切通理作
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切通理作メールマガジン「映画の友よ」

『木屋町DARUMA』そして初のピンク映画!榊英雄監督ロングインタビュー

「違うんだよ榊くん!」遠藤憲一とのバトル


『木屋町DARUMA』より。勝浦(遠藤憲一)は胸中、何を思う?
 
―― 『木屋町DARUMA』での勝浦のパワーのありどころというのを、もし言葉にするとしたらどんなところなのでしょうか。

 「すべてを知って、よく哲学者的に浮世離れした感じになれるな」ってのは疑問なんです。僕も。

僕自身がわかんない。映画作る時僕はそういうタイプなんですけど。おそらく僕はありようというか、演出の中で明確に、すべてがを100%網羅して看破して撮れる人ではないんですよ。

遠藤憲一さんだったから勝浦が成立したと思うんです。逆算すると。
なぜなんだろうと思うと、それは結局人間力でしかなくて。

なぜ「お前ガラクタじゃあ」って言われた時に、あんなに炎がついたような生命力でまたかぶりつくのか。

―― 谷口高史さん演じる借金債務者のところに取り立てに言った時に、そう言い返される場面ですね。「お前こそガラクタじゃあ」と。そこで手足のない勝浦が猛然と食らいついて、図突きをかます。

 あそこでまた現場が止まったんです。俺と遠藤さんの解釈の違いで。

「やくざとかそういうんじゃないんだ、いま人間の生命力で暴れたいんだよ榊く~ん」。俺はどっかその中で演じてほしいって言うか、つまり取り立て屋だから、その「演じてる」って枠を越えて欲しくないと思っていたんです。

けれど、「違うんだよ榊くん、監督違うんだよ!」と。もう頑として譲らないです。ちょっとした事ですけど。

「いくらやくざでも、殴られている時に、人間としての本能として、『この野郎』ってなってると思うんですよね」って言われて、「そうだなあ。字面の想像力を越えるんだなあ」と。

つまり、もはやもう取り立てでもなんでもなくて、理屈じゃないって事。

―― 理屈だと取り立てのためなんだから、そこは怖い「演技」をしなきゃいけない……。

 そう俺は組み立てた。
「監督それはわかる。でももはやそれはここではないよ。前半のウンコはわかるけどさ。ここは違うと思うんだよね」って言うんです。

―― 映画の中で最初に描かれる取り立てシーンで、勝浦がわざとウンコ洩らすこところがあったわけですよね。あっちは演技だけれども、今度は違うと……。

 「じゃあ監督、お互い納得するまで話そう」って。遠藤さんも、そこはもう、ちょっとでも気持ち悪いと出来ないタイプだから。そこまで激しく理解してやりたいっていう時に……だから答えにちょっと近いかわかんないですけど、そこなんですよね。

その遠藤さんの芝居見ると「意地」ですよね。

たぶん、相手からすれば、手足含めてお前にはもう何もないんだなって言われても、あるような気がしてしょうがないんじゃないですかねえ。そこの落差と自分は戦ってるみたいな。幻影と。

 

監督の仕事は「願掛け」である!?

 だから台本を全部信じていないですよ。失礼ですけど、自分で作っておきながら。
でも「何かな?」「何かな?」って、最後まで右往左往するタイプですね。

たしかにここで「勝浦、歩く」って書いてあるんだけど、なぜ歩くんだろう。「歩く」って書いてあるのがコレ正しいかどうかを、ギリギリまで悩むというか。

つまり結局、現場の中で余白の部分作っとかないと、やっぱどうしても修正効かないと思うんですよね。もっと違うドラマが生まれるというか。

『木屋町』も、たとえば寺島(進)さんの、情けない役ってなかなかないじゃないですか。

―― 映画の中で最初に描かれる、勝浦に取り立てられる債務者を寺島さんが演じられてますね。以降、どんどん堕とされていくさまが描かれます。

 寺島さんが「あれ演じたい」っておっしゃってくださって。わあーって、女々しく泣いて。あんなも奥歯の歯が取れんやろって、リアルに。「いや、奥歯の歯が折れんねん。僕の映画だからいい」って言ってんすけど。

ただ、あの男が「地べたにはいずり回って謝って泣く」って書いてあっても、寺島さんが実際に演じた方が遥かに余白があって素敵だった。

なんかやっぱりそこで起こる偶然性とか瞬発力とか、神が落ちてくる細部の瞬間って大事じゃないですか。

で、紡がなきゃいけない物語のテキストがあって、そことうまく乖離しない流れを作るのが難しいですよね。

どっか、カメラの前で起こる物事を、事象を、なんか願掛けで祈ってるようなもんですよ、監督って。
一応台本と打ち合わせやって、後は「(祈る仕草)……OK!」

―― 何かが起こってくれと。

 そうそう。「起こってくれ」と。もちろんセリフもわかってる。段取りもわかってる。でもそこに何か「サムシングだよね」っていうところを、たぶん、演者の方もカメラマンの方も、録音も照明も思ってるわけです。

それが100シーンあったら、全部100シーン勝ちを狙うと疲れてしまうし、そういう映画はなかなかないんですけど、どうしても勝たなきゃいけないシーンとか、どうしても神が降りてこないといけないシーンは絶対撮らなきゃいけないですよね。

 

堂々と戦える神経戦としての映画


『木屋町DARUMA』より。四肢のない勝浦に制圧される一家 左より遠藤憲一、寺島進、烏丸せつこ、武田梨奈
 
―― 今回、勝たなきゃいけなかったシーンというのは?

 オープニングシーンがまず。ツカミのシーンですよね。

―― 通行人が木屋川に立ちションするシーンですか。何度もタイミングをリテイクされたって、宣伝担当の方から先ほど伺いましたが……。

 その立ちションから、勝浦がウンコ洩らす取り立てのシーンまでですね。

―― 寺島進さんが烏丸せつこさん演じる姉と住んでいる家に、勝浦がポーンと放り込まれる。そこに娘の武田梨奈さんが帰ってきて、手足のない勝浦に3人が牛耳られてしまうシーンですね。

 あそこの長いシーンは、やっぱ「どんな映画だ」という、世界観に引きずり込むっていうシーンなんで。このシーンは絶対「勝たなきゃならない」って言ってました。

だからそれぞれの俳優さんたちにけっこう厳しく「目線がブレてます、寺島さん」「遠藤さん、そこ動かないで!」「武田(梨奈)ー、動け!」みたいな。

四肢のない男が、3人の家族を目の前に戦うわけでしょ。それはやっぱ相当の迫力がないと。

寺島さんが思わず武田さん演じる娘を庇おうとしたら「動くんじゃなーい!」っていう、勝浦の一喝も勝負でしたよね。

結局カメラの前で寺島さんが左右どっちに行くかっていうだけでも……寺島さんからすれば芝居しやすい方に視線動くんですけど、僕は寺島さんに動いてくれと。

つまりカメラの前、寺島さんがどっちに居るかによって、遠藤さんがその方を見るんで。

そこをやっぱり端折って、目線だけつながってりゃいいじゃなくて、動く中で、「動くんじゃない!」って勝浦の一言がバサッと来ないといけない。

そこにピント合わせなきゃいけない。こっちはカメラマンに「ピントずらすなよ」って言うし。このきっかけがないと絶対あのテンション出ないから。

細かいそういうとこの戦いがね、映画って神経戦なんですよね。
「あ、こいつダメだな」って、お互い思われないように、堂々と戦うっていうか。そこ、手を抜かないで。

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切通理作
1964年東京都生まれ。文化批評。編集者を経て1993年『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』で著作デビュー。批評集として『お前がセカイを殺したいなら』『ある朝、セカイは死んでいた』『情緒論~セカイをそのまま見るということ』で映画、コミック、音楽、文学、社会問題とジャンルをクロスオーバーした<セカイ>三部作を成す。『宮崎駿の<世界>』でサントリー学芸賞受賞。続いて『山田洋次の〈世界〉 幻風景を追って』を刊行。「キネマ旬報」「映画秘宝」「映画芸術」等に映画・テレビドラマ評や映画人への取材記事、「文学界」「群像」等に文芸批評を執筆。「朝日新聞」「毎日新聞」「日本経済新聞」「産経新聞」「週刊朝日」「週刊文春」「中央公論」などで時評・書評・コラムを執筆。特撮・アニメについての執筆も多く「東映ヒーローMAX」「ハイパーホビー」「特撮ニュータイプ」等で執筆。『地球はウルトラマンの星』『特撮黙示録』『ぼくの命を救ってくれなかったエヴァへ』等の著書・編著もある。

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