名越康文
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名越康文メルマガ『生きるための対話』より

ダイエットが必ず失敗する理由

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レコーディングダイエットはなぜ革命的だったのか

ダイエット企画というのは何があっても絶対なくなりません。雑誌でもテレビでも、ダイエット企画には常に需要がある。その事実が何を表しているかといえば、どれほど新たなダイエット法が生み出されても、常に多くの(もしかしたらほとんどの)方が、ダイエットに失敗している、ということだと思います。

数多あるダイエット法の中で僕は、数年前に岡田斗司夫さんが『いつまでもデブと思うなよ』 (新潮新書)で紹介されてブームになった「レコーディングダイエット」という手法が、他のダイエット法とはちょっと異なる性質を持つものだったと思っています。

「はちみつリンゴダイエット」とか「納豆ダイエット」、あるいはウォーキングや筋トレなど各種トレーニングによるダイエットと、レコーディングダイエットとの間にある本質的な違いは、レコーディングダイエットが人間の「認識の力」に焦点をあてたものだということにあります。

ご存知ない方のために簡単に説明しておくと、レコーディングダイエットというのは、文字通り「記録」(レコーディング)によるダイエットです。食べたもの、そのカロリー、そして自分の体重の変化を記録する。その際、「良い、悪い」とか「成功、失敗」といった価値判断をとりあえず括弧に入れて、「現実をそのまま正しく認識する」ということに眼目が置かれるのが特徴です。

正しく自分の状況を認識することができると、例えば自分の食生活のどこに太る原因があるのか、やせるにはどうしたらいいのかが自然と見えてくる。そうすると、食べるものを変えるなり、減らすなり、行動を変えていくことができる。レコーディングダイエットの基本は、こういう考え方です。

他のダイエット法が「○○を食べる」とか「1日5分、○○をする」という行動によってやせようとするのに対して、レコーディングダイエットでは、「このトンカツを食べたら何キロカロリーになるのか」「白米がこれくらいだと何キロカロリーで、同じ量の玄米だとどうなのか」といった知識を身につけ、自分の認識を変えることに焦点をあてるわけです。

現実から目を背けてやみくもにダイエットに取り組むのは、「やっている気分」にはなるかもしれないけれど、実際の行動としては非効率で、無駄が多いものに終わっていることが多い。むしろ、認識を研ぎ澄ますことで、行動、あるいは結果が大きく変わってくるということがある。

もちろん、レコーディングダイエットでも、最終的には食事量を減らすなり、運動をするなり、具体的な行動が伴わなければ体重は減らない、とされています。でも、「正確な認識なしに人間は正しい行動を取ることができない」「認識に着目しないかぎり、ダイエットは成功しない」という考えに軸足を置いている点で、やはりレコーディングダイエットは他の方法論とは一線を画しているといえると思うんです。

「認識を変える」ことそのものに力がある

ここまでは比較的、常識的な話ではないかと思いますが、僕はここからあえて踏み込んだ暴論を申し上げたいと思います(ついてきてくださいね(笑))。それは「現実を芯のところで捉えるような研ぎ澄まされた“認識”には、それ自体に、現実を変える力が備わっているんじゃないか」ということです。

例えば、僕のが医者だったころに受けた医学教育では、基本的に「診断」と「治療」は別個のものと考えられていました。だからこそ、「診断はついたけど有効な治療法がない」といったことが起きる。この考え方は、それはそれで正しいし、少なからず成果をあげてきた方法論なんですが、一方で、こうした考え方はそもそも「認識」がもつ力、その可能性を甘く見積もってきた可能性があると思うんです。

なぜあえてこんなことを申し上げているかというと、いまの世の中は、あまりにも「方法論偏重」だと考えるからです。リンゴダイエットや納豆ダイエットはもちろん、筋力トレーニングやエクササイズなど、どれをみても方法論についてばかり語り、認識にはほとんど光をあてません。

僕は、「認識」にはもっと豊穣な可能性があると思います。一般的には認識は静的なもので、行動が動的なものだと思われているけれど、本当は認識を変えることにこそ、現実を動かすパワーがある。

逆にいえば、認識論を伴わない小手先の方法論は、必ず陳腐化してしまうと思うんです。例えばリンゴダイエットだったら、リンゴを食べた後に自分の身体感覚にどういう変化が生じるのか、食欲はどう変化するのか、心の状態はどうか……といったことをモニタリングしていくような、認識に着目したメソッドを盛り込んでいるならば、有効かもしれません。

しかしながら、いわゆる「○○ダイエット」では、まずそういう視点は強調されません。というよりも、むしろその逆のベクトルを強調することで、多くの人に受け入れられている側面がある。

というのも、認識を軽視することによって、僕らは現実を直視せずに済むからです。

人間は弱いので、なかなか自ら「現実を直視したい」とは思わないものです。「○○さえやればいい」という方法論は、そういう人間の心の弱い部分をうまくついています。思考停止への誘惑によって、僕らは方法論にはまるんです。

確かに、認識の力に着目し、それを伸ばしていくのは多くの人にとっては面倒かもしれません。レコーディングダイエットが一時ブームになっても、今となってはさほど多くの人を信奉させるに至っていない背景には、認識の問題を真正面から扱ってしまった、ということがあるのかもしれません。

それだけ、認識の問題を取り扱うのは多くの人にとって面倒だということでしょうし、それだけ、レコーディングダイエットが、ある種の本質をついていた、ということでもある。

しかし、認識の力を磨くということをさぼってしまうと、せっかく人間に備わっている巨大な能力の一部分しか使えないことになります。それは、ダイエットの成功、不成功以前に、人の活動として、ちっともアクティヴじゃないし、もったいないと思うんです。

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名越康文
1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、京都精華大学客員教授。 専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:大阪府立精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。 著書に『心がフッと軽くなる「瞬間の心理学」』(角川SSC新書、2010)、『毎日トクしている人の秘密』(PHP、2012)、『自分を支える心の技法 対人関係を変える9つのレッスン』(医学書院、2012)、『質問です。』(飛鳥新社、2013)、『驚く力 さえない毎日から抜け出す64のヒント』(夜間飛行、2013)などがある。 名越康文公式サイト「精神科医・名越康文の研究室」 http://nakoshiyasufumi.net/

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