やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

ガースーVS百合子、非常事態宣言を巡る争い


 前回のメルマガの冒頭でも言及しております新型コロナウイルス関連の話ではございますが、続々と情報が集まってきた結果、どうも官房長官の菅義偉さんが「新型コロナウイルスでの国家非常事態宣言に後ろ向き」ということで話が進んでおるようです。

 やはりフェイクニュースでもデマでもなく、東京都から(北海道が独断で行ったような)緊急事態宣言を実施して感染を食い止めたいという要望が安倍政権にあり、総理大臣である安倍晋三さんと小池百合子さんの間でショートトークがあり「官房長官の菅義偉さんが反対しているので、早期の緊急事態宣言は行えない」旨の返答が安倍総理の口からあったことになります。

 何のことはない、菅さんがコロナ対策のための緊急事態宣言をやりたくないというだけなんですよね。NHKもすでに25日にすっぱ抜いていたわけですし(なぜか後に誤テロップとしてお詫び)、3月26日に政令が出て、感染症法33条で必要な交通機関が72時間停止させるという事実上のロックダウンが部分的に強制できるという法的な立て付けは同じです。

パニック的なコロナウイルス騒動が今後社会にもたらすもの

NHK、「国に対策検討お願い」を「緊急事態宣言検討お願い」と字幕誤表示

 そのために政府はすでに3月13日、新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正法を成立させています。この法律に基づいて安倍総理が「緊急事態宣言」を出すと、感染症法に基づいて都道府県の知事に大きな権限が与えられるのは言うまでもありません。日本医師会も感染症対策専門家会議も厚生労働省も、場合によってはアメリカ大使館など海外勢もこの前提で日本が世界と足並みを揃えて感染爆発に対する一致した行動を取るのであろうと思っていたわけですよ。

 私としても、伺っていた話を複数検証して記事を書いていたわけなんですが、やはりこういう動きになっていたのだなあと感慨深いところです。ちなみに、記者会見前の28日、コロナ対策担当相の西村康稔さんと東京都知事の小池百合子さんは本件緊急事態宣言を巡る話で密談をされていたようです。

 その後、今日31日になって、小池百合子さんがアリバイもあって安倍晋三総理に対して緊急事態宣言を「要請」するというニュースが流れるのであります。つまりは、過去2回、まるでスイング練習のような緊急記者会見をやり、どちらもまさに密室で不要不急の「改めての自粛のお願い」をさせられた小池さんとしては、これで万が一東京都で感染爆発をしてしまったとき政治生命を絶たれることを怖れているのだ、と思います。実際には、菅義偉さんが緊急事態宣言をしてくれないので対策が都知事として打てなかったのもまた事実ですから、小池さんとしては早々に緊急事態宣言を国に打ってくれと言っていたのにやってくれなかった、したがって東京でアウトブレイクが起きても私の責任ではないのだ、と言いたいわけです。

小池都知事、国家の判断「今求められている」 緊急事態宣言、安倍首相と面会

 言わずもがな、緊急事態宣言を必要だとしていたのは日本医師会であり、6月に医師会会長の改選を迎える横倉義武さんはもとより、医師会の主だった面々や感染症対策専門家会議のほとんどすべての委員は「早期の国家による緊急事態宣言を求める」という考え方でした。

日医幹部、首都圏「緊急事態宣言してよい状況」

 そこへ、都知事である小池百合子さんが緊急記者会見をする必要の無さそうな自粛要請を2回繰り返すというムーブがあり、ここで、北海道大学の西浦博教授の重要な説明もありました。医療クラスタの意見は「緊急事態宣言を行うべき」で一致しつつも、西浦教授はクラスター対策をしっかり行って、感染拡大を防ぐことのできるギリギリの状態であることを強調しています。

 しかしながら、これらはいわゆる輸入感染者が暗数となり、感染の経路が分からくなると、クラスターによる追跡が困難になり、まず東京で、次いで大阪などの大都市での感染爆発は容易に起きるからこそ、大阪府知事・吉村博文さんなども必死にワイワイ言い、また、福岡でも外出自粛の呼びかけが広がることになります。

 菅さんが緊急事態宣言を怖れる理由も分かります。経済への悪影響は甚大で、本当の意味で日本経済が麻痺してしまえば大変なことになる、もしも緊急事態宣言をせず、感染症法33条による部分的なロックアウトをしないでコロナウイルス禍がやり過ごせるならそれがベストなのは間違いないのです。菅さんの懸念も痛いほど分かるのですが、米ニューヨーク州であれイタリア・ロンバルディアであれ、感染拡大の兆しからわずか3週間ほどで万単位の感染者を出してしまった状況を見れば、衛生環境が違うとはいえ日本でも類似の状況が起きない保証はないのもまた事実です。

 そして、一口に自粛と言っても、いつまでコロナ問題が続くか分からないところで休業に追い込まれる飲食店、ナイトクラブ(ダンスクラブ)や映画館・劇場に対する補償の問題はついて回ります。遅れ馳せながら、厚生労働省から売上が下がっても雇用を維持する法人に対して90%の補助を行う段取りが出始めましたし、政策金融公庫や商工中金など政府系金融では実質上現金返済の要らない低利融資を行う旨の発表がありました。しかしながら、これらはあれこれ条件が厳しく、好き勝手に経営することの多いサービス業のような事業体からするとなかなかハードルの高い書類を揃える必要があるようで、大変そうな趣もあります。

 また、現金給付案もさまざま検討されている一方、実際には政府は国民一人ひとりの口座を知りません。カネを出そうにも確認する術がないので、実際にお金が振り込まれるのは5月以降になるのではないか、という話が出てきています。今日明日のお金が足りない国民が出てくるところで悠長なことをやっていていいのか、という文句もあるのかもしれませんが、マイナンバー然り国民管理方法に関しては「国家による国民の監視、統制に繋がる」として反対する人々がいっぱいいたこともあって、こういう大事な時に何もできない国家になってしまっていました。

 いろいろ非常に残念な状況になっているのは間違いないですし、官邸が悪いとか、特定の誰かの問題だと指弾しても始まらない問題であって、誰も悪くないのに誰かが悪くなければならない、誰かがデマを流した、誰かが要請を聞き入れなかったと悪者探しをしていれば収まる状況でもないのです。目の前の国民がコロナウイルスに罹患してしばらく具合が悪い、場合によっては誰かにとって大切な人が本当に死んでしまうという危機感をもって最適解を求めて前向きに話し合いを続けて一個一個踏み越えて対処していく以外に方法はないのでしょう。

 というわけで、私個人としては、菅義偉さんの気持ちも分かるけど今回は小池百合子さんの非常事態宣言をするべきという立場を支持します。もちろん、緊急事態宣言をせずに物事が丸く収まるのだ、ということであれば結構ですが、それはひとえに安倍晋三さんの豪運に国民全員の健康と生命をベットすることに他ならないのであって、安倍さんを信じるとしても信じる方向性が違うのではないでしょうか。

 戦後最長の宰相・安倍晋三さんの有事で決断できる能力を信じるならまだしも、安倍ちゃんの豪運を信じるだなんて……。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.292 諸々の思惑が交錯する例の非常事態宣言について考えつつ、香川県ネット・ゲーム規制条例や謎の5月解散7月総選挙話に触れる回
2020年3月31日発行号 目次
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【0. 序文】ガースーVS百合子、非常事態宣言を巡る争い
【1. インシデント1】香川県ネット・ゲーム規制条例が生まれるに至った背景などを考える
【2. インシデント2】いきなり流れる、謎の5月解散7月総選挙話について
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【4. オフィシャルnote投稿から】世界経済の死に方

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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