やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

「小池百合子の野望」と都民ファーストの会国政進出の(まあまあ)衝撃


 ボク言いましたよね。

 私が思うに、いわゆる「女帝」小池百合子さんというのは凄く分かりやすい人で、政界渡り鳥とか黒い女的な物言いをされやすいんですけど、実際にはただ単に「私は日本憲政史初の女性総理大臣になりたい」という野望ひとつですべてが説明できる御仁なんですよ。

 他人に対して冷酷に見えるのも、またいちいち打算的な動きも、これらはすべて「私が総理大臣になるために役に立つ事柄・人物なのか」という一本バシッと筋の通った価値判断ですべてが説明できます。ほんと、分かりやすいんです。

 だから、二階俊博さんに食い込んで電撃復党し、自民党からの出馬そして総裁選へという当初の目論みは「私が総理大臣になるため」の布石でしかないし、誰もが羨む公職である東京都知事にさしたる未練もなく都民ファーストの会の国政政党化に打って出るのも4年前の希望の党に関するすったもんだを見れば、皆さん良く理解できるでしょう。

 でも、それが小池百合子さんなのであり、本質だったとしても、これはこれでアリだと受け入れるしかないんですよね。

 そんな小池百合子さんも69歳、2回衆議院選挙に挑戦するには年齢的にも厳しくなることを考えれば、国政進出についてはもういましかありません。都知事でありながら首班指名を受けて総理大臣という路線も考えたようですが、それは当然断念しての今回の座組だろうことは考えておく必要があります。そして、繰り返し小池さんが言う「国政進出など、頭の片隅にもありません」という返答は、単純に岸田文雄政権に大きなスキャンダルが出たり何か間隙が出たところで「それならば私も」と言って大見得を切り出馬会見、都知事辞職という流れになるのは疑いもありません。

 何より、今回の自民党総裁選で、小池百合子さんが「格下」と思っている高市早苗さん(60歳)や野田聖子さん(61歳)が、上手くすれば女性初の総理大臣候補と持て囃され、テレビで政策主張を堂々としているのを見て、焦りと嫉妬で小池百合子さんが身悶えするほど熱を出したのは間違いないんですよ。小池百合子さんが自分のアピールのために、不必要なコロナ対策を緊急事態宣言明けも続けると言っているのも、コロナ対策だけでなく「私はここにいます」と言いたいものなのかと思ってしまいます。

 そもそも、いまの都民ファーストにそこまでの地力が現段階であるわけでもなく、組織も固まっていない都ファが国政政党になり全国区を目指す、なんてのが小池百合子さんの意向でなく何なのかという話であります。

 そして、荒木千陽さんが都議職を投げうって国政正当化の先陣を切るのも、つまりは軍隊アリの要領であり、一見捨て駒なんだけれども、それでも伝え聞く限り都ファの人たちもノリノリで前のめりになって国政政党になり、国会議員になれるかもしれないと思っている。

 そして実際、何人かは国会議員になるのでしょう。なぜあなたがたは都議になったのか、という当初の話は置いといて。当初「何それ」と思ってましたが、ここまで根アカに、あっけらかんと小池百合子さんについていく私兵集団ができているというのは、むしろ評価されるものなのではないか、と思います。

 今回野合の礎となるのは失地回復、お家再興(政治的な意味で)を狙う鳩山家であったことは間違いありません。今回の都ファ国政政党化で資金的なバックアップを鳩山家が行う代わりに、比例東京でのリスト上位に鳩山由紀夫さん以下鳩山家の面々が名前を連ねることは間違いありません。

 これも、鳩山由紀夫さん、鳩山太郎さん、鳩山紀一郎さんという面々は、ある意味でまっすぐで、何か策略を巡らしてどうのこうのという小細工はまったくしないという点で、清廉な政治家であることは間違いありません。鳩山由紀夫さんはアレでしたが、それ以外の鳩山家の面々の実力は未知数ですし、長年の雌伏もあって自民党の鳩山二郎さん以外はいい感じで歳も食ってしまっていて、彼らとしてもラストチャンスなのだとも言えます。

 いまのところ、東京2区や4区で鳩山太郎さん、鳩山紀一郎さんが、同じく東京のどこぞで鳩山由紀夫さんが出馬を検討しているという話で、2区辻清人さん、4区平将明さんからすれば野党票が割れて有利と見るか、都民の小池贔屓をモロにうけて大変だと考えるかは調査結果次第でしょう。選挙戦の終盤で、パーッと小池百合子さんが都内を回ればあっという間に風向きは変わるのは前回の都議選での話通りです。

 同様に、都民ファーストが協調することが予想されるのは国民民主党の玉木雄一郎さんと、埼玉のいわゆる上田新党です。ただの連携で終わる上田新党はさておき、玉木雄一郎さんのバックには当然連合東京がついておりますので、都民ファーストからすれば足りない選挙組織の一部を連合に担ってもらう方法が考えられます。さらには、鳩山家の資金や小池百合子さんの長年のスポンサーが軍資金を準備する流れがある程度固まっているからには、前回の希望の党での落選組と合わせて候補者の弾はそれなりに揃うという算段から「一人でも多く小池新党から立候補者を東京、南関東で立てたい」と考えるのも自然なことです。

 小池さん周辺からは、河野太郎さんの自民党離党→小池新党合流の動きに期待を寄せる向きもあります。新自由クラブの夢(悪夢)再びと思う人も少なくない中、河野太郎さんの惨敗は本当に彼の未来を閉ざした面があり、安倍晋三さんが自民党本流として続く限り反旗を翻した河野太郎さんに取り立ての目がないことは広島の事例を見ても明らかなことです。

 いわば、河野太郎さんの「石破茂化」であり、また、そもそも自民党の中でも一匹狼で誰ともかかわらず、他方国際派のリベラル議員としての価値を認めて国家公安委員会委員長・内閣府特命担当大臣(15年)から重要閣僚である外務大臣へと抜擢をされたのも、安倍晋三さんと河野太郎さんの「河野太郎も使っていこう」という気持ちからだったと伝えられています。

 その河野太郎さんが、結果論とはいえ、また、本当にその気はなかったのかもしれませんが今回の総裁選で安倍晋三さんの路線を事実上否定するかのような政策主張をしたことで、少なくとも向こう数年は、下手をすると十年ぐらい冷遇される可能性がありますので、小池百合子さんがかつてそうだったように「上がり目のない与党内野党の政治家」として一生を終える危険性があります。

 国民の声望がいつまで河野太郎さんに集まるのか分かりませんし、人気があったとしても石破茂さんも長らく次の総理として国民の期待を受け続けてきた人物だったことを考えても客寄せパンダ以上の役職がくるとは思われない。外交でも媚中派というレッテルを貼られ、ほとんどガセネタのような親族経営の日本端子では頼みのマスコミからも懸念を報じられてしまい、さらにはSNSの有権者ブロックネタまで晒されて面倒な悪評をつけられてしまいました。これらのことを考えても、やはり河野太郎さんでないとできない仕事をやるには自民党の器ではむつかしいと判断する可能性に、小池新党は賭けようとしている面もあります。サプライズがあるとすると、やはり小池さんが前回民進党を割った、今回は自民党をも割ろうとしているのだ、と言うことなんじゃないかと思います。

 個人的には、この太郎さんの離党の可能性はとても低いと思っていますが。

 小池さん周辺が神奈川でいろいろあるのも、前回横浜市長選に出馬した田中康夫さんに声を掛けようとしているのだとか、前回の希望の党落選組で千葉神奈川で健闘できそうな手ごたえがあるのだとか、いろんな話は出ます。

 ただ、前回の希望の党の「排除いたします」での失墜を反省し、言動に気を付けながら、国民民主党&連合、上田新党、鳩山家、自民党内非安倍派という材料をかき集めてきて櫓を組み、地の利のある東京・首都圏で総理大臣の椅子を目指して女勝負師小池百合子が乾坤一擲の勝負をするというのは実に観ものです。

 頑張って欲しいと思います。心から。ええ。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.347 期待を裏切らない小池百合子さんのあれこれを語りつつ、プラットフォーマーや岸田政権のこれからを占ってみる回
2021年10月2日発行号 目次
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【0. 序文】「小池百合子の野望」と都民ファーストの会国政進出の(まあまあ)衝撃
【1. インシデント1】プラットフォーム事業はグローバル規模で今後も持続可能なのかという問題
【2. インシデント2】岸田政権は、言うほど安倍後継政権か?
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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