名越康文
@nakoshiyasufumi

名越康文メールマガジン 生きるための対話(dialogue)より

“リア充”に気後れを感じたら

※名越康文メールマガジン 生きるための対話より

リア充の「リアル」は本当に充実しているのか

フェイスブックを見たら、「その日行ったパーティの写真」が貼り付けられていて、「ああ、リア充だなあ」と気後れしてしまう。おそらくそんな経験をしたことがある人は少なく無いでしょう。そういう人はぜひ、「この人のリアルな生活は本当に充実しているだろうか?」と想像してみることから、始めてみてください。

確かに、フェイスブックに掲載された写真は華やかで、楽しげです。大きなお皿の上に伊勢海老が載っていて、花火がパチパチ光っている。その周りで、みんなで、笑顔で写真に写っているのを見ると、「いいなあ、楽しそうだなあ」と思われるかもしれません。

でも、よくよく考えてみるとその人は、パーティ中か、終わったあとかはわかりませんが、わざわざそんな写真を撮り、SNSに公開しているわけです。その作業に勤しんでいるときの心境をできるだけリアルに思い浮かべてみてください。それはそんなに「充実した」時間と言えるでしょうか?

パーティに出席し、そこで撮った写真をSNSにアップする。アップされた写真は幸福そうに見えても、それをアップする人の心境に目を向ければ、そこにはどうも焦りや、不安がありそうだ……そうやって相手の心境をリアルに想像する、ということをやるだけでも、「リア充に対する気後れ」が軽減される、という人もいるかもしれません。

 

幸せは「過ぎ去る」もの

誤解のないように申し上げておきますが、そういう写真をアップしながらも、毎日を心から楽しんでいる人もいらっしゃるとは思います。ただ、「自分が楽しんでいる」「自分は幸せである」ということをことさらに意識したり、アピールしたりするということは、少なくとも心理学的には幸福度を下げる行為であると言っていいだろうと思います。

なぜならどんな幸せも「やがて過ぎ去る」ものだからです。「楽しい」「幸せ」という感情は、その瞬間を楽しむ限りにおいては素晴らしいものですが、それを意識すればするほど、気分を激しく浮き沈みさせてしまいます。

フェイスブックやインスタグラムに毎日のように“ハレ”の写真を上げるという行動は、「楽しい時間」と「楽しくない時間」の落差を際立たせます。もちろん、「リア充」という言葉自体がすでに「ネタ」になりつつある昨今においては、半ばパロディとしての「リア充」を演じている人もいるかもしれません。しかし、タレントさんや芸人さん、あるいはスポーツ選手のように「見せる」ことを仕事にしている人でないかぎり、「他人に自分が楽しんでいるところをアピールする」というのは、マナーうんぬんとは別に、心の安定という観点からいうと、あまりお勧めはできないんです。

 

気後れは自信のなさの裏返し

リア充に対して気後れをしてしまうというのは、一言で言えば「いまの自分の人生に、どこか自信がない」ということです。

これまで見てきたように、いわゆる「リア充」と呼ばれる人たちは、「自分が幸せである」ということを誰かにアピールしたい、と考えている時点で、どこか不安を抱えている人たちです。そのことは、ある程度、人生経験を積んできた人であれば了解いただけることでしょう。しかしながら、まだ社会人経験の浅い若い人は、頭でそうわかっていたとしても、実際に「リア充」を目にすると、ついつい焦ってしまう、ということがある。

頭では「あの人たちはあの人たちで大変なんだろうな」と冷静に捉えようとしても、心のどこかで「でも……やっぱりあいつらは、自分の知らないところですごく楽しい思いをしているんじゃないか?」という妄想から手を離せないわけですね。

「ホームパーティ」とか「クラブで踊りにいく」といった、いまの自分の生活の枠組みから外れたイベントを楽しんでいる人たちのことを見聞きすると、どうしても「やばい! 自分だけが人生の楽しみをつかみ損なっているんじゃないか」と不安になるわけです。

そういう人に僕がお勧めするのは、いまの自分から一歩踏み出して、「殻を破る」体験を積む、ということです。

1 2
名越康文
1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、高野山大学、龍谷大学客員教授。 専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:現:大阪精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。 著書に『「鬼滅の刃」が教えてくれた 傷ついたまま生きるためのヒント』(宝島社)、『SOLOTIME~ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である』(夜間飛行)『【新版】自分を支える心の技法』(小学館新書)『驚く力』(夜間飛行)ほか多数。 「THE BIRDIC BAND」として音楽活動にも精力的に活動中。YouTubeチャンネル「名越康文シークレットトークYouTube分室」も好評。チャンネル登録12万人。https://www.youtube.com/c/nakoshiyasufumiTVsecrettalk 夜間飛行より、通信講座「名越式性格分類ゼミ(通信講座版)」配信中。 名越康文公式サイト「精神科医・名越康文の研究室」 http://nakoshiyasufumi.net/

その他の記事

週刊金融日記 第268号 <ビジネスに使えて使えない統計学その2 因果関係を暴き出す他>(藤沢数希)
「デトックス元年」第二ステージに突入です!(高城剛)
自然なき現代生活とアーユルヴェーダ(高城剛)
「人間ドック」から「人間ラボ」の時代へ(高城剛)
人事制度で解く「明智光秀謀反の謎」(城繁幸)
「映画の友よ」第一回イベントとVol.033目次のご案内(切通理作)
アングラ住人たちが運営する「裏の名簿業者」の実態(スプラウト)
「東大卒ですが職場の明治卒に勝てる気がしません」(城繁幸)
セルフィーのためのスマホ、Wiko Viewから見えるもの(小寺信良)
フェイクニュースか業界の病理か、ネットニュースの収益構造に変化(やまもといちろう)
世界は本当に美しいのだろうか 〜 小林晋平×福岡要対談から(甲野善紀)
「朝三暮四」の猿はおろかなのか? 「自分の物語」を知ることの大切さ(福岡要)
僕たちは「問題」によって生かされる<後編>(小山龍介)
東京新聞がナビタスクリニックの調査を一面で報じたフェイクニュース気味の事態の是非(やまもといちろう)
音声で原稿を書くとき「頭」で起きていること(西田宗千佳)
名越康文のメールマガジン
「生きるための対話(dialogue)」

[料金(税込)] 550円(税込)/ 月
[発行周期] 月2回発行(第1,第3月曜日配信予定)

ページのトップへ