高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

「本当かどうかわからない数字」に左右され責任を押し付けあう日本社会

高城未来研究所【Future Report】Vol.383(2018年10月19日発行)より

今週は、東京にいます。

イベントシーズンの秋には、多くの大型イベントが開催されており、今週は、日本最大の家電ショー「CETEC」に訪れました。

「CETEC」は、毎年10月に幕張メッセで開催されるアジア最大級の規模を誇るIT技術とエレクトロニクスの国際展示会で、かつては「エレクトロニクス・ショー」(通称エレショー)と呼ばれてました。
僕が子供の頃は、「オーディオフェア」や「モーターショー」と並ぶ秋の大イベントで、毎年楽しみにして訪れていたのを覚えています。

当時、20世紀後半の日本は、世界に冠たる「家電大国」で、音楽CDをはじめ、事実上、世界標準となる規格を、次々に決められる立場にいました。
そのひとつが、ハイビジョンです。

ハイビジョンは、日本の前に家電大国だった米国が作成したテレビ規格を塗り替える高精細度テレビジョン放送 (High Definition television / HDTV) フォーマットで、鳴り物入りで登場しました。
2000年を機に日本でハイビジョンBS放送(デジタル)がはじまってから本格的に普及し、世界中がデジタルHDTV時代に湧くことになります。
その後、ハリウッド映画のマスター映像からYouTubeまで、デジタルHDTVが事実上の世界標準となりました。
そして、2010年を前後して、4K時代が到来。
HDTVほどではありませんが、およそ十年おきにアップグレードされる「映像の新フォーマット」4Kテレビも、それなりに浸透したのは、ご存知の通りです。
そして現在、4K登場から十年後の2020年を目指し、日本の官民あげてHDTVの16倍の画素を持つ8Kテレビの普及を試みようとしています。

すでに、今年の正月にラスベガスで行われた世界最大の家電ショーCESでは、世界中のテレビメーカーが、8Kテレビや8Kプロジェクターを出品。
先月行われたヨーロッパ最大の家電ショーIFAでは、ついにサムソンが発表当日に8Kテレビの一般販売を開始しました。
これにより、いよいよテレビ業界は、本格的に8K時代に突入したのです。

そんな8K時代に突入した世界中のテレビ業界が注目するなか、今週、日本最大の家電ショー「CETEC」で、シャープが最新の8Kテレビを発表します。

しかし、驚くほどにプレゼンテーションがショボい。

技術はシャープだけあって、それなりに検討していますが、モニターに映し出されている映像が、二年前に使われていた試作機の映像と同じなのには、正直呆れました。
デジタル・テクノロジーが日進月歩なことは言うまでもありませんが、二年前の古い映像を流していたのでは、肝心の最新8Kモニターの良し悪しがわかりません。

IFAでサムソンが行っていたプレゼンテーションと比べると、見劣りするどころか、説明員に尋ねても投げやりに感じるほどです。

これはシャープに限りませんが、日本の企業は、数字に完全に囚われすぎてしまって、購買者の心を掴めていません。
購買者は、スペックで購入するのではなく、コンテンツを含めた、もっと「情緒的」な動機で商品を購入しています。
なかでもデジタル・テクノロジーは、時間とともに平準化していきますので、結果的に、最終的に残る数字は、価格だけとなります。
皮肉なことですが、多くの日本企業は、あまりに数字を重要視してしまったために、最終的な数字である価格で負けてしまっている現状があります。

これは、製品だけに限らず、企業や日本社会についても同じことが言えます。

数字を最重要視し、数字にできないものは判断基準としないことから、「改ざん」が勃発し、結果的に株価などの他の数字を落とすことにつながっています。
銀行から耐震、そして恐らく税制まで、すべてが「本当かどうかわからない数字」に左右され、責任を数字に押し付ける社会になってしまっているのです。

そこで僕は、この数字にできない代表的なものを「センス」だと常々お話ししています。

「センス」は決して数字にできませんが、だからこそ、現代のビジネスや社会構築で、もっとも重要な「差異化」する要素です。
テレビモニターを技術的な数字だけで追いかければ、どのメーカーもほとんど差異がなくなり、最後は価格だけの勝負となってしまうように、長きに渡ってヒット商品を作り、企業価値を高めるのは、「センス」に他なりません。
ところが、この「センス」は一朝一夕で手に入るものではありません。
それゆえ、僕は「センスなきトップとは仕事もしないし、会わない」とお話ししている次第で、それは、話が噛み合うことがない、時間の無駄だからなのです。

この「センス」を得る方法は様々ですが、一番は経験によるもので、なかでも「失敗の経験」こそ、センスを磨くことができるチャンスだと、経験上実感しています。

しかし、数字に支配された社会では、失敗は許されません。

こうやって、「センスなき疑わしい数字に支配された社会」が出来上がり、商品も企業も停滞し、「誰も幸せにならない未来」へと突入しているのが日本なのだろう、と今週「CETEC」を訪れ、感じました。

さて、肝心のシャープの8Kテレビは、技術力もあって美しい「はず」ですが、今年の「CETEC」を見ても、トキメキを感じることができませんでした。
ここに、普及の本当の鍵があるはずです。

人々は、スペックに代表される数字に左右されるのではなく、あたらしい技術は、「これは、凄い!」と第一に感じるかどうかだけなのですから。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.383 2018年10月19日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 著書のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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