小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

ネット教育今昔物語

※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2018年8月24日 Vol.185 <暑さふたたび号>より

先週の土曜日、LINE株式会社主催で、子供のネットリテラシー教育に関わる人たちが集まって、情報交換会が行われたので、参加してきた。今回が初めての試みで、年内に3回の実施が予定されている。


・新宿のLINE本社で行われた情報交換会

 
筆者、というかインターネットユーザー協会(MIAU)が子供のネット教育を手がけるようになったのは、2008年の事だから、もう10年選手である。改めて参加者の顔ぶれをみると、かなりプレイヤーが入れ替わったのを感じる。そもそも10年前にはLINEが存在しておらず、その前身となったライブドアは堀江貴文氏が証券取引法違反に問われて大変な時期だった。それが今では、子供のネット教育の中心を担う会社となったわけだ。

とは言うものの、現在LINEで子供のネット教育のキーマンとなっている高橋誠氏は、ライブドア時代からすでにMIAUと交流があり、青少年のネット教育に関して多くの知見をいただいた。MIAUがまだ手探りで活動を始めた頃、勉強会の講師として登壇いただいたこともある。

今回の情報交換会は、そんな高橋氏の司会で始まった。従来このような活動は、携帯キャリアが音頭をよってやっていたものだが、もはやプレイヤーが変わったのを感じる。今回はパネラー4名の講演のダイジェストを披露していただきつつ、それぞれが持っている得意技を盗んだり、課題であるポイントを考えたりといった趣向で行われた。

 

e-ネットキャラバンの取り組み

まず最初にパネラーとして登壇したのは、 e-ネットキャラバンで長く講師を勤められている宇津木麻也子氏。e-ネットキャラバンは、元々総務省と文科省の肝いりで始まったネットモラル啓発事業で、各地の教育者・指導者向けに出前授業をするというスタイルである。数年で終了するはずであったが、無償でどんな場所にでも行くので、需要が高く、今では恒常的な事業として定着している。

2008年当初からすでに啓発授業を行っていたが、当初は我々のようなネット利用推進派からは評判が悪かった。なぜならば、まだこの時代は「子供に携帯なんか持たせると危ない」といった社会的風潮が根強くあり、啓発授業でもいかにネットが危険かということをメインに教えているからである。

だがそこから10年が経過して、内容も多少マイルドになっている。今では個人情報保護の観点から、SNSに書き込んだ情報によってどんどん個人が絞り込まれていく危険性を伝えるといった内容になっているようだ。


・e-ネットキャラバンの内容も、時代に合わせて少しずつ変わっている

 
宇都木氏とは懇親会の席で親しくさせていただいたが、母島まで講演に行った話は面白かった。父島にフェリーで渡ったのち、小さな連絡船に乗り換えて母島に渡る。大抵の事業者では、母島と聞いたとたんに断られるそうだが、さすがに省庁主管事業だけあって、e-ネットキャラバンは断らない。

ただ母島に着いたら、携帯が通じなかった。講演が終わって東京に戻ろうと思ったら、父島から本州へのフェリーがでるのが6日後だったそうである。

宇津木氏が工夫するポイントは、講演時間が短いので、強いインパクトで理解を早めるところだという。特に法律で縛られていないことを教えることになるため、感覚的に掴めるような例を用意するといった工夫が必須になる。

一方で課題としては、ホントは一番オマエが聞かなきゃダメだろという保護者に限って参加してこないというところや、夏場は暑くて話を聞いてない問題を取り上げた。学校では大人数を収容できるのが体育館しかなく、体育館には往々にして空調設備がない。生徒は授業の一環なので強制的に収容できるが、保護者はそうはいかない。

筆者の経験では、公立校でも学校給食用に食堂が完備された学校があり、そこで保護者講演を行うといった工夫をする学校もあった。

 

GREEの取り組み

グリー株式会社も青少年のネットリテラシー教育に力を入れている企業だ。小木曽 健氏は、そのリーダーとして書籍等も多く執筆しており、年間300件以上の講演をこなす。現在のネット教育ではスター選手と言ってもいいだろう。


・グリー株式会社 安心・安全チームマネージャの小木曽 健氏

 
グリー株式会社とは、2009年に「安心ネットづくり促進協議会」が立ちあがって依頼のお付き合いである。当時は子供のゲーム課金問題が大きな社会問題として取り沙汰されており、GREEとMobageはまさにその渦中にあった。どっちかがどっちかの釣りゲームをパクったのどうので裁判沙汰になっていた頃である。「俺たち任天堂の倒し方知ってるから」というバズワードをご記憶の方もいらっしゃるだろう。ケータイゲームプラットフォーマーとして、ケータイの健全利用を推進する立場だった。

それも2012年の「コンプガチャ事件」によって、立場がガラッと変わった。消費者庁から「違法の可能性」を指摘され、同機能を採用していたゲームプラットフォーマーの株価が急落した。一気に世間の批難を浴びる側に回ったわけである。

当時は自ら青少年のネット教育を行う立場ではなかったが、それ以降、CSR部門が積極的に出前授業等を行うようになっていった。現在GREEが公開している啓発教材はよくできていて、MIAUのリテラシー教材の中でも一部を利用させて頂いている。

安心安全なインターネット社会の構築

GREEの教材のポイントは、いたずらに最新事情を追わず、普遍的な事柄で長く使えることを目指しているところだ。小学校5〜6年生から中高生までを対象としているが、全年齢教えることは、基本的には同じだという。コミュニケーションは、どんどん体験としてリッチになっていくだけで、人が人と話しをする本質は何も変わらない、という考えが根底にある

小木曽氏の工夫ポイントは、プレゼンテーションの方法論である。教材は極力まで文字数を減らし、話すときには語尾、最後のほうに力を入れて歯切れ良く話す。これだけで格段に伝わり方が変わるという。

課題としては、現在の子供へのネット教育は学校が主導しているが、問題は学校の外で起こっているため、手助けしかできないところである。家庭内の問題に直接タッチすることができないのは、学校も事業者も同じだ。

 

継続的な活動のために

後半のディスカッションでは、「ネットの講師でメシが食えるか」という問題に踏み込んだ。実は継続的な教育活動には、もっとも避けて通れない部分である。現在ネット教育に関わっている人たちは、民間団体の無償ボランティアか、会社の社会貢献事業として、給料をもらって「仕事として働く」人たちが大半である。


・後半のディスカッションでも、かなり踏み込んだ議論が行われた

 
小木曽氏も本を出したりテレビに出たりと多忙な日々を過ごしているが、講演だけで食えるようになるとは思えないという。そもそも主戦場である学校には、1講演につき2万円程度の予算しかない。遠方であれば往復の交通費だけで消える可能性がある。また有償化したとたん、申し込みは1/100程度に減少するのではないかという懸念もある。

現実的な解としては、活動を地域限定で絞って、自治体から支援を受けることである。茨城県メディア教育指導員連絡会では、県から予算をもらい、事務局も県に肩代わりしてもらうなどして、活動を行っている。むしろ地方に密着した方が、メシが食いやすいともいえるだろう。

MIAUのリテラシー教育活動も、交通費はMIAUの会費から捻出しているが、講演料は設定しておらず、現時点では完全に筆者も含めたメンバーの時間を無償提供しているだけである。当然各自が本業で稼がなければならないため、講演本数も限度があり、後進の育成も全くできていないのが現状だ。

今後講演需要は増加傾向にあり、その一方で新しいテーマの教材開発も行わなければならない。講演だけで食うまではいかなくても、継続的な活動を維持するには、どこかの段回で有償化に踏み切らざるを得ない状況になりつつある。

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2018年8月24日 Vol.185 <暑さふたたび号> 目次

01 論壇【西田】
 改めて解説する「VRのすごいところ」
02 余談【小寺】
 ネット教育今昔物語
03 対談【西田】
 藤津亮太さんに聞く「配信はアニメのストーリーを変えるのか」(3)
04 過去記事【西田】
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

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