雨で染める〜『コクウ』監督榊英雄&主演戸田真琴座談会」の再編集版をお届けします。

戦隊シリーズの隊長からコワモテの悪役まで、老若男女に親しまれる俳優・榊英雄は、監督としても精力的に活動している。ハートウォーミングな世界から闇社会の妖しい魅力まで、やはりここでも振幅のある作品群をものにしてきた。
以前、監督作『木屋町DARUMA』公開の際にも、当夜間飛行のサイトでインタビューさせて頂いたことがある。

『木屋町DARUMA』そして初のピンク映画!榊英雄監督ロングインタビュー

7月15日(土)からは最新作として窪塚洋介、降谷建志のW主演作『アリーキャット』も公開される。

映画『アリーキャット』公式サイト
 
榊英雄はまた、ピンク映画に自ら希望して取り組んでいることでも知られる。その第4作として、AV界のトップアイドル・戸田真琴を主演に、『ほくろの女は夜濡れる』を送りだす。同作品は6月23日からピンク映画専門館で公開された後、R‐15版(公開題『コクウ』)が一般劇場のテアトル新宿でも公開される。
主演の戸田真琴は映画好きとしても知られており、ポータルサイトKAI-YOUでは、人生に必要な事を映画に重ね合わせる映画コラムを書き、その繊細なタッチで人気を集めている。

戸田真琴のコラム『悩みをひらく、映画と、言葉と』

2人のコンビ作が実現すると聞いて、今回インタビューを敢行した。以前のインタビューで「女優を信じていない」と発言した榊監督と一緒の現場は、過酷なものが予想される。そこで、戸田真琴は何を見たのか?
(切通理作)


戸田真琴の第一印象

戸田真琴演じるヒロイン・朋美は街中で偶然、大学時代に仲間だった潤と再会。やがて彼女と付き合うようになった潤だが、朋美には彼の知らない顔があった。
「サヤカ」と名乗って夜な夜な別の男に抱かれ、報酬を得ていたのである。朋美は、客となった男に、アイライナーでほくろを描かせていた。そして一人になると、その上からボールペンを強く押しつける。苦痛に顔を歪ませながら、彼女の身体に戒めのほくろが増えていく。
朋美には、継父・幸雄に抱かれた過去があった。そのことが、彼女のこの奇妙な行いに、関係があるのだろうか――? 

 ある女の因果宇宙を表現する時、まさに画竜点睛のように「ほくろ」という印をポンとつける。原案も考えた榊英雄のセンスが光るシリアスドラマだ。
 

戸田 脚本を読ませて頂いたら、めちゃめちゃ面白くって。救いがないお話なんですけれども。
 僕のピンクの前作、前々作はわりかし明るい……コメディタッチじゃないですけど、ちょっとノリの軽い映画じゃないですか。
切通 群像劇の要素がありましたね。
 そうです。でも今回はシンプルに登場人物も少なくして、笑いに逃げずに、暗い話をやってみたいなっていうのがあったんです。
もともと初めてピンクを撮る時、オーピー映画さんから「企画を出してください」と言われて、プロット書く時に一つ二つじゃカッコ悪いなと思って、俺と脚本の三輪江一で14本ぐらいプロット書いたんですよ。意気込みを見せて。
その内の、「僕、これやりたいんですけど」っていうベスト1がこれだったんですけど、その時はハネられちゃって、映画化された『オナニーシスター たぎる肉壺』(2015)に代わり、でも「いつかこれを撮りたいな」と思っていました。
切通 ピンクに関わる最初から温めてたんですね。
 はい。もともと「ほくろ」って題名でした。
ほくろを描くことで運命が変わっていく女の話をやりたかった。自分で脚本書きたいと思ってたんだけど、僕も今年はおかげさまで色々忙しくしてたんで、三輪に泣きついて、僕の原案で、共同で書いてもらったんです。
そして、出来れば何も経験がない主演女優でやりたいと。新人とやりたいという思いが強かったんです。
ピンク映画として成り立たせる時には、戸田真琴ちゃんみたいな知名度のある人が必要で、そこはまあ、条件かなと思ったんですけど、その中でも出来れば初めて出る人、あと新人っぽい人が欲しいっていうのをお願いして、オーピーさんから名前が挙がったのが戸田真琴ちゃん。
会ったら、なんとなく「暗いんだなあ」という感じを持った。このストーリー的にも合ってるんじゃないかと。
戸田 (笑)。
切通 戸田さんはAV女優としては青春的な、爽やかなイメージがファンにアピールしてますよね。でも榊さん的には暗いイメージが?
 僕は会った瞬間「くれーな、この女」って。
切通 べつに、笑顔も見せなかったとか、そういうわけじゃなくて。
戸田 態度が暗いとかじゃなくて、なんか。
 「それっぽくない」って言ったら失礼ですけど、AV女優というより、なんか劇団系なのかなって。
 で『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』見てたんですよね。『牯嶺街』見てる女優っていいな、決まりだなと。
戸田 「一番最近見た映画で面白かったのはなんですか」って訊かれて、「おととい『牯嶺街』を見たんですけど、いまだにそっから抜け出せなくて」って。
 だからなんかそういう、出会いでしょうね。不思議に。
戸田 不思議な縁があって。もともと「戸田さんに」って作られたお話じゃなかったけれど、たまたま私が同じ日に(違う媒体の)インタビュー受けて暇してた時に、「いまちょっと映画の人が来てるんだけど、挨拶しない?」って言われて。
 ピンクだし、予算的には厳しいけど、大変だけど、身体もボロボロになるかもしれないけど、まあいい現場だと思うし、この話だったら、たぶん戸田だったら合うんじゃないかって話はしたよね。
戸田 はい。

 

戸田さんは「ブリッ子」?

切通 榊監督としては、撮影現場での戸田さんはいかがですたか?
 ブリッ子だし、腹黒いしな……と現場が始まって2日目ぐらいでわかって、「ブス、このやろ」って言いながら。
戸田 「ブリッ子してんじゃねえ」って。
 「ブリッ子!」「ブリッ子してんな」ってずっと言ってたら、3日目は俺を無視してましたもん。
戸田 (笑)無視って。
切通 無視してたんですか。
 そうです。途中から僕が言う口調に慣れちゃって、集中してるんですよ(笑)。
切通 ああ、芝居に集中しなきゃいけないから。
 反応ブリッ子、内股ブリッ子、芝居ブリッ子ね。「腹黒いんだから。やれよ芝居、ボケカス」って。
切通 「反応ブリッ子」って、どういうことなんですか。
 いやなんか、腹黒いんです。
戸田 (笑)。
 たぶんなんかそういう気がしたんです。
それをちょっとでも映画の方に引っ張れると、映画の方にもらえると、この映画は成功するなと思った。
切通 お話の中でも、戸田さん演じる朋美はOLである昼の顔と、事情を抱えた夜の顔がありますものね。
 その昼と夜のバランスが朋美の中でもちょっとずつ崩れてった時に、戸田自身が出てきたのかって気がするし。暗くなってからは、すごく絶品の集中力でしたね。
2日目ぐらいから、どんどん現場のリズムもわかってきたしね。
戸田 2日目から「ブス」って言われなくなりました(笑)。
切通 榊さんは、女優さんを演出する時、誰にでも「ブス」って言うんですか。
 僕はだいたい「ブス」って言います。夏木マリさんにも「マリ、ブスか今日は」って。
戸田 夏木マリさんにブスって……。
 愛情ですよ。現場一瞬ピーンとしますけど、「私、今日ブス?」「いや、大丈夫。マリ好きだよ」って言って。
一同 (笑)。
 なぜなら僕、緊張しちゃうんですよ。「夏木マリだよ」って。
切通 緊張を壊すために?
 「マリさん、こうで、こうで」って言うよりは、「マリ、立って」って。
「うれしいわ。私をマリって呼ぶ人、なかなかいないわよ」って。僕も「失礼します。この現場だけは許してください」。
 垣根を崩すというか……特にピンクはある程度短い期間なんで。撮影3日間だしな。
戸田 うん。
 あっという間に撮って「じゃあね」っていうのもなんなんで、だったら濃厚に、やっぱ記憶の片隅に残されるようにして送り出したいじゃないですか。やっぱり。

演出中の榊英雄監督

 

主演と監督の「ピシッ」とした関係

切通 戸田さんは、もともと映画に出たいとは考えてなくて、監督したいと「キネマ旬報」での取材の時もおっしゃっていましたよね。今回、映画の現場を知りたかったということでしたが、実際いかがでしたか。
戸田 めちゃめちゃ楽しかったです。あの、楽しく見えたかはわかんないですけど……。
切通 初日「楽しい」「楽しい」ってずっと言っていたとか。
戸田 はい。ただ、自分の未熟さとか、慣れてないこととか、いっぱいあって。それをちゃんと教えてくださるんですよ、監督って。言葉は……(笑)。
 言葉は乱暴だけどね。
戸田 言葉は乱暴だったりするんですけど、すごくちゃんと教えてくださって、本気になった瞬間っていうのを、たぶん全部捉えてる。だから、私がちょっとだらけてるとすぐ気付いてくれるし、「なんか、いまの出来たな」って思った時に褒めてくれたりして、それがすごく楽しかったんですよね。
AVももちろん、皆さん本気で作ってるコンテンツなんですけど、やっぱり、どうしてもセックスを見せるコンテンツで、ドラマものであっても演技がメインではなくって、セリフ覚えてなくてもオッケーぐらいの時もあるんですよ。
そういうコンテンツとして受け容れて頑張るっていうやり方もあるんですけど、慣れすぎたらいけないなってすごく思っていて。本気でやって、皆が本気で作ってて、その中で役を生きるっていうことが、ちゃんと出来る人間になりたいなって、3日間ずっと思ってました。
 彼女、頑張ってましたね。役に向かって、出来るだけ近づこう、自分でやろうっていう姿勢が。
でもやっぱり人間って24時間、ピリピリ出来ませんから。飯食ったら眠くなるし、深夜になったらちょっと能率も下がるし。僕もそうですけど、そのタイミングでやっぱり、「ちゃんと見てるよ」とか、「油断しないよ」って、お互いのある意味の合い言葉みたいな。
 ある意味、まこっちゃんに「油断するんじゃねえよブスが。飯食ったから眠いよバカ野郎」って言っても、彼女を責めてるんじゃなくて、(同時に)スタッフ全員にも言ってますから。
切通 そこに込められてるんですね。
 「油断するなよ、お前、たかだか一言、言ったり歩くだけで、ブス。このやろう」とかって言っても、我々の事なんです、みんな。
 それはもう主役だからっていう関係性で「ピシッ」とやって、どうしても撮らなきゃならない。それはそれで大事なことだという意味での、ムードメーカー的なものがありますよね。主役をそういう風に言葉攻めするっていうのは(笑)。
戸田 (笑)。
切通 伝わってましたか。そういうことだって。
戸田 はい。ああ。うーん(笑)。
 なんだよ、お前。
戸田 (笑)言ってくれてる時って、ホントに、自分がご飯食べた後で眠くなってる時とかだったりするんで、そこに気づかれないで、気抜けてるとこ撮られちゃう方が怖いと思ってて。
切通 ああ。
戸田 なんか、逆に、監督の方が全然寝てないのにどうしてわかるんだろうって。不思議に思いながら。
 へんな時間なんだよ、撮影中って。切通さんも初監督したんだけど、へんですよね?
切通 まったくなんにも疲れないですよ。
戸田 へえ!
切通 なんなんですかね、あれは。
 なんかへんなもの打ってるんじゃないよ。
戸田 (笑)。
 中から沸いてくんのよ。「この一瞬しかないんだから、これを逃さずか」っていうテンションで、やっぱ3~4日すっと行っちゃうよね。
戸田 へえー!
 もう躁状態ですよね。あと向き合いますよね。
結局、やればやるほど、己に対して「何者やねん」って思うのよ。「結局お前ってこんなクソなやつなんじゃね」って、演出しながら自分で気付いて「ああ、俺の性癖はこうやって戸田をヤることなのか」とか。
戸田 (笑)。
切通 今回は性癖的には?
 いやあ、今回の現場は頑張って抑えました。
一同 (笑)。
 なるたけ、僕の「バック好き」が出ないようにしましたね。一箇所だけにしました。大事なとこだけ。
戸田 (爆笑)。

涙が止まらなくなった理由

切通 今回の映画で「ほくろを描き込む」っていうのはフェチ的なものなのかと最初は思ったんですが、業を背負うという感じで、よりドラマ的な要素になっていましたね。「キネマ旬報」(2017年7月下旬号『ピンク映画時評』)での取材の時は、マリリン・モンローが自分のほくろを描いてたという伝説が発想のきっかけになったと伺いましたが。
 ヒロインのほくろの数は、お金を返すための男性遍歴であったり、それを一回サラにすることとか、愛のかたちだとか、そういうものがミックスされたものだと思いますね。
 ほくろを描くことは、役者がメイクするということとも似ているかもしれませんけど。やっぱりなんかひとつやることによって勇気を持てる。普段はなにもないのに心一発で「変身!」みたいな。パーマンじゃないですけど。
戸田 あー。
 つまりなんかで変われる「変身願望」が、もしかすると『ほくろ』っていう、もともと書いたプロットにはあるかもしれないですね。
 でもそれがなまじっかいい方に変わったばっかしに、人間油断して慢心してすべて失った時、改めてそこに頼るのか、頼らないのかっていう怖さで崩れていくみたいな……という感じを描きたいなと思ったのが、多分原点だったと思うんですよね。
戸田 私の知ってる子でも、それがすごく重苦しい話ってわけでなくても「出会ったばっかりの人とどこどこでやっちゃったんだ」って自慢する女の子がいたりとか、「レイプされたことあるんだ」ってことを、やたらと話す子もいたりして。もちろん私はレイプ肯定では絶対ないし、痴漢も肯定じゃないんですけど、ある意味、自分にそういう、普通じゃないドラマチック……ドラマチックとも言えないかもしれないけど……。
 わかる。ヒロイズムとか、ヒロイックなもの欲しくなるよね。
戸田 はい。それが欲しいっていう願望があると思っていて、私が演じた朋美ちゃんっていうのは、ほくろが一個一個増えていって、「自分はこんなに汚れたんだ」っていうことをなんか……ある意味この世への「当てつけ」じゃないけど。
切通 あー。
戸田 そういう風に思っているところもあるし、自らある意味望んでたっていうところでもあるんだろうなって、思いました。
切通 戸田さんはキネ旬の取材で、ご自身AVに出て、1本、2本って発売されていくたびに、「やったぞ」っていう証拠になるような気分があるとおっしゃって、朋美にとってホクロが増えていくことと重ね合わされていましたが、そういえば、AVのデビュー作で処女を喪ったというプロフィールを、ご自身語りますよね。
戸田 そうですね。語らないと忘れられちゃいますからね。
切通 そこのストーリー性っていうか、自分にとっての区切りというか、意志表明を感じるんですけど。
戸田 どうしてもAVって、肩書きが必要で「この子ってこういう子なんだ」って認識をしてもらうことが大事な世界で、そういう意味もあって、「私はなんにも知らない状態で来ました」っていうのが。
 売り文句だな。
戸田 言わなきゃなって思ってて。自分にとってもそれは軽い事ではなくって全然。いまもAV女優やってる理由だと思うし。それって。
なので、忘れられないように繰り返し言ってるんだと思います。
それによって……ある意味「自分にストーリーがあります」ってことを言いたいのかもしれないです。
 今回の脚本を最初読ませて頂いた時は、すごく面白くって「わあー、かわいそうだな、主人公」って。ある意味他人事だと思ってたんですけど、だんだん自分とリンクしてくるところがいくつも見つかってきて。
切通 役と自分のシンクロの善し悪しについても語られていましたね。
戸田 以前、ドラマもののAVを撮った時に……それもまたちょっと暗い話を撮ったんですけど。レイプされる……その時、自分の悲しかった経験とか、嫌だった思い出とかっていうのは、まったく経験してなかったら、傷つく演技ってやっぱり出来ないんだなって思って。「役に立つんだな」って思ったんですよ。私それを撮った時。
傷ついたこととか、悲しかったこと、やるせなかったことは、でも役に立つんだなと思ったことがあったんですけど、今回撮って、なんか「あ、これ、もっ回傷つくだけだな」って思ったんですよね。
切通 あー。
戸田 今回演技をした時に、発端になる出来事、自分の中でリンクする出来事が出てきちゃったところで「あ、役に立った。リアルだった。よかった」じゃなくて、「あ、忘れてたことを、もう1回、同じことで、同じとこに傷つけられただけだな」って思って、最後ラストシーン撮ってる時に、急にそこに気付いちゃって、なんか、涙が止まらなくなったんですよね。

黒い雨にうたれて

 ラストシーンはよくやったと思った、自分でそこまで持っていってね。
 もうぐちょぐちょでしたもの、顔がもう。ブスでしたよ。
戸田 ですねー。
 メイクも壮絶で、メイクの途中もう「やろうやろう。早く本番撮ろう」っていうぐらいに、すごくいい感じだったんで。
戸田 血も付いていたし。
 見事にいい血のりなんですよまた。色のかすれ具合が。外で裸足だしな。
戸田 そうなんです。
 最近珍しいんじゃないですか。あそこまで人巻き込むっていうか、仕掛けるっていう撮影は。Bキャメで望遠で撮ったカットもあったし。
切通 ラストシーンの撮影は何日目だったんですか?
 本当に最終日のラストカット。
切通 まさに世界の中心で叫ぶような、すさまじいラストでしたね。
 ぎゃあああああって、すごかったもんね、あの声ね。
戸田 はい。
 あれは怖いっすよ。ひたすら引っ張られるよね。
戸田 怖いです。他人だったら怖いです。
切通 一番最後の雨が降ってくるところは、脚本に付けられた原題『黒雨(コクウ)』を地で行きますね。
 なんか最後黒い雨が降るっていうのが僕のつけ足しで、最後、画面にドットのように点が出てくるって三輪が書いてたんだけど「三輪、違うだろ。黒い雨が降ってくるんだよ」って思い付きで言って。
「真琴ちゃんが演った朋美にだけ、黒い雨が降ってくるっていうのも幻想なんだよ」。最後だから真っ黒にしちゃえって、「ヨーイ、スタート」でバーッと、ずーっと黒い雨をかけ続けて真っ黒になったよな。
 15分間ぐらい回してたよね。
最後「ぐえー」って、「座りこめコラア!」って僕も叫んで。
戸田 最後もうけっこうマジでコケてて。
 もうホントに、口の中までね真っ黒。
戸田 はい。染みました。ちょっと。墨汁ってすごい。全然落ちなかったですね。
 ごめんね!
戸田 (笑)
 でもそのぐらい真っ黒にして、自分の存在を消すようなイメージに見えればいいかなって。で最後、ゆっくり、フェイドアウトで黒味になって、静かにタイトルが初めて出てくるっていう。
戸田 すごかった。あの撮影の時、めっちゃ泣いてたんですよね。
 彼女のエンジン、アイドリングしてもらって、僕がエンジンのスイッチ入れて、暗示のように言ってね。「ほら、戸田、思い出せ、ボケカス、ブス、ブス、ブス、ブス、ほら」って。
戸田 ブースって。
 「どうしようもないクソ女が。このやろう」って、ラストカットまでの、なんとなく自分の演出のイメージを伝えて、もはやもうその瞬間まで来たからあとはもう「撮るぞ!」って
 周りにも「そろそろ行くぞ!とっとと準備しろよバカヤロー」って、怒鳴りながら、真琴ちゃんには「もういけるね?スイッチ押すぞ!用意!」ってバッと撮った。

 

誰からも必要とされていない瞬間

切通 義理のお父さんに対する、ヒロインの、運命に抗いながらも離れられない気持ちには複雑なところがあったと思うんですけど、どんな風に捉えてましたか。
戸田 誰からも必要とされてないんですよね、結局。朋美ちゃんっていうのは。
もしかしたら……誰しもそうなのかもしれないんですけど……お父さんは暴力をふるいながらも自分も傷つけることで、自分を保っていて、でお母さんとの関係もかつて壊してしまって、でいまは朋美しかすがるものがないっていう状態っていうのは、ああなったときに、お父さんも、朋美も、2人とも共通しているのかもしれない。朋美も、あの時点で誰にも必要とされてない自分に気づいてしまって、お父さんっていうのがすごくおっきい存在になっちゃったんだと思って。
そして最後の展開(未見の方のため伏せておきます/構成者註)はもしかしたら、お父さんはある意味、あそこで救われたんですよね。
一同 あー。
戸田 お父さんに向かってああいう行動を取ることでしか、自分が自分であることを示せなかったんだろうなって思いながら、演じてました。
 やっぱせつなかったですね。痛々しくて。お父さんが生前のお母さんにすがる感じのDV的描写も、たしかに、そういう生き方しかできない人間なのかと思わせる。そこらへんは、R15版と、18では若干描写を入れ替えています。
それは提供のオーピー映画の狙いでもあるし、僕らスタッフの狙いでもあって、15と18ではストーリーは少し変えて、それぞれ成立させるという目的があったんで。
戸田 うん、うん。

 

「普通」が一番むずかしい

切通 現場に入る前に、脚本で一番これは大変そうだなっていうか、出来るのかなって不安だったところはどこですか?
戸田 やっぱりラストシーンかもしれないです。あと、顔がほくろだらけになって振り返る。あそこはすごく緊張感が必要なシーンだなと思ってて。
 うん。ほくろのメイクも「これで大丈夫かな」なんて、疑心暗鬼で色々描いたんですよ。
戸田 みんな慣れちゃって、わかんなくなってきて。
 でも実際に振り返るシーンをやってみるとよかったね。「気持ち悪い!」と思いましたね。それがやっぱ気持ちよかった。
もうちょっと寄ればよかったな。ポンポンっと。……いや、でもいいや。いいんだよ、そういうのはどうでも。充分、充分。
切通 実際やってみて、「意外にこれは難しかったな」っていうところはありましたか。
戸田 けっこう普通っぽいところが、自分の中でどんどんわかんなくなってきて。
 そうだよね。難しいんだよ、普通が。
切通 「普通」っていうのは?
戸田 彼氏と一緒に居るとか、そういうところが一番。
たとえば激情してるシーンとか、すごく悲しいとかっていうのはある意味わかりやすいですけど、自然な会話のタイミングとか、間合いとか、「こういう時、目ってどう動いているのか」「肩ってどう動くのか」っていうのが、なんか、すごく難しくって、見てても「自分、まだまだだな」って思ったんです。なんか、深いなあと思いました。
 ただ立ってるだけでも、片足が内股になったりとか、首が傾げたようになるとか。「ブスだな」って。でも結局、やり始めの頃ってわからないので。
出来る限り……まあ時間の都合もあってOK出すところもあるんですけど、やっぱりそこはこれから覚えていくと思いますね。立ちとか、単純に間合いとか、目線とか。
そこってやっぱり僕も初めての自分の主演の時に、ラッシュ見て唖然としましたからね。
戸田 ホントにそういう気持ちでした!
 「これが俺!?……ひでえな」って。
戸田 ホントに!? そこまで。
 田舎帰ろうと思ったのが25年前の『この窓は君のもの』。
戸田 私も田舎帰ろうと思いましたね(笑)。
 でもその感じが今回ラッシュ見た時の戸田の反応にあったんで、逆に「いいことだ」って彼女に言ったんですよ。
戸田 うーん。
 そのファースト・インプレッション、一発目、大事よ。
こっから、改めて違う女優人生の始まり方として、面白いと僕は思うんですよね。それはみんなやってるから、だいたい。
戸田 うえーん。
 初めから「最高、完璧」と思った女優、誰も居ないから。
戸田 自分も知らないブスさがあって。いっぱい。
 そうそう。
戸田 いっぱい!
 そうそう、それを愛してあげないと。
戸田 正面から見て「今日は大丈夫」って思ってても、ダメですね。
切通 いろんな角度から映ってしまう。
 自分で見てわかったでしょ?
戸田 ほんとにおそろしいです。
 全部わかるよね。
戸田 ああ、死にたい。
 もっと見られるはずだからね。
戸田 ……はい。
 ただ、現場中もだんだん掴んではきてたよね。
戸田 後の方が「やるぞ」って感じになっていた。最初の時の方が、普通に一日目とかはホント、ただ話しかけるというのが、難しくって。
 立つ、座る、立ちながら話す、動いて話すみたいなことが、わりかし多分、出来ないんですよ新人は。やっぱりなんか難しいんですよね。
戸田 なんか、「立ってから、ハイ、話して」になっちゃう。
 「それ同時にやって」とか。やっぱり、間合いの目線のタイミングとか。なんとなくそれが自然とこなしているような動きに見せて……と言ってもなかなか。一回座り直してしまったりとか。
そこはもう慣れしかなくって……まあ勉強になったんじゃないですかね。まこっちゃんも。
戸田 勉強になりました。

ぶつかり合わないと、変わらない

切通 榊さんが、今回戸田さんを見て、ここはさすがだなと思ったところは?
 やっぱその、気が触れてからは戸田の独壇場でしたねえ。あそこまでよく、自分の内部に踏み込んでくれたかなっていう顔。ああいう顔はなかなか出来ないと思うし。よかったと思いますよ。
あとは……いまはどうしても一人芝居の方がたぶん、うまく見えると思うんですけど、相手の芝居を反応した時ですよね。
今回、可児(正光)くんっていう、僕のワークショップの若い後輩が彼女の恋人役で、最後に、お互いがぶつかり合って、感情がスパークするところがあったんですよ。朋美が叩かれてね。その時「こういうことなんだよ、芝居は。反応なんだよ!」って2人に言ったことがあって。それが出来た瞬間もよかったかなって思うんですよね。
戸田 (不安そうに)出来てたのかなあ。
 あの時は可児の芝居もよかったし、あれが芝居だと僕は思う部分もある。その入口を、ちょっとでもやらないと、結局なぞって、ただの「ごっこ」で終わっちゃうし。
戸田 うん、うん。
 自分の深部を自分で演じるなら、相手の深部をえぐるようなことで、ボールを投げていかないと、変わらない可能性がある。
戸田 ウーン。緊張しました。やっぱり相手との演技の方が全然難しくって。
 どっちかが気持ちがそれちゃってたりすると、見つめ合ってる演技なのにどっか見てなかったりする時とかがあったりして。自分でも「あ、見てるはずなのに見れてない。集中力切れてる」っていう時があって、やっぱりそれがちゃんと会話になった時は嬉しかった。
 うん。
戸田 ……っていうのもあるし、何回もテイク重ねたら気持ちが合うようになってくるっていうのがあるし、色んな現場がありました。
 まこっちゃんも、いつかやってあげるんだよ。他の現場行った時、相手役に。
戸田 はい。
 自分中心になれば、「ああもうこれでいいよ」ってなるけど、相手をちゃんと芝居として、成立させるような年齢になる瞬間ってあるじゃん? その時はAVを辞めて、普通の女優やってるかどうかはわかんないけど。
それは大事よ。やっぱり。
可児は新人で、僕の作品何本か出てるし、ピンクも出さしてもらったし、けっこういけるようになったんですけど、いい才能持ってると思うんですよ。
ただ、なんかまだ表現として臆病なものがあるし、一度折れると、ずうっと折れっぱなしなんですよね。今回男性側の主役に抜擢したのは、僕の男優としての愛情の思いもあるけど、芝居の中の遠慮はもう容赦なく叩きつぶしました。
もうカラミの脱ぎなんか腰が浮いちゃって「お前、ふざけんじゃねえぞ、ボケ、カス。戸田ともっとくっつけよ」「そんなんで映像なんて残さねえぞ。お前」。俺とカメラマンの2人で可児のお尻を戸田の間に押しつけていった。「くっついてないと、セクシーに見えないだろう!」
 途中泣いてましたもん、終わったぐらいにも。
戸田 泣いてたですか。
 男優は泣きました。

可児正光とのラブシーン

 

なまなましくてダイナミック

切通 戸田さん自身も、今回けっこう突き飛ばされるシーン多いじゃないですか。
戸田 はい。(私)運動が、出来なくて。
切通 え、そうなんですか。
戸田 はい。転ばされて、引きずられて。けっこうリアルにやって、それが見てもリアルに感じられたらいいなって。
切通 小柄感が出てましたよね。突き飛ばされて転がる。身体表現!って感じ。
 いやもう、ホント。小さい子なんだってわかりましたよね。リスみたいに。
戸田 チビなんです。
 一回、義父役の川瀬陽太さんに「ボコボコにして下さいよ」って言ったんです。気持ちとしてはね。「もうボッコボコにしてほしいんすけど」って言ったら「榊くん、それは出来ないよ。榊君とならやるけど、女の子には出来ない」。俺も「いいっすよ。フリでいいっすよ」。
戸田 (笑)
 そうしたらカメラマンの早坂(伸)くんが「『赤×ピンク』見たよ」って僕に言ってきた。
切通 合言葉みたいに。
 僕は『赤×ピンク』(2014)っていう映画で、あるグラビア女優をボッコボコにしてるわけ。
戸田 (笑)
 犯すシーンなんだけど。
戸田 はい。
 それをHS(高速度)で撮りたいと。監督に「HSだとバレますよ。リアクションも出来ないし」「じゃあ俺、その女優さんと話しますよ」。で女優に「お前、叩かれて、当たってもないのに当たった動き出来るか?」「出来ません」「OK。じゃあ監督、三手ぐらいですよね。引きと寄りと。3テイクだけ、痛い思いするか」。関係性も、俳優同士が作んないと無理なの。
戸田 あー。
 プロデューサーも、事務所の人もわかんないから。じゃあ、段取りをこうする、こう叩く、こうやる、こうやる……って十手まで決めて、「この順番で来るからね。その間、何も考えずにわめいて叫べ」。もはやそこではプレイングマネージャーみたいな演出で。
で、「ヨーイ、スタート」その瞬間バチーン!と叩いたら「ヒーイ!」。で俺もスイッチ入って。
その次の日か2日後に、グラビアの撮影でこの手形が残ったもので、メチャメチャ現場が大変だったと。
 「どうしてそんな跡が残ってるんですか」「あ、映画で、ある俳優さんに叩かれて」「誰ですか」「榊英雄」「あ、ヒドイですよねー。あの人いつも」って。
戸田 (笑)。私はそれに比べれば、今回はちょっと膝すりむいたぐらい。
 川瀬さんはまだ優しい方だから。
戸田 川瀬さんすごかったです。気迫がすごくって。映像見ても、やっぱ画面映えがすッごいですね、当たり前に。
切通 存在感。
戸田 そうそう。存在感がすごくあって、こんなすごい人と最初から共演できてすごくラッキーだなと思って。
 いいと思うよ。いいと思う。川瀬陽太はピンクも一般の映画もどこも行くからね。あの人いますごい素敵な俳優さんですよね。
川瀬さんにどうしても出てほしかった。『アリーキャット』っていう今度の窪塚洋介主演の映画にも出てもらってるんですけど、そのつながりもあって、ぜひピンクもって思ってたんです。スケジュール調整してもらって、一日だけ来てもらったんですね。よかったですよ。出てもらって。
 
戸田 お父さんにレイプされるシーンとか、完全に川瀬さんに持ってかれたっていうか。気持ちが。「怖い」って湧き上がってきたので。ホントに、撮り終わった後「すごい人だな」って、心から思いました。
 戸田の声もね、自然にそういう気持ちになってきたと思う。
切通 それから、お父さんが、あるシチュエーションから豹変するまでのシーンも面白いです。
 そうそう。絶対もう豹変するのはわかってるけど、見ていて楽しみになる。怖いよねあれね。
戸田 怖かったです。振り返ると……。
切通 いきなり髪の毛バッと捕まえられて。
 あのシーン、戸田が転がされてパンティが見えるのが好きなの。
戸田 (笑)。
 ああいう、見えちゃいけない時に見えるのが好きだね。
切通 AVと比べてカラミはどうですか。
戸田 どういう具合でっていうのが大事だなと思って。援助交際をしている時は、男の人にちゃんと聞えるようにわざと喘いで、でも全然感じてなくて……っていう演技をしなきゃいけなくって、で可児さんと結ばれた時は心から……ていう、その辺の違いっていうのが……。
 出てたよね。
戸田 出てました?
 出てたよ。
戸田 よかった。
 彼女はもう考えてきてたんで「じゃ、その通りやって」って。ちゃんと使い分けてましたよね。
切通 可児さんとのキスのところは濃厚でした。
 キス長くやったんだよな。濃厚に。牛同士が舐め合うように、お互いの舌出し合って外で舐めるって感じですね。
戸田 うん、うん。
 中でディープキスで、外でからみあわせるようにやってみて。
戸田 AVでもよくやるんです。外から見えないとわかんないから。
 見せ方としてはね。なまなましくてダイナミックだし。うまい人がやるとすごいダイナミックに見えるんです。今回成功したかな。
戸田 ウーン(首傾げる)。
 ブリッ子がよー。首をすぐこうやるし。コノヤロー。
戸田 これすごい、榊監督に突っ込まれるんですよ。首傾げるの。(笑)クセなんです。

R18版『ほくろの女は夜濡れる』
上野オークラ劇場 http://www.okura-movie.co.jp/uenookura/
横浜光音座2 http://45hamakouonza2.blog.fc2.com/blog-category-0.html
6月23~29日公開

R15版『コクウ』
テアトル新宿 http://www.okura-movie.co.jp/op_pictures_plus/
7月1~6、8~14日に「OP PICTURES+フェス2017」として、本作ほか、この一年の作品を中心にしたピンク映画(R15版)が13本見れます。舞台あいさつも有。

切通理作
1964年東京都生まれ。文化批評。編集者を経て1993年『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』で著作デビュー。批評集として『お前がセカイを殺したいなら』『ある朝、セカイは死んでいた』『情緒論~セカイをそのまま見るということ』で映画、コミック、音楽、文学、社会問題とジャンルをクロスオーバーした<セカイ>三部作を成す。『宮崎駿の<世界>』でサントリー学芸賞受賞。続いて『山田洋次の〈世界〉 幻風景を追って』を刊行。「キネマ旬報」「映画秘宝」「映画芸術」等に映画・テレビドラマ評や映画人への取材記事、「文学界」「群像」等に文芸批評を執筆。「朝日新聞」「毎日新聞」「日本経済新聞」「産経新聞」「週刊朝日」「週刊文春」「中央公論」などで時評・書評・コラムを執筆。特撮・アニメについての執筆も多く「東映ヒーローMAX」「ハイパーホビー」「特撮ニュータイプ」等で執筆。『地球はウルトラマンの星』『特撮黙示録』『ぼくの命を救ってくれなかったエヴァへ』等の著書・編著もある。

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