「だいぶ前、僕が企画したシンポジウムに、当時まだオン・ザ・エッジをやっていた頃の堀江貴文さんに出てもらったことがあったんです。そのとき彼が言っていたのは、とにかく「年寄りは使えない」という話だったんだけど、僕が非常に印象に残ったのは、彼の言う「年寄り」というのがおそらくは「30歳以上」を指していたことなんです」
新刊『復路の哲学 されど、語るに足る人生』が話題の経営者・文筆家の平川克美さんが、コラムニスト、小田嶋隆さんと語り合う話題の対談、第2回!
※第1回はこちら
20代で大学を作った福沢諭吉
平川:今、大人がいなくなっているということについては、少し昔の人の写真を見るとよくわかります。20代、30代でも、昔の人って非常に大人っぽい風貌をしているんです。例えば、夏目漱石の30代ぐらいの頃の写真を見ると、非常に落ち着いた、深みのある佇まいをしている。30代にして、ああいう顔をして、あれほどの作品を書いていたのだということに改めて驚きます。
小田嶋:福沢諭吉が慶応義塾大学の前身である蘭学塾を作ったのなんて20代ですからね。「嵐」のニノとかマツジュンが大学を作っちゃうようなものですよ。
今の20代、30代には、そもそもそんなことは求められていませんからね。本人はもちろん、周囲も30歳を「大人」として見ていない。「何歳になれば大人」という社会の共通認識というものが、相当大きく変化していることは間違いないでしょう。
それはおそらく、明治まで遡らなくても、私たちが子供の頃と今とでも、ずいぶん変わっているのだと思います。例えば私が子供のころ、『少年マガジン』や『少年サンデー』といった雑誌の表紙は王選手や長嶋選手でした。彼らが小学校2、3年生の男の子の頭をなでながら、にっこり微笑んでいる。そういうふうに、王さんや長嶋さんを「お父さん」としてフレームに収めた図柄が、雑誌の表紙のひとつの定型だったわけです。
でも、考えてみると当時の王さんや長嶋さんって25、6歳ですからね。いまの感覚だと“若造”です。それこそ「嵐」より年下なんですから。でも、当時の彼らは周囲から「お父さん」として見られていたし、そういうふうに振る舞っていました。中身が本当に大人だったかどうかはともかくとして、少なくとも25、6歳の野球選手が、役柄として“大人”を演じていたんです。
平川:小説家や野球選手だけじゃなくて、一般の人も、昔と今とでは、まったく顔が違うんですよ。大阪の堂島の地下にバーがあって、残念ながらもう閉まっちゃったんだけど、そこのママが、何十年もお客さんの写真を撮って、アルバムにする、ということをやっていたんです。たぶん40年分ぐらいあったと思うんだけど、アルバム何十冊にわたって、各時代のサラリーマンの「顔」が収められているわけですね。
それを見せてもらったときに、40年前のサラリーマンたちの顔が、今よりもずっと大人だったことに驚いたんです。
小田嶋:ああ、なるほど。
平川:ひとつは服装がきちっとしてる、ということもあるでしょう。ソフト帽をかぶったりして、身なりがきちっとしているし、姿勢もいいんですよね。同じ30歳ぐらいでも、今の30代よりもずっと大人びているわけです。
それを見たとき、子供の頃見た、自分や友人の親たちの顔が、今の同世代と比べてずっと大人びていたということに気づいたんです。
平川克美さん新刊『復路の哲学 されど、語るに足る人生』
日本人よ、品性についての話をしようじゃないか。
成熟するとは、若者とはまったく異なる価値観を獲得するということである。政治家、論客、タレント……「大人になれない大人」があふれる日本において、成熟した「人生の復路」を歩むために。日本人必読の一冊! !
<内田樹氏、絶賛! >
ある年齢を過ぎると、男は「自慢話」を語るものと、「遺言」を語るものに分かれる。今の平川君の言葉はどれも後続世代への「遺言」である。噓も衒いもない。
その他の記事
夕日が映える豊かな時間をゆったりと楽しんで生きる(高城剛) | |
太古から変わらぬ人間の身体と変わりゆく環境の間を考える(高城剛) | |
「岸田文雄ショック」に見る日本株の黄昏(やまもといちろう) | |
夏の京都で考える日本の「失われた150年」(高城剛) | |
英語圏のスピリチュアル・リーダー100(鏡リュウジ) | |
未来を見据えた働き方 カギは隙間時間にあり(家入一真) | |
富める中東の地で都市化と食生活を考える(高城剛) | |
アジアの安全保障で、いま以上に日本の立場を明確にし、コミットし、宣伝しなければならなくなりました(やまもといちろう) | |
英国のシリコンバレー、エジンバラでスコットランド独立の可能性を考える(高城剛) | |
ショートショート「金曜夜、彼女のジョブ」(石田衣良) | |
地方統一選から見える「安倍政権支持者」と「アベノミクス」受益者の錯綜(やまもといちろう) | |
「今の技術」はすぐそこにある(西田宗千佳) | |
ソニー復活の秘密(本田雅一) | |
代表質問(やまもといちろう) | |
ゲームと物語のスイッチ(宇野常寛) |