やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

安倍政権「トランプ接待」外交大成功ゆえに、野党に期待したいこと


 安倍晋三総理というのは物凄い豪運と能力を持った宰相であると思います。安倍さんに対する好き嫌いはあったとしても、この日米関係が極めて重要な節目の時期に、隣では米中対立が激化し貿易紛争から具体的な冷戦構造へと進んでいく中、そのアメリカとの信頼関係をこうも劇的に、深く、強力に推し進められた政治家はいません。トランプ大統領が変わった人だというのもありつつも、そういう人との信頼関係を築き、日米関係の緊密さと大事さをアピールできたというのは日本外交における大功績だと言えます。

 両国のトップ同士が「馬が合う」のは大事なことで、これを抜きにして信頼関係を維持することはできないでしょうし、逆に何か共同歩調を取らなければならないようなことでも一致して物事に当たれる関係が築けるだけでも素晴らしいわけですよ。日本人としても、この時期に安倍さんを総理に迎えられたことは僥倖というほかありません。

 今回の日米外交が100点中100点だったことを踏まえたうえで、課題となるのは引き続き高い点数を取り続けることが日本の国益だとして、それってどうやってキープするんやということであります。いつまでもトランプさんが大統領でいるわけではないし、安倍晋三さんもいずれは退任していきます。目の前に米中対立があったとして、民主主義国家である日本においては米中対立においてアメリカ側に立たざるを得ない以上は、トランプさんの次、さらに次、という関係を維持していかないとなりません。

 現在の安倍政権官邸においては、そのような先を見越した手をしっかりと打っているようにも見受けられますが、国内景気が低迷し始めるとさすがにこの後どうするんだろうという問題も起こり得ます。次の選挙、ダブル選になるかどうかは別として与党側がある程度の健闘をするにせよ、その次は分からないわけです。

 そうなると、自民党が下野するとまではいかないにせよ野党もまた米中対立の強まる東アジア外交の一翼を担う戦略を磨かなければなりません。仮に、アメリカとの外交に成功した自民党との対抗軸を打ち出すために中国と手を組む野党を作るのだ、と言われたとき、日本の民主主義はどうなってしまうのでしょうか。かつて、小沢一郎さん以下野党サイドがアメリカ一辺倒の外交を見直し、二等辺三角形論を言い始めるにあたり、アメリカだけではなく、アメリカとの緊密さと同じような密度で中国とも友好を結ぶのだという話は、加藤紘一さんから出て鳩山政権の外交ドクトリン(というほど緻密なものではありませんでしたが)の基軸に据えられました。その結果が「最低でも県外」であったり、中国不審船問題で仙谷由人さんの「沖縄地検の判断を了とする」発言であったり、外交面ではややプリンシプルに欠ける発言や行動の連続を引き起こすことになるわけです。

 しかしながら、鳩山、菅、野田と3つの政権を経て国民からの声望を失墜させた野党側もまた、今後は対アメリカ、対中国その他、外交の基軸や方針を打ち立てる必要に迫られてきます。アメリカでも非トランプの系譜にある側の有識者とは共和党・民主党の区別なく交流を深め、またアジア外交の重要な部分を担える人材を登用していかなければなりません。

 残念なことに、野党側は支持率の低迷から地方組織の引き締めに汲々としていて、本来公党として必要な「世界における日本の立場をしっかりと示し、海外の人々とどう手を握り平和と安定に貢献していくのか」というビジョンに欠けているように思います。もちろん「いまさら野党に何を期待するのか」と冷ややかに見る人も少なくないと思いますし、私もどちらかというとそういう立場ではあるのですが、しかし政治というものはどこで何があるか分からず、いつの間にか景気後退から社会不安でも起きて自民党を倒せという機運が生まれないとも限りません。そのときまた野党が勝って、はっきりしない外交方針で日本が右往左往したとき苦しい想いをするのは日本人です。

 だからこそ、トランプ大統領と安倍総理の外交は茶番だ、と野党が率先してヤジを飛ばすのではなく、そのトランプさんの次や反対派、あるいは中国やアジアの指導者との動きを詳しく見ていくことが大事なはずなんですよね。一人でも二人でも、そういうしっかりとした政治家が野党から生まれることを心から期待してやみません。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.262 今後の日本の外交をふまえて野党に期待したいことを語りつつ、深刻化する米中対立やネット言説と検閲の問題などを考える回
2019年5月31日発行号 目次
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【0. 序文】安倍政権「トランプ接待」外交大成功ゆえに、野党に期待したいこと
【1. インシデント1】米中対立の深刻化はトランプさんの「おおいなる手のひら返し」を呼ぶか
【2. インシデント2】ネットに検閲は避けられない時代が来るのでしょうか
【3. インシデント3】川崎の通り魔事件で犯人とされる人物を良く知る人からのタレコミと取材
【4. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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