やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

都民ファースト大勝利予測と自民党の自滅について深く考える



 というわけで、結局は名ばかりコンサルとして調査業務の実働を少し手伝っておるわけですけれども、上がってくるデータを告示前からずーっと睨めっこしていると、今回の都議会選のパターンはものすごく興味深いのであります。

 例えば、投票率についてもマスコミからの援護射撃もあって前回よりははるかに高い投票率になるものの、いろんなねじれ現象があって、年代層でいえば比較的30代から40代男女といった現役・子育て世代が数多く投票所に足を運びそうな気配です。この層は一日が始まる午前中や、アクティビティを終えた夕刻以降に投票する傾向がもともと強いのですけれども、今回は期日前もそこそこ来ています。

 肝心の小池百合子女史率いる都民ファーストの会は、今回50人の候補者を立てて公明党との合算で過半数64議席以上を狙うという戦略に出ました。支える公明党の状況から言えば、都民ファーストの会との良好な関係や厚い組織票をもって前回同様の23議席の確保がほぼ見えてくる情勢ではないか、落としても2議席までではないかということで、都民ファーストの勝利条件は約41議席から43議席とセットされていました。これは告示後もそう大きく変化はありません。さすが公明党。

 で、都民ファーストの会の獲得議席予測自体は驚天動地の46議席から48議席のアッパートレンドで推移していて、ここだけ見れば「歴史的大勝利」と言えるぐらいの状況ではないかと思います。下手をすると、完全なオーバーキル状態となって、なんだここまで勝てるならもっと候補者立てておけばよかったじゃないかとすら言えるほどの状況になっています。

 対する自民党ですが、都民ファーストの会との対抗・対立を前面に打ち立てて、ある種の都民ファ対自民党の構造を作って浮上には成功しました。ところが、加計学園のすったもんだや、豊田真由子女史のあの強烈な罵声も含む秘書スキャンダルが痛かったとみられます。国政と都議会選は関係ないだろと言いたいところですが、都民は国政と同じように都知事選や都議会選を見る傾向がとてもとても強いので、これはもうタイミングとしてこの事案が出た段階で駄目なものは駄目です。

 かくして反攻すべく立ち上がった自民も風向きの悪さをフォローしきることなどできず、告示前は接戦・互角評価であった各選挙区は軒並みやや苦戦に転がり落ちることになります。一人区全滅も見えてきて、まさにドン内田のお膝元の千代田区ですら、同じく新人の都民ファ樋口高顕候補にかなりのポイント差に広げられて厳しい情勢です。出口調査をうっすら見る限り、必ずしも公明党の組織的な集票が入っていないようにも見えるのにこの状況というのは驚きです。それだけ、都民ファーストが強かったということになります。自民党都連の重鎮である内田茂さんの後継として立った女性候補・中村彩候補は、本来なら票をかき集めるべき40代以上の女性票をごっそり落としているわけですが、グループインタビューでもちょっとしてみたい気分です。おそらくは、この中村彩女史はもともと小池百合子女史が立ち上げていた「希望の塾」の受講生であり、都民ファーストの会からの立候補を断念して自民党の公募で通って鞍替えしたというあたりも、また町内会や祭り、集合住宅のいずれも「この候補者を見たことがない」ということで、おそらくは人口密集地である地域周りもうまくいっていないのではないかとさえ思います。

 本来ならそれなりに地盤もあるはずの千代田区ですらこうですので、その他一人区は総じて厳しい展開になることは仕方がないことだと思うわけであります。結果として、自民党の得票からの予測も出口調査も概ね39議席前後に留まるのではないかという予測になってしまい、これはもう責任問題でしょう。

 しかも、明らかに今回の選挙においては自民党の中央、国政、官邸に完全に足を引っ張られた選挙であって、自民党都連がどうにかできるレベルではないという意味でかなりの衝撃を与えかねません。内閣支持率も底割れする可能性もありますし、何よりも都民ファーストの会と公明党とでマックス71議席(都民ファ48+公明党23)となるようであれば、東京都政は完全に小池百合子女史がハンドリングすることになります。自民党としては苦杯を舐めるどころか、完全なる下野であって、いろんな問題が噴出することでしょう。

 都政に限定していうならば、小池百合子女史が潤滑かつ円満な都政を切り盛りできる保証はまったくありません。目下、火の海になるであろう2号線問題から東京オリンピックパラリンピック開催までのロードマップをどうするのかや、豊洲市場問題その他山積している当面の課題にどう対応するのかすらまだ未決の状態です。ただし、横に公明党が本当にいれば、ある程度の政策支援や、都庁内部の掌握も整理されていく可能性はあります。そこは小池百合子女史の「成長」と公明党とのパートナーシップが良い方向に向かうよう都民としては心から期待するほかありません。

 逆に、何らかの都政運営で間違いが起きたり、手ひどいスキャンダルでも出てくるようであれば、都民ファーストの会は仮に議会過半数の与党であったとしても小池百合子女史のリコールに直面する可能性もないでもありません。思い返していただきたいのは、途中で背中から斬り捨てられたとはいえ、都議会与党自民党のバックアップを得ていながらも舛添要一さんはマスコミの集中砲火を浴びて都知事辞任へと追い込まれてしまったのです。同じように小池百合子女史が辞任に追い込まれると、母無し子状態になる都民ファーストの議員が40人近く都議会に漂うことになりますし、そのほぼ全員が素人なのです。酷いことになることは容易に想像がつくでしょう。

 一足飛びにどうにかするというウルトラCは、いまのところ小池百合子女史と関係の近い民進党の柿沢未途さんを挟んで、民進党代表でレームダック中の蓮舫女史と大同合併するというプランはないでもありません。ある意味で、橋下徹さんがやりたくてもできなかった、というか組んだ相手が石原慎太郎さんだったのでどうしようもなくなった話よりははるかにマグニチュードの大きい事案が勃発することになります。一気に都民ファーストの会から国政へ、という梯子はものすごい勢いて天まで伸びることになるんですけど、ロングショットだなあと思う部分は大きいわけであります。

 ただし、今回の共産党や諸派の埋没は、返す返す「反自民票の受け皿」という大きな機能が政治に求められてきたことを強く印象付けることになりました。自民党の高い支持率は公明党という下駄を履いていたからだという定説に加えて、野党4党の連携という考え方自体が否定されたうえで「反自民の旗手としての小池百合子」という意味の分からないネタがどーんと出てきたことになります。実際、期日前の動向だけで見ていても、あれだけ強かった共産党の組織票だけでは現状の都議会勢力を維持するどころか半分近い状況にならざるを得ず、告示日には11議席予測であった共産党が伸び悩んで8議席から9議席に留まるというちょっとびっくりな状況に陥っているのがその証左です。改選前勢力が17議席ですから、文字通り半減です。

 その半減する共産党を支えてきたのは文字通り浮動的な「反自民票」です。現状否定票を共産党は起訴組織票に加えて積み増していたから党勢拡大を果たして、民進党との選挙協力までできるようになったわけであります。そうなると、野党がいくら選挙協力をしても新しい政権構想やイシューを提示できなければいつまでも反自民票、現状否定票頼みの選挙戦となって、身動きが取れなくなってしまうことを意味するのです。

 おそらくは、有権者が求めているのは「正しさ」ではなく「新しさ」であり、それっぽければ何だって良いのです。仮に都政で小池百合子女史が無茶苦茶であって政治家としてどんなに無能だとしても、新しいことが大事だ、何かが変わるきっかけになってくれれば、という意向が有権者からは見て取れます。

 だからこそ、自民党には小手先の対応ではなく真摯に反省して、明らかに弛んでいるように見える安倍政権の引き締め直しを求めていきたいところです。稲田朋美女史の件といい加計学園ネタでの菅官房長官の話といい、隙がありすぎるというか油断が酷いようにも感じます。夏に内閣改造があるようですが、支持率回復のための刷新レベルではなく、文字通り一から出直すぐらいの勢いで何かに取り組む内閣にするか、近い将来の禅譲も見越した予備的な改造をしてもらうしか方法はないのではないかと感じます。

 これ以上何をかいわんやという都議会選の現状ではありますが、東京都民以外にも大きな影響のありそうなこの選挙に是非注目していただければと存じます。

 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.193 投票日目前の都議選動向を見すえつつ、降って湧いたようなヤフーステマ騒動や人工知能を巡る市場のあれこれを語る回
2017年6月30日発行号 目次
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【0. 序文】都民ファースト大勝利予測と自民党の自滅について深く考える
【1. インシデント1】なぜか突然始まる「ヤフージャパン」包囲網
【2. インシデント2】人工知能時代の競争を優先していくとプライバシー保護の理想は失われていくのでしょうか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。サイバーインテリジェンス研究所統計技術主幹など歴任。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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