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『木屋町DARUMA』そして初のピンク映画!榊英雄監督ロングインタビュー

俳優でもある榊英雄が、昨年のジョージ秋山原作『捨てがたき人々』に続いて放つ監督作が、現在公開中の『木屋町DARUMA』。

裏社会ライターとして知られる丸野裕行による小説が原作だが、その内容はあまりに過激だとタブー視され、紙媒体では刊行を拒否された「発禁小説」だという。

前作『捨てがたき人々』で、原作にはない、ヒロインの顔に痣があるという要素を加味し、それが公害病によるものだという裏設定を考えたと聞いた時、「普通は原作の角をまるめて映画にするだろうに、この監督は攻めてるな!」と思った。

今回も四肢のない男を主人公にして、題名が「ダルマ=DARUMA」と来た。タブーを含む内容を隠すのではなく、「逃げも隠れもしない」という態度。

そして榊監督は、『オナニーシスター/たぎる肉壺』で、初のピンク映画にも挑戦。この作品はR‐18作品として10月16日から22日にかけてピンク映画専門館で公開された後、R‐15版が一般劇場でも公開される予定になっている。

普通はピンク映画の世界から一般映画に這い上がっていこうとするものなのに、一般映画で知られている人間が、自らピンクを撮る。ここにも、榊監督の「攻め」の姿勢が伺える。

あえて火中の栗を拾う、攻めの男・榊英雄とは、いったいどんな人物なのか?

 

最初に画が浮かんだ

取材の時、『木屋町DARUMA』のポスターの前で、榊監督の写真を撮らせて頂いた。
遠藤憲一がギラギラした目でこちらを見つめているポスターだ。まるで「お前ら、ごまかして生きてんじゃねえよ!」と映画の世界の中から挑んできているように。


榊英雄 どっから見ても目が合うんですよね。いまも睨まれてるみたい。「(インタビューで)余計な事話すなよ」って。

―― 今回の映画を撮りたいと思ったきっかけを教えてください。

 丸野裕行さんが書かれた電子書籍を読ませてもらって、すごく映像が浮かんだって言うか、イメージが湧いたので「これで行けるんじゃないか」っていう。

―― その浮かんだ画は映像化もされたんでしょうか。

 僕が確実に映像化して撮りたかったのは、オーラスで遠藤憲一さんが颯爽と、普通の身体で歩くんですよ。最後に。あれを撮りたかったんですよ。

―― 「四肢のない男」を演じた遠藤憲一さんが、四肢のある状態が浮かんだんですね。

 最後に、遠藤さん演じるヤクザの勝浦が颯爽と、手と足の長い姿でスマートに、木屋町を歩く姿を撮りたかった。それがどうしてもイメージにあって。

周りのスタッフたちからは「最後にそういうのが入るとセンチになりすぎるかもしれません」っていう意見もあったんですけど、勝浦が、最後もう死ぬかどうかわかんない時に、それでも、ちょっとでも「まだまだや」って前進しようとする後の画で、ポーンと俯瞰で終わった後、どうしても勝浦が歩く画がないと、俺ン中では終わんないので……という事で。

―― それだけ、原作読んで、遠藤憲一さん演じる勝浦っていう男に入れ込んでたのでしょうか。

 入れ込みますよねえ。ある意味、勝ちも負けも全てを知ってあの状況……今に甘んじているじゃないですか。

―― ヤクザの抗争で手足を奪われ、自分をそう追いやった状況にも、単に敵味方といえない複雑なものがある。真相は映画の中で次第に明らかにされるわけですが、勝浦はそこにいちいち動揺せず、身ひとつでゴロンと転がっているような……。

 どんな状況においても、飽くなき生への欲望というか……やっぱ、メッセージでしょうね。生きて生きて、前のめりに死ぬみたいな。どっか……九州人ですけど、僕は。そういうノリみたいなのがあるんですよね。

亀のモチーフも入れたり。亀に追い抜かれながらも、自分も亀に名前を付けて過ごすという。
どっか達磨大師のように……。

―― 勝浦の部屋に達磨大師(中国禅宗の開祖とされているインド人仏教僧。嵩山少林寺において壁に向かって9年坐禅を続けたとされている)の絵が貼ってありましたね。

 おそらくあれを勝浦も見て日々を過ごした状況があるよなっていう。あまり描かずに、それだけで見せたかったんですけど。

僕の中では……僕だけの自己満なんですけど、僕がああいう境遇だったら、たぶん壁の中の達磨大師を神棚のように……時折たまにあの達磨を見て何かを思うっていうだけで僕の中でひとつ表象図が出来たっていう気がしますよね。

あと、勝浦が1人家に居て、メシ喰ってる時に、どうしても自分のエネルギーがマグマのように出る瞬間を撮りたいって言って。

遠藤さんに納得して頂いて、追加のシーン撮ったんです。食べていたものをバーンとひっくり返した後、冷静になって、散らばったご飯を……腹も減ってるんでしょう、喰わなきゃいけないと。

「そこをあらためて這い回って食べるっていうところに、人間が見えるような気がするんですよね」って言って、納得して演ってもらったんですよ。

 

子宮の側を見るのか、子宮から見るのか


『木屋町DARUMA』より。勝浦の弟分・坂本は介護役も引き受ける。手前から遠藤憲一、三浦誠己
 
―― 勝浦と、三浦誠己さん演じる弟分の坂本の関係も面白かったです。
手足のない勝浦の介護をさせられている事の不満もありながら、最後には勝浦と表裏一体の人生を送りたいとまで思うようになる。
 あの坂本のポジションなんですけど、『捨てがたき人々』から『木屋町DARUMA』『オナニーシスター/たぎる肉壺』と3本見せていただいて、榊作品として共通するものを感じたんです。
たとえば『捨てがたき人々』のヒロイン・京子(三輪ひとみ)は、主人公のコンプレックスだらけのダメ人間・狸穴(大森南朋)に対して「自分が救っているんだ」っていう意識を持っていて、『オナニーシスター』ではヒロインのシスター(三田羽衣)が老人男性の介護をしています。今度の坂本も……彼の場合、勝浦とは男同士でもあるし、介護もしたくてしてるんじゃないにしても……主人公を包摂するポジションになっていますよね。

 ああ、なるほど。なんか似てますよね。

偶然ということもあれば、どっか無意識に……僕は男なので、聖なる女性、母性みたいなものって憧れますよね。

昨日たまたま『木屋町』の宣伝のために出たラジオの収録で「やっぱり男っちゅうのは、たまには女性の膝枕で横になって泣きたいもんですよ」っていう話になって、でもそれを膝枕で、外側を向いて見るのか、彼女の……女性の方の子宮の方を向いてやるのかで、えらい違うドラマがあるなっていう話で盛り上がったんですよ。

つまり僕は、お腹側を向いて見る事にどうしても原点があるような感じがして。
どっか母胎回帰というか、そういうところにすごい思いがあるのかも知んないですよね。

『オナニー・シスター』の場合は、ちょっと変態なヘルパーが出てきますけど、でもそういう表の事だけじゃなくて、裏はもっと奥深い、慈愛に満ちた女性だと思うし、なんか僕はそういうところで救いを求めている気で生きてた時期もあったし。

そういう意味では『捨てがたき人々』で最後に流れる「蜘蛛の糸」っていう、妻(榊夫人でシンガーソングライターの榊いずみ/旧姓:橘)が作った歌っていうのは、僕にとってのメッセージですよね。

―― 生涯かけて一人の人を愛して、守り抜きたいのに、なぜそれが出来ないんだろう?……という。

 芥川(龍之介)の蜘蛛の糸はちぎれてしまいますけど、出来ればちぎれないように、結局そこは闇の中に照らされる光のように、見えてくる感じがするんで。

なんか僕はどっか『捨てがたき』撮った前後からそういうところに意識があるというか。たぶんそういう潜在意識があるのかもしれないですよね。

たぶん不安ですよね、いま。
「40にして惑わず」って事を歴史上の先輩が言ってますけど、無理ですよね。

惑って、惑って、どうしよう。不安でどうしよう……このまま死ぬのか。どうしよう。どうやって生きて死ぬのか?……っていうところがたぶん42ぐらいで、ぐわあっと。そのぐわあっというものを、映画を撮る事によってなんとか乗り切ったのが『捨てがたき人々』なんですよ。

良い意味での疲れで、すごい逞しくなったし、こっから一周してもう一度改めて俳優道、監督道みたいなことを見つめ直すっていうか、激しく頑張ろうぜっていう、自分のスタートラインだったんですね。

だから『木屋町』に関してもたぶんそういう方向に行ったというか。
なんか答え探し、自分探しがどうしても映画の中のテーマにある。僕にとっては。

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切通理作
1964年東京都生まれ。文化批評。編集者を経て1993年『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』で著作デビュー。批評集として『お前がセカイを殺したいなら』『ある朝、セカイは死んでいた』『情緒論~セカイをそのまま見るということ』で映画、コミック、音楽、文学、社会問題とジャンルをクロスオーバーした<セカイ>三部作を成す。『宮崎駿の<世界>』でサントリー学芸賞受賞。続いて『山田洋次の〈世界〉 幻風景を追って』を刊行。「キネマ旬報」「映画秘宝」「映画芸術」等に映画・テレビドラマ評や映画人への取材記事、「文学界」「群像」等に文芸批評を執筆。「朝日新聞」「毎日新聞」「日本経済新聞」「産経新聞」「週刊朝日」「週刊文春」「中央公論」などで時評・書評・コラムを執筆。特撮・アニメについての執筆も多く「東映ヒーローMAX」「ハイパーホビー」「特撮ニュータイプ」等で執筆。『地球はウルトラマンの星』『特撮黙示録』『ぼくの命を救ってくれなかったエヴァへ』等の著書・編著もある。

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