「ガキ」と「ジジイ」しかいなくなった
平川:「大人がいなくなる」というのは、世の中に「ガキ」と「ジジイ」しかいなくなる、ということなのかもしれないですね。
だいぶ前、僕が企画したシンポジウムに、当時まだオン・ザ・エッジをやっていた頃の堀江貴文さんに出てもらったことがあったんです。そのとき彼が言っていたのは、とにかく「年寄りは使えない」という話だったんだけど、僕が非常に印象に残ったのは、彼の言う「年寄り」というのがおそらくは「30歳以上」を指していたことなんです。
「30歳以上が年寄り」っていうのは、普通の感覚からしたら違和感があると思うんだけど、彼の尺度からすれば、それはそれで理屈が通っているわけです。30歳を超えた人間は、少なくともビジネスをより先鋭化させ、効率化させていくという点では、だんだん使えなくなっていく。
「若いやつより物覚えが悪いくせに、なまじ経験があるから偉そうにしているようなやつは切り捨てたほうがいい」というのは、それはそれで、一応筋が通った話だとは思います。「大人」なんか必要ない、体力があって、ビジネスをぐいぐい引っ張っていける「ガキ」がいれば十分だ、というわけですね。
実際、競争に勝つということだけ考えるなら大人よりも子供のほうが断然、強いですからね。例えば議論でも、勝ち負けだけを争うなら、子供のほうが強いじゃないですか。
小田嶋:そうですよね。
平川:大人には建前と本音があるから、どうしても発言に矛盾がある。だから大人というのは、理詰めで議論をしていくと、前後が矛盾して、何を言っているのかわからなくなってくる。子供はそこを見破って、巧みに突いてくるわけです。「父ちゃんの言ってることはおかしい!」といわれた大人は、もう絶句するしかない。
象徴的なのは橋下徹ですよね。彼の議論っていうのは、終始一貫して子供です。
例えば彼がよく展開する「学者は現実的な提案を何もしない。机上の空論ばかり言っていて役に立たない」という批判は、それだけ見れば「おっしゃるとおり」なんですよ。実際、学者というのは現実的には「役立たず」であることが多いから。でも、そもそも社会的に「役立たず」である学者という存在を許容しているからこそ、長期的に見たときに社会は安定する、ということもある。
でも、こういうややこしい「大人の議論」というのは、子供の単純な議論に負けざるを得ないんです。
小田嶋:橋下さんって、議論ではほとんど無敵なんだけど、なぜ無敵かといえば理由は簡単で、まったく人の話を聞かないからなんですよね。彼にはいくつか、「既得権益をぶっ壊せ」「役人が諸悪の根源である」といった主張があるんだけど、彼の議論ってそれらを繰り返し主張するだけなんです。
それに対して何か言う人がいても、「俺の意見に反対なら対案を出せ」といった、いくつか持っている必殺の「切り返しフレーズ」を連呼するだけ。相手の立ち位置とか言い分を斟酌するということなく、ただただ自分が持っている最強の武器で切りかかっていく。これは議論においては、最強といっていいぐらいの戦略です。だから、これまで彼と論戦になった「大人」はボロボロに負けちゃうしかなかった。
でも最近、橋下さんは在特会の桜井誠と公開討論をやって、負けてましたよね。まあ、橋下さんは負けたって認めないだろうけど、あれは橋下さんの負けですよ。最後は「お前っていう言い方をやめろ、お前」とか言ってましたからね。
平川:あれを観ていて「昔、ガキの頃によくああいう喧嘩したな」って思いだしておかしかったんですよ。「誰がそんなこと言ってんだ」「親父がこう言ってた」「いや、総理大臣はこう言ってる」「いやいや、天皇陛下はこう言ってるぞ」みたいなね。僕が子供の頃は、最後はやっぱり天皇陛下に出て来てもらわないと収まりませんでした(笑)。
小田嶋:なぜ橋下さんが桜井に負けたかといえば、結局、橋下よりも桜井のほうが「子供」だった、ということに尽きると思うんです。特に終わり際のやりとりは、桜井がなかなかのクリティカルヒットを繰り出していました。橋下が「お前、帰れよ」と言ったのに対して、桜井が「呼んだのはお前だろ! 呼んどいて『帰れ』はないだろう!」と切り返した。これは、桜井の言う通りだなあと感心しました。
つまり、どうやったら議論に勝てるかというのは、突き詰めると面の皮の厚さにかかっているんです。シンプルな主張を、相手の話を聞かずに繰り返したほうがしているやつが勝つ。橋下さんは、まさか自分よりガキっぽいやつと対決することになるとは思わなかったんじゃないかな。
平川:建前抜きの競争社会になればなるほど、大人よりも子供のほうが強くなる。それこそ卵が先か鶏が先か、どちらが先かはわからないけれど、競争社会が進んできたことと、「大人がいなくなった」こととは、リンクしていると思いますね。
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