やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

リベラルの自家撞着と立憲民主党の相克


 先日来、アメリカのリベラル運動がwoke(目覚め)というキーワードで不寛容と分断に向かうキャンセルカルチャーを先導しているのではないかということで騒ぎになり、それへの解説本ということで強烈な批評が加わる事態となりまして。

 私も専門外ではありつつも話題の本を読んでみたら実に面白い。見慣れない単語はありつつも、いろいろと膝打ちする点も多いわけであります。

Cynical Theories: How Activist Scholarship Made Everything about Race, Gender, and Identity―and Why This Harms Everybody
https://www.amazon.com/dp/1634312023

 広義のリベラリズムが浸透するにしたがって先鋭化した左派運動的なリベラル運動となり、ポストモダニズムと連動することで社会正義運動へと発展(先鋭化)してきたという論旨で、これへのカウンターをリベラリストの観点からやりましょうというネタであり非常に納得感というか「まあそうですね」という感じになるわけですよ。

 で、ここから先は私の「バイト的商業物書き」の興味本位の話になるわけですけれども、抑圧を見えるようにすることで社会的な不正義を「発見」し、それを改善するための正義運動へと転換するのは常道であると同時に、それらの問題をクローズアップすることでわずかな差異や我慢さえも社会的抑圧&権力批判の文脈で取り上げて是正を声高に要求することがwokeに繋がっている面はあると思うんですよ。

 例えば、(これは文春など商業媒体に書くほうが適切かもしれませんけれども)ツイフェミ問題について議論をするときに、私なんかだと「何故それを問題視するのか」という話は出てきます。広告表現で少しでも女性蔑視的なニュアンスが感じ取れたならばそれをバッシングしたり、献血で胸の大きい女の子のオタ絵を発見して公共の場でこれは相応しくないと騒ぐようなノリのやつです。

 あるいは、もっと歴史的文脈の中で概ね許容されてきたもの(例えばイルカ狩りとか)をNGとしたり、古い映画で当時当たり前であった喫煙やDVシーンがコンテンツ前後に但し書きとして許容を求める文言を挿入するなど、一言で言えば「それをいちいち間に受ける馬鹿がどこにいるのか?」という問題を常にはらんだ問題だろうと思うわけです。

 また、こういうことを書くと「山本さんは保守主義者で家長主義的な強権家だ」みたいなことを言われるわけですけど、そういう社会正義運動で語られる内容は、ネットで騒ぎになるまで気づかないことも多く、そして気づかないことこそ差別する側やイジメる側は被差別や被イジメに鈍感だという文脈で批判されることになります。

 かつては、生ビールの宣伝に水着の女性が起用されてきてキャンペーンガールの系譜があったことをビール会社にクレームを付けた女性団体がこれを撤回させ「戦勝」報告をしようとしたり、コンビニの総菜ブランドで「おかあさん食堂」があれば家事厨房を行うのは女性というジェンダーロールを強要しているとなれば場合によってはリブランドされるのですが、これは果たして社会をより良くするものなのか、単にお前らの気に入らないことに正義のラベルを付けて強弁しているだけなのではないかとも思うのですよ。

 さらに、欧米におけるリベラル運動はwokeの文脈でなくとも常にデモやストライキを起こしながらも一定の解決による融合を目指すのにたいし、そもそも日本のJリベラルは本来別段そこまでの差異のない日本人同士のささやかな違いを見つけ出して問題視し、分断を図るという点でより悪質なのではないかと保守主義者の目から見ると思います。

 そこには、あらゆる性別、出自、経歴、職業などなどの人間が、何らの抑圧も我慢もなく社会生活を送ることなどできないという暗黙の了解を、いちいちこれはアウト、これはセーフとことさらに問い直し、それに対して納得のいく回答が無ければジェンダー差別だ抑圧的だ強権的だミソジニーだとラベルを貼り攻撃するかのごとき問題を引き起こすのは特に問題が大きくなってきたなと感じるところです。

 もちろん、ここで反論する側が「バカ女は黙ってろ」的な文脈で否定することでどんどん劣勢になっていった経緯もさることながら、暗黙の了解は暗黙の了解でいいのだ、それはさして大事な問題ではないのだという論考をしっかりと出していくべきだったのですが、残念なことにそれそのものはあまりうまくいきませんでした。

 ところが、今回衆議院選になり、上記の問題を「浸透した社会問題である」と派手に誤認した立憲民主党が選挙政策主張の主要項目の一つにジェンダー問題を押し込み、結果として一部若年層以外は主要論点に挙がらず、結果として立憲民主党が野党共闘などさまざまな枠組みを構築したにも関わらず現有議席を減らして勢力を維持できず枝野幸男代表体制の崩壊に至ったというのは特筆されるべきことです。単純に言えば、明確にジェンダー問題にNOというよりは、騒がれる割に誰も重要な問題とまでは思っていなかったことの証左でもあります。

 ここに、環境問題や反原発、沖縄の基地問題、外国人入管暴行問題などなど、我が国の抱える権力構造と失政の問題へと繋がっていきます。単純な話、本当に失政なのは間違いないので原発事故も沖縄基地もちゃんとやれという気持ちは保守主義者の私にもあるわけですが、だからと言って、反権力や社会正義運動の文脈でプラカード掲げて官邸デモまでやるかと言われるとやらないわけです。

 他方、これらの運動の高齢化は課題であって、立憲民主党や共産党の支持動向を見る限りでは残念ながら高齢者の政党へとどんどんシフトしていっているのは鮮明なことです。なので、やはり先般のSEALDs運動など若い人の参画を促す仕組みを、ちゃんと若い人たち「だけ」でやりきる必要があるだろうとか、結局は支持母体は労働組合や共産党組織のようなおカネとヒトが回る仕組みを用意して選挙活動を支えなければ、労働組合からの支持を失って長期低迷し党消滅の危機に至る旧社会党(現・社民党)の結末も想定されると思うのです。

 いわゆるリベラル的価値観については、米山隆一さんのいう「余裕のある趣味の政治領域」と解されても仕方がない面もあり、社会をより良くする運動であるならば賛同も増えるでしょうがそうでもないあたりでやはり生活保守の観点からすれば遠くにある論点なのだろうなあという話を書いている途中で温泉むすめの話題が勃発して、みんな懲りないなあと思う今日この頃でありました。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.351 このところのリベラル界隈のあれこれを思案しつつ、中国裏ビジネス組織の正体や安全保障絡みのクラウドについて触れる回
2021年11月28日発行号 目次
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【0. 序文】リベラルの自家撞着と立憲民主党の相克
【1. インシデント1】Amazon中華サクラレビュー業者と中国地方政府の意外な関係
【2. インシデント2】国家のデータをクラウドに預ける時代
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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