やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

サイボウズ青野社長の手がける「夫婦別姓裁判」高裁門前払いの必然


 さすがにそれはどうなのよ、という話が流れてきたので思わずメルマガの冒頭に持ってくるわけですが。

 まず、私・山本一郎個人としては、夫婦別姓は選択できるならばさっさと実現したほうがいいと思うんですよ。それによって、国や社会に不利益がありますか? 奥さんが旧姓を名乗れるというのは問題ないであろうし、苗字が変わることで仕事に差し障りがある人はもちろん、旧姓のほうが気に入っている場合や、将来離婚する可能性すら低くない現代においてはむしろ苗字を入籍時に変更することが定着しているのは基本的に女性にとって不利だと思うのです。

 逆に、男性の側が奥さんのほうの苗字を名乗るケースも少なくありません。私の知っているケースでは、奥さんの実家が名家だったり、非常に大きな価値のある事業を営んでいるところへ跡取りとして夫が入るケースでは、女性の側の姓を名乗ることも問題なしとされている。これはこれで、夫婦の間で話し合い、個々の判断で実施されることです。

 しかし、一般的には女性が男性の戸籍に入ることで苗字が変わるのが慣習である以上、「そんな制度はとっととやめちまえ」という乱暴な議論もまたあり得るわけです。男性であれ女性であれ結婚することによってどちらかが元の苗字を捨てなければならないという制約を強いることは良くないと思うわけですね。

 んで、今回はサイボウズ青野慶久さんと原告夫婦らの裁判がありました。ご担当は作花知志弁護士で、記者会見もダイジェストで拝見しましたが、まあ要するに原告側完敗のゼロ回答で終わったというのが本件裁判です。これから最高裁判所に向けて上告するようで、結論は出ていませんが、いまのところ門前払いではないけどあまり価値のある判決を導き出すことはできませんでした。

夫婦別姓訴訟、原告の控訴棄却 戸籍法を違憲とは認めず

 もとはと言えば、夫婦別姓によって原告の結婚した男女が不利を蒙ったということで国に対して損賠賠償を求めるという内容であって、戸籍法がある以上、「戸籍法は夫婦同姓を定めた民法を戸籍手続きに反映するためのもの」であるとして、その夫婦同姓が違憲ではないので、もしもことを動かしたいんなら立法でやってねということでゼロ回答なわけです。

 このあたりの話はいろいろ仄聞もありまして、身の回りの判事も弁護士も口を揃えて「そんなん国賠と絡めたら裁判所は『いったんこれを原告勝訴にしたら、過去何千万組とある婚姻で性別を変えた人たち全員が求訴してきて収拾がつかなくなるので、そもそも原告を勝たせようがない』と判断するに決まっている」という下馬評だったわけです。また、最高裁ありきだろうという意見もあり、ここで最高裁が差し戻しをしない(高裁の判決をひっくり返さない)としても最高裁判事の誰かが夫婦別姓について前向きのコメントを出してくれれば実質的に勝訴だとでも思っているのではないかという、負け筋の光を思わせる考えもあります。

 ただ、私自身も個人的に興味をもって一人一票の意見裁判を長年取り組んでいる人たちの話も聞くわけなんですが、国民が国家に対する賠償を求めるような裁判をする場合、やはり法の下の平等を考える裁判所が「この原告だけ救済するわけにはいかない」と考え始めることをいかに排除するかという戦術上の問題はあると言っていました。選挙の無効までは言えても、国民に対する賠償請求を盛り込むと途端にしょぼしょぼするわけですね。

 それであるならば、夫婦別姓の問題を大事に考えている人たちが駆け込む先は、裁判所ではなくて自民党・公明党だったのではないかと思うわけですよ。白黒つけたいという気持ちはとても分かりますが。東京地裁も今回の高裁もはっきり言っている通り、これは立法の問題だよ、そういう戸籍法や夫婦別姓にまつわる法律を立てる必要があるんだよという裁判所側の意志が明示された裁判であるとも言えます。

 有り体に言えば、そんなことで国に損害賠償を求める無理筋裁判で事を進められても裁判所からすると困る、ということでもあり、それであるならば、開明的な夫婦別姓による国民の自由度・選択肢を増やす方法について然るべき筋に対してロビーするべきなんだろうなあと思う次第です。

 裁判所の考え方も分かるし、青野さんら原告側の気持ちも理解できるんですが、戦うべき場所はこの件については裁判所ではなく永田町であるべきなんだろうなあ、と。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.289 夫婦別姓裁判の行方を案じつつ、楽天・公取間やファーウェイ・米国間の諍いについて思うことを語る回
2020年2月28日発行号 目次
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【0. 序文】サイボウズ青野社長の手がける「夫婦別姓裁判」高裁門前払いの必然
【1. インシデント1】楽天VS公正取引委員会、退けない戦いでどないするねんの巻
【2. インシデント2】 オオカミ少年状態となった米国はファーウェイ問題で世界を説得できるか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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